パソコン周辺機器メーカーのアイ・オー・データ機器は、デジタル家電との融合を加速させる。パソコンとデジタル家電をネットワークでつなぎ、大容量のストレージでデータを共有するなど、新しい周辺機器の需要開拓に力を入れる。企業顧客向けも割安でスピーディーな製品戦略を展開することでビジネス拡大を目指す。ライバルメーカーとの激しい価格競争で苦戦するが、付加価値の高い製品を意欲的に増やしており、業績回復にも手応えを感じている。
規模がすべてではない 強みは何かを徹底追求
──ライバルメーカーが海外展開を加速させるなど規模の拡大を進めています。パソコン周辺機器におけるトップグループの勢力図が今後、弱まっていくのではないですか。
細野 ビジネスのボリュームを追求するのであれば、海外を攻めない手はない。国内市場は限られており、パソコンの販売台数だけでみれば頭打ちです。ここだけで戦っていると価格競争に巻き込まれやすい。昨年度(2007年6月期)は3か年中期経営計画のスタートの年でしたが、とても不本意ながら営業利益ベースでの赤字を脱することができませんでした。
じゃあ、年商ベースで今の600億円強よりも1500億あるいは2000億円のほうがいいのかといえば、少なくとも現時点ではそうではないと思っています。部材の購買ボリュームが増えることで仕入れ価格の交渉が有利になるなどのメリットがよく語られますが、本質的な問題ではない。メーカーの原点は他社と本当に差別化が可能な製品をつくれるかどうかにあるわけで、ここに集中すべきです。
──御社は米国市場での販売を縮小させています。ライバルも欧米市場では苦戦しているようですが、それでも海外で年商200億円を超える規模に成長しています。
細野 1年ほど前から米国市場で新規顧客の開拓を休止しているのは事実です。数年前までは海外で数億円を売り上げるまで拡大させましたが、それでも二ケタ億円までは行きませんでした。日本と米国の市場ニーズが違うことはもちろんですが、サポート・サービス網を自前で持ちきれなかったことが、米国での事業をいったん縮小させた大きな理由のひとつです。ストレージ系などは長期にわたってサポートする必要があり、中途半端なまま進むのは得策ではないと判断しました。
──では、どうすれば競争力ある商品開発が可能なのでしょうか。昨年度の赤字幅は減ったとはいえ、今年度の営業利益率の見通しはまだ1%程度にとどまっています。
細野 パソコン周辺機器メーカーは、手頃な価格の製品をタイムリーに提供することが求められています。ストレージといっても、世界大手のEMCには勝てませんし、ネットワーク機器もシスコシステムズには及びません。今すぐEMCやシスコになろうとするのは間違いです。彼らよりも安い価格で、高性能、高品質な製品をスピード感をもって出していくところに勝ち目がある。
当社製品はコンシューマだけでなく、企業顧客からも高い支持を得ており、昨年度売上高の半分近くが企業顧客で占められています。本来ならば企業向けの売上高比率を6割ほどに高めたいと思っているほどで、この分野に向けた製品開発を強化する方針です。企業向けは購買単価も上がりますし、その分、利益も得やすい。
営業利益率については、過去、最もいいときで5─7%。今期見通しは低すぎますが、仮に今、営業利益率を10%稼げたとしても、その半分は研究開発投資に回します。利益重視の株主の皆さまには申し上げにくいことですが、メーカーである以上、ライバル他社と似たような製品を出していては、海外はもとより、国内でも勝てません。
──粗利だけで見れば、サプライ用品が高いといわれています。ライバルがこの分野に進出しています。
細野 わたしも含めて、社内の誰もライバルのメルコグループに負けているとは思っていません。精密機器メーカーとしての本分は、サプライ用品に進出したり、海外での売り上げを競うこととは違うように思います。アイ・オー・データ機器らしい尖った製品をつくることがコアコンピタンスであり、ここでの勝負は決して負けていない。
過去10年間の業績推移を振り返ると、ライバル他社と似たような製品しか出せていない時期は利益が下がり、差別化できる特徴ある商品を出せている時には利益が上がっています。業績は着実に回復傾向にあります。まだ十分ではありませんが、ライバル他社が開発していない製品が徐々に揃ってきたことの成果だと手応えを感じています。
守りに入ったら負ける 今こそ尖った製品必要
──昔からアイ・オー・データ機器は、あっと驚く、かなり冒険的な商品を業界に先駆けて出すというイメージが強い。とはいえ、パソコン新興期ならともかく、今や家電との境界が急速になくなりつつある成熟市場でしょう。尖りすぎる必要はないのでは。
細野 それは違います。逆に家電メーカーの動きが遅いのに苛立っているほどです。パソコンがどんどんデジタル家電化していることは事実であり、むしろ歓迎すべきことです。しかし、ただ〝家電化〟したのでは意味がない。パソコンやインターネットともっと融合して、まったく別のものに変わるくらいの勢いが求められているのです。
たとえば、携帯オーディオプレーヤーのiPodを思い浮べてください。携帯オーディオは日本の家電メーカーのお家芸のようなもので、最も強かった部分です。ところが、音楽をネットで配信することについて、あまりにも保守的になりすぎた。家電メーカーはつくる技術を十分に持っているにもかかわらず商品開発が遅れた。アップルからみれば、絶好のビジネスチャンスだったでしょうし、日本の家電メーカーはみすみすライバルに出し抜かれてしまった。結果は周知の通り、ユーザーの支持を得たiPodが圧勝しました。
──市場が成熟しておとなしくなるのではなく、もっと暴れ回れということですか。
細野 コンテンツ産業や家電メーカーの既存のビジネスを守ろうとした姿勢が、ライバルに攻め入られる弱点をつくった。攻めるより守るほうが難しいということです。
音楽のように比較的容量の小さいものはネットで流通しやすいため、先に波が来ました。これからは映像がターゲットになります。NGN(次世代ネットワーク)が実用段階に入って、大容量のデータやコンテンツを配信できるようになります。ところが、現状では著作権の複雑な利権が入り乱れ、過去に放送したテレビ番組すらネットで十分に流すことができない状況です。海外に目をやれば、ネットで映像を配信する動きは本流になりつつある。保身ばかり考えると、第二、第三のiPodが襲来して、皆やられてしまいますよ。
そうならないために、パソコンや家電、ストレージをネットワークで結び、新しい付加価値を海外勢に先んじて創り出さなければならないのです。小さな一歩ですが、当社ストレージ主力商材のNAS(ネットワーク接続型ストレージ)を家庭用にデザインを一新しています。これで東芝の主力薄型テレビ「REGZA(レグザ)」と接続でき、ハイビジョン映像を録画できるようなりました。
──次の成長の起爆剤となる新製品開発を期待しています。市場をもっとリードしていただかないと活気づきませんから。
細野 まだまだ力不足です。ハードウェアの戦いだけでは限界があり、ソフトウェアやネットワークサービスも貪欲に取り入れる必要がある。自前で開発してこそコアコンピタンスとしての競争力が高まるわけですから、関連する技術開発を急ピッチで進めているところです。
パソコンと家電を結ぶポジション、ビジネスモデルをより確実に固める。今こそメーカーとしての踏ん張りどころです。
My favorite えんぴつ。いつも持ち歩いている。以前はどこの事務所にもあったえんぴつ削りが姿を消していることが多いので、困ることがあるそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
ここ半年の間、同社では残業時間が増える傾向にあるようだ。「誇れることではなく、早急に是正すべき」ものであるが、新しい製品を創り出す意欲や危機感の裏返しの現象なのかもしれない。
最盛期には6つほどあった開発部門を4つに集約。販売促進部門を開発本部に編入するなど、市場の動きを素早く察知できるスリムな組織に再編した。
「顧客に分かりやすく、売り方も工夫した商品づくりを心がけよ」と開発陣に指示を出す。技術的な深掘りも大切だが、顧客本位であることを忘れるなというメッセージだ。新入社員には例外なく半年から1年は顧客に近い営業やサポート部門で経験を積ませる。企業に向けては全国各地でソリューションセミナーを積極的に開催。顧客の声に耳を傾ける。
世界で通用するモノづくりは、まず国内で足場を固めてから。全スタッフ総動員で難局を乗り切る構えである。(寶)
プロフィール
細野 昭雄
(ほその あきお)1944年、石川県生まれ。62年、石川県立工業高校卒業。同年、ウノケ電子工業(現PFU)入社。バンテック・データ・サイエンスなどを経て、76年、アイ・オー・データ機器設立。現在に至る。2008年1月には創業32年目を迎える。石川県情報システム工業会会長。
会社紹介
国内有数のパソコン周辺機器メーカー。昨年度(2007年6月期)の連結売上高は前年度比11.9%減の617億円、営業利益は4400万円の赤字。今年度の連結売上高は前年度比5.1%増の649億円、営業利益は6億円を見込む。主力商材はパソコン周辺機器やネットワーク機器、増設メモリ、ストレージ、液晶モニターなど。ライバルのメルコグループやエレコムグループなどと激しいシェア争いを展開している。