富士通エフサスが変わろうとしている。保守サービス会社から脱皮し、システムの設計・構築、運用までを網羅するITインフラカンパニーを標榜しているのだ。今年6月に副社長から社長に昇格した播磨崇氏は、その実現をさらに加速させるための3か年中期経営計画を来年度スタートさせる。自社単独の利益だけでなく、「富士通グループとしての成長を意識したプランにする」と、掲げる計画は壮大だ。それだけ、富士通エフサスが担う役割が重要とも説く。
木村剛士●取材/文 ミワタダシ●写真
保守サービスから脱皮して ITインフラを総合カバー
──保守サービス会社と一言で表現できないほど、事業領域の拡大に積極的ですね。富士通エフサスは、何を目指していますか。
播磨 エフサスは、大きく変わろうとしています。保守に加え、その上流工程にある「設計」「構築」「運用」まで、情報システムのライフサイクル全体をカバーできるサービス体制構築に動き始めています。昨年5月には、富士通からITインフラのプロ技術者集団300人弱が当社に移り、その実現に向けて大きな一歩を踏み出しました。社名も富士通エフサスに変更し、新たなCI(コーポレート・アイデンティティ)も昨年10月に策定しました。
新しいCIでは、エフサスの目指す姿を「ITインフラのリーディングカンパニー」と定めています。ここで言う「ITインフラ」とは、先に説明した情報システムのライフサイクル全体。つまり、(旧来の)保守サービスだけをやろうとはしていない。ご指摘の通り、今のエフサスはもう保守会社ではありません。
──そうなると、富士通との役割はどう区分けしているのでしょうか。
播磨 当然のことですが、富士通を含めたグループ会社のITインフラ開発案件を、すべてエフサスがこなすわけではありません。エフサスが担っている役割は、ユーザー企業にITインフラを提供しながら、富士通グループのITインフラの設計・構築と運用作業の標準をつくることです。グループ会社はこの標準を使ってITインフラを構築することになります。インフラのベースとなる技術や手順を考える富士通グループの中核的企業、それがエフサスです。
──トップ就任から半年、新CI策定から数えれば約1年が経過しましたが、その成果と進捗スピードをどう感じていますか。
播磨 欲をいえば、スピードはもっと速めたいな、と。ただ、現場の社員は最大限力を尽くしてくれていますからね。ゆっくり進めるつもりはありませんが、みんなで侃々諤々やりながら、焦らず一つ一つ着実に、強固な体制づくりを進めている最中です。
──保守会社からITインフラ企業へと脱皮するために何に力を注いでいますか。
播磨 「設計」「構築」「運用」「保守」という各階層でそれぞれレベルを上げています。設計は作業のシンプル化が必要だし、構築は高品質をさらに追求しスピードを速めることが重要。運用はユーザーに安心感を与えるための基盤が大切になります。もちろん、これまでの保守業務についても改善が必要で、もっと効率的で迅速にサービス提供できる体制をつくることが求められます。ツールを揃えたり、現在は“工場化”の仕組みを整えたりと素材がだいぶ揃ってきた段階で、今後はそれらを磨き上げることが重要と思っています。
──保守要員となる「カスタマエンジニア(CE)」に求められるスキルと意識もかなり変わりそうですね。
播磨 そう。従前のCEのようにハードの点検や修理だけをやっていればいいわけではなくなります。付加価値としてOSやミドルウェアなどソフトの問題点を指摘できる知識も必要になりますし、提案力だって必須になってくる。CEとSEの職種は限りなく近づき、垣根もなくなる。数年後には両職種をマージ(融合)したような、全く新しい職種が生まれている可能性だってあります。そんな時代に備えて、来年の新入社員にはCEとSE両方の教育を施こそうと考えています。
来期から中計スタート グループの成長を意識
──現場社員にかかる負荷も大きくなります。急激な変化で、社員のモチベーションが損なわれる恐れはありませんか。
播磨 社員のモチベーション維持に関しては、実はかつて悩んだ経験があるんです。少し話がそれるかもしれませんが、富士通北陸システムズの社長を務めていた時、会社は好業績で、賞与もほかの富士通グループ企業に比べてたくさん出した年があったんですね。その時に、第三者機関を使ってES(従業員満足度)調査をしたら、結果は最悪。働きがいを感じている社員がほとんどいなかったんです。かなりショックを受けて、1年かけてリーダークラスと会食するなどあれこれやってみて、その後に同じ調査をしたら、上がるどころかさらに下がってしまった……。その時は理由が分からなかったので、本当に悩みましたよ。
それで、若手社員と話していて、「君たちが立てた計画を君たち自身が達成した。あなたたちが会社の業績をよくし、それを評価したんだよ」と言ったら、社員から「私たちはトップから言われたことをやっただけです」という答えが返ってきた。その時に私は思ったんです。“やらされてる感”ではESは絶対に上がらないと。トップダウンで仕事を進めると、社員はやる気を失って疲弊感に襲われ、結果的に行き詰ってしまう。
富士通北陸システムズではその後、現場の声を拾ってそれを認めて好きなようにやらせてみたんです。そうしたら、社員の眼はみるみる変わった。ある部隊では売り上げが1.5倍に増えて残業時間が減ったんです。
──エフサスでもそれを実践している、と。
播磨 現場の声を拾う活動を、合宿やミーティングの開催などで行っていますよ。現場の改革は現場でしかできない、と痛感していますからね。
──大きな変化を遂げつつあるなかで、来年度(2010年3月期)からは3か年の中期経営計画を開始すると聞いています。播磨さんのカラーが鮮明に出る内容と見ています。骨子を教えてください。
播磨 中計をスタートさせる最初の年という意味でも重要ですが、エフサスは来年設立20周年を迎えます。次の20年を見据えた改革初年度ということでも、とても大切な年になる。
これまでエフサスは、中計をローリングプランとしていて、毎年見直していましたが、来年度から始める計画は、3年間動かさない固定計画を立てようとしています。計画の立案は、今まさに始まったばかりという状況で、具体的な内容を話せる段階ではないのですが、エフサスだけを見て考えるというより、富士通グループとしてどうあるべきかを骨子に据えるつもりです。
「エフサスの売り上げは上がった、儲かった。でも富士通グループとしてはマイナスだった」では何の意味もない。まずは富士通グループの成長を考え、そのためにエフサスはどうあるべきか、何をしなければならないかを考えます。一言で言えば、富士通グループ全体の競争力向上に向けたエフサスとしての中期経営計画ですね。
──そこまで考えているグループ会社はどれだけいるのでしょう……。ただ、計画の立案も実行も相当大変ですね。
播磨 野副(州旦)社長のもとグループ会社は「One Fujitsu」として、みな考えています。まあ、私の個人的な思い入れの強さはあるでしょうし、全国にカスタマーベースを持っているエフサスが強い気持ちをもって、富士通グループとしての成長を考える必要も感じています。
大変なのは間違いない。いっぺんに達成なんて絶対無理。だから一つ一つ着実に実行していく。高いストレッチ目標になるはずですが、ビジョンを示し、若い人たちが率先してチャレンジする風土を創って頑張ろうと思っています。
My favorite 警視庁に勤める友人からもらった焼酎。携帯電話のストラップなど新しい警視庁グッズが登場するたびに、その友人がくれるとか。この焼酎もその一つ。警視庁マスコットキャラクター「ピーポくん」のぬいぐるみも自宅にあるという
眼光紙背 ~取材を終えて~
低音が響くボイスと強面な表情。そんな第一印象だが、話してみると気さくで柔らかい雰囲気を持った人にイメージが変わる。自身のファーストインプレッションを自覚しているためか、イントラネットで社員にメッセージを伝えたり、近況報告する専用ページのタイトルは「ハリー’sルーム」。社員が親しみやすいように工夫を凝らしている。
インタビューで播磨さんの声が最も力強かったのは、中計の骨子と、社員満足度について。社員のやる気や仕事に対するモチベーションの維持・向上については、苦い経験もあって相当の気遣いをしている様子がうかがえた。
米国発の金融危機が日本の実体経済にも影響し、事業拡大は決してたやすいわけではない。ただ、「そんな時こそ改革は必要」。現場の改革は現場でしかできない――。社員のやる気を引き上げながら、ボトムアップでの改革が進んでいくに違いない。(鈎)
プロフィール
播磨 崇
(はりま たかし)1945年5月12日生まれ。68年3月、早稲田大学理工学部機械科卒業。同年4月、富士通入社。86年、システム本部第二システム統括部第四製造工業システム部長。98年、富士通ビジネスシステム(FJB)に移りシステム本部副本部長。00年、常務取締役システム本部長。01年、富士通北陸システムズの代表取締役社長に就任。05年、富士通に戻り経営執行役。06年、経営執行役常務。07年、富士通サポートアンドサービス(現・富士通エフサス)代表取締役副社長。08年6月、代表取締役社長に就いて現在に至る。
会社紹介
富士通グループの保守サービス会社として1989年に設立された富士通カスタマエンジニアリングが母体。96年に関連会社と統合した後に前社名の富士通サポートアンドサービス(Fsas)になった。07年7月には現社名に変更。保守サービスがメインビジネスだが、ここ数年で業容は拡大。情報システムの設計・構築、運用サービスといった領域もカバーする事業体制へと変化している。
01年に東京証券取引所第一部に上場するが、親会社のグループ連携強化方針により04年10月に上場廃止、富士通の完全子会社になる。資本金は94億175万円で従業員数は約5000人。昨年度(08年3月期)の売上高は2499億9400万円。