データ連携ミドルウェア開発のアプレッソは、業務アプリケーションベンダーとの連携を加速させる。ミドルウェアに特化し、「アプリケーションベンダーの黒子」としてアライアンスを組みやすい環境づくりに力を入れる。ここ2年余りで累計販売本数は倍増。今後はアライアンスをより拡充させるとともに、商品ラインアップを強化、海外進出にも乗り出すことでビジネスを伸ばす。
北米進出での失敗を教訓に 販売本数が2年余りで急伸
──主力商材でデータ連携ミドルウェア「DataSpider(データスパイダー)」シリーズの累計販売本数が、ここ2年余で急速に伸びています。競争が激しいミドルウェア分野でシェアを伸ばす秘訣を教えてください。
長谷川 ひとつは業務アプリケーションを開発するベンダーとの連携を強化したことです。顧客企業は業務を改善したり、ビジネスを伸ばすためにITシステムを購入するわけで、当社の開発しているようなITツールを買うことが本来の目的ではない。だとしたら顧客が求めるシステムを供給するITベンダーといっしょにビジネス展開すれば売れるんじゃないかと考えたわけです。狙いは的中しました。
──創業当時は厳しい状態が続いたとも聞いています。
長谷川 2000年初め頃、創業してまだ間もないにもかかわらず、いち早く北米市場へ進出するなど海外ビジネスの可能性を積極的に探っていました。結果から言えば失敗。国内でのビジネス基盤も弱かったため、ビジネスそのものを再構築せざるを得ませんでした。ITベンチャーがバブル的に盛り上がっていた余波がまだ残っていた時期。グローバル進出のシナリオはあたりまえだという風潮に流されていたように思います。業務アプリケーションベンダーにちゃんと認知され、連携してもらってこそ威力を発揮すると思い知りました。
──具体的にはどうやって連携を深めたのですか。
長谷川 主力商品のデータ連携ミドルウェアのことを、最初は「XMLアプリケーションの開発プラットフォーム」と言っていました。正直、これでは分かりにくい。XMLアプリケーションというのは、業務アプリケーションの一種なわけで、これをXMLなり、SOA(サービス指向アーキテクチャ)なりの技術を使って連携させるのが当社のミドルウェアです。そこで「業務アプリケーションをつなぐソフト」という言い方に変えました。
業務アプリは種類が多く、すべてに対応するのは難しい。アプリベンダーがバージョンアップすれば、こちらも手直しする必要があります。10─20種類ならともかく、各バージョンごとに何百種類もの対応になると、それだけでこちらの首が締まる。ならばアプリベンダー自身に当社ミドルウェアへの接続口をつくってもらえないかと交渉し、それで得た売り上げは折半しようと提案しました。
──業務アプリケーションが売れれば、御社のミドルウェアも連動して売れるという仕掛けですね。
長谷川 ええ。アプリベンダー側も、他社アプリすべてとの相互接続性を持たせるのは不可能です。特定のミドルウェアとの接続口を保てば、あとは自動的に連携できる方がコストもかからない。顧客企業にとってみれば、アプリごとにデータが分散し、統合的な運用ができないようでは不便。ユーザーの満足度を高めるためにも当社と組んだほうがいい。そういう流れをつくってきたのです。 開発元のアプリベンダーは見積もりの段階から当社のミドルウェアを入れておくことで、「他社システムや顧客が使っているシステムとつながらない」などというトラブルを事前に避けられる。売り手であるSIerでも同様です。顧客からみれば、新しいシステムを導入したあとにシステム連携の必要性に気づき、あわてて連携ミドルウェア購入の稟議をあげる…といった段取りミスもなくなるでしょう。売り手、買い手ともにハッピーです。
年率2割余りの成長を維持 コンソーシアムに積極参加
──業績はどう推移していますか。
長谷川 年商はまだオープンにできませんが、伸び率では今年度上期(07年7─12月期)は前年同期比で20%余り伸びました。ここ数年は年率20─25%増で売り上げが伸びています。DataSpiderの累計納入社数は、05年末で約300社だったのが、直近では700社を超えました。将来的に株式上場を目指せるよう、ビジネス基盤の強化に努めています。
──再び海外市場に挑戦しようという考えは。
長谷川 あります。例えば、海外進出を狙う国内ISV(独立系ソフト開発ベンダー)などで構成する「MIJS(Made In Japan Software)コンソーシアム」のメンバーの一員として、海外へ出られないか検討しています。少なくとも、前回のようにツール1本小脇に抱えて単身乗り込んでいくようなマネはしません。MIJSはアプリベンダーの構成比が大きく、当社のミドルウェアはメンバーのアプリを連携させる重要な役割を果たしている。仲間のアプリベンダー同士をつなぐ黒子として、ともに海外進出を目指します。
──DataSpiderシリーズをメインにしておられますが、そろそろ2本目、3本目のビジネスの柱を立てる時期に来ているのではないでしょうか。
長谷川 納入社数が順調に増え、保守サービスなどの安定収益も期待できる。投資余力もついてきているので、そろそろ次の柱を考える時期に来ているのは確かです。「アプリベンダーを支えるミドルウェアベンダー」という立ち位置を変えるつもりはありませんが、この範囲内での新商材を検討しています。これが既存のシリーズのなかに含まれるモジュールなのか、まったく新しいシリーズ名で投入するのかは決まっていません。早ければ年内にも明らかにできると思います。
例えば「データ連携をするうえで、ビジネスプロセスやワークフローを管理するプロダクトをつくってほしい」という要望は以前からありました。また、SOAやソフトウェアをサービスとして提供するSaaSなどのアーキテクチャには早くから取り組んでいますので、こうした領域でのビジネスの可能性を追求していくことも考えられます。
──当面の課題はどこにありますか。
長谷川 アプリベンダーとの連携強化やMIJSでの活動が佳境に入り、開発部門の負担が従来にも増して重くなっているのが気がかりです。当社は自社製品の大部分を社内で開発しており、研究開発費で見ても今年度(08年6月期)は前年度比で2─3割増える見通しとなっています。
設計は社内でやったとしても、プログラミングについては「オフショアで開発すればいいじゃないか」という考え方もあります。しかし、他社にない独創的なソフトをつくるには、大規模なシステム開発と同様のやり方はできない。そこで当社では小規模なモジュールごとに少人数で反復しながらつくるアジャイル開発手法を採用しています。
設計や開発、テストを少人数で回すことにより短期間で成熟度を高め、生産性をあげる方法ですが、一方でコストが安いオフショアに出しにくいというデメリットがある。諸刃の剣ですが、現段階では競争力を高めるためにやむを得ないと判断しています。
──今後のビジネス目標を教えてください。
長谷川 年商100億円がひとつのターゲットです。まだまだベンチャー企業の域を出ない当社にとって非常に高い目標ではあります。到達するには例えばDataSpiderのような売れ筋ソフトを10本つくるか、日本のミドルウェア市場の10倍はあると見られるグローバル市場へ進出する。あるいは、この2つを掛け合わせることで道筋が見えてくるはずです。目標を確実に捉えるためには年率2─3割程度の売上成長率では十分ではない。もっとスピード感ある舵取りでターゲットに迫る考えです。
My favorite大学校4年生のとき、ホッケーの全日本学生選手権大会で準優勝を果たした。その記念に後輩から贈られた品だ。野球のボールで代替しているのはご愛嬌
眼光紙背 ~取材を終えて~
ミドルウェアビジネスの可能性が急速に広がっている。主力製品のDataSpiderは、もともと企業内で使うアプリケーションを統合するXML開発プラットフォームとして開発したものだった。
しかし、企業間の取引データを連携させるサプライチェーンが発達。近年ではオープンな技術であるXMLをベースとしたEDI(企業間電子商取引)も普及しつつある。「企業の内と外の情報の壁は限りなく低くなっている」(長谷川社長)とみる。
単純にアプリケーションを統合するフェーズから、企業の壁を越えて取引データ全般を管理するBPM(ビジネスプロセス管理)プラットフォームへと進化させることで、ビジネスの幅を広げる。
日本IBM時代、自身が流通業を担当していた時期が長かったこともあり、サプライチェーンには詳しい。バランス感覚の鋭さを生かし、ビジネスパートナーと連携をさらに深めていく方針だ。(寶)
プロフィール
長谷川 礼司
(はせがわ れいじ)1951年、青森県生まれ。73年、防衛大学校航空工学科卒業。同年、日本IBM入社。日本IBMに20年勤務した後、IT系外資系企業に転職。ボーランドやアップルコンピュータ(現アップルジャパン)、日本ビジネスオブジェクツなどの経営中枢を歴任。マーケティングや販売チャネルの開拓などで実績をあげる。02年、アプレッソ代表取締役副社長。03年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
2000年設立。社員、スタッフの数は40人余り。少数精鋭で開発、マーケティングを行う。アプリケーションベンダーなどのビジネスパートナーとの連携を強化したことが奏功し、ここ数年は年率平均およそ2割で売り上げを伸ばす。販売パートナーやOEM先も60社近くに増えた。主力商材のDataSpiderシリーズの納入社数は累計700社に達している。EAI(企業内アプリケーション統合)やBPM(ビジネスプロセス管理)、ESB(エンタープライズサービスバス)など、得意とするデータ連携の分野で品揃えを強化。MIJSの中心メンバーとして海外進出も視野に入れる。