NTTソフトウェアは成長の継続を実現するための“土台”を作ることに積極的な姿勢をみせている。土台作りのための施策は、自社社員のスキル向上をはじめ、ベンダーとのアライアンス強化など多岐にわたる。昨年6月に社長に就任した伊土誠一氏は「どんな環境下でも業績を伸ばせる体質が必要」と力説する。「SaaS」にも着手しており、将来的にはサービス主体の企業に変革を遂げることも視野に入れている。
佐相彰彦●取材/文 ミワタダシ●写真
社員のモチベーション向上
──2008年6月の社長就任以来、力を入れて来たことは?
伊土 当社の実力を知ることでした。社員一人ひとりのスキルを把握し、マインドアップに力を注ぎました。そのことをベースとして、「改善」を念頭に置きながら社員のスキルアップを図っています。そのスキルアップを実現するための策として、トップダウンではなくボトムアップを追求しているんです。社員のスキルを底上げすることが重要だと判断しました。
具体的には、営業部門は数字の追求、技術部門はITSSをはじめとする資格を取得させることを徹底的に行いました。また、すべての社員を対象に100種類以上のカリキュラムがある研修制度も設けています。とにかく、スキルを向上させることが必要だった。
──なぜですか。
伊土 優秀な社員が数人いても、たかが知れているからです。当社は1400人程度ですが、すべての社員がスキルを1%向上するほうが大きな力になる。
実は、03年度(04年3月期)まで赤字が続き、前社長(鈴木滋彦氏=現・NTTアドバンステクノロジ社長)がV字回復に向けた方針を打ち立てました。これにより、成長は達成しましたが、急激な成長を遂げるまでには至らなかった。思い通りにはいかなかったんです。なぜ、業績が好転しないのか。そういった時期に社長に就任したんですが、トップとして社内の状況を把握しているうちに、「これが実力なんだな」と実感しました。だからといって、トップダウンで売り上げを伸ばすように檄を飛ばしたところで社員のモチベーションは上がらない。それならば、数字や資格取得など何らかの形で優秀な実績を残した社員はとことん褒めることにしよう、と。しかも、それが上からの命令ではなく自らが成長するために自発的に行う環境であれば、良好な雰囲気が漂うようになる。そういうことから、マインドアップを重視したのです。
もちろん、気持ちよく働くことができるように、職場環境を改善することにも努めましたよ。労働組合から要求される前に、給与体系や福利厚生などを改善した。社員のモチベーションを向上させるための環境作りには気を配りました。
──成果は出たのですか。
伊土 (社長就任から)1年半以上が経過し、着実に実を結んでいると自負しています。実際、今年度(09年3月期)中間期の業績は前年同期を上回った。
策を講じたことで業績が伸びていると実感できたのが、実は第1四半期の業績なんです。当社は第1四半期に受注が集中するケースが多い。これは、昨年度も今年度も同様でした。昨年度の第1四半期は(社長に就任していなかったため)まだ、現在の体制ではなかった。そういった点では、成果が出ていると確信しています。
前社長の基本路線を貫けば成長できる。しかし、昨年度は業績が下がったように、どんな環境下でも成長するためには何かが足りなかった。それは、社員のやる気を出させることだったんです。実力を過信せず、足下をしっかりと見ながら地道に進む。社長として、私の役目は業績を伸ばせる“土台”を作ることですので、その環境作りを徹底したんです。
──会社の成長には社員同士の密なコミュニケーションも必要です。この点で、取り組んでいることは何ですか。
伊土 組織をまたいでコミュニケーションがとれる策を積極的に打っています。「今日は20代を」などと、日によって年齢層を変えて各部署を回り、該当する社員を集めています。そして、その年代の社員が会社に何を求めているかを自由に話し合ってもらう。
これは、“社長キャラバン”と称しているのですが、それぞれ異なった業務をこなしていることから、組織を横断した全体像がイメージできるという点で重要な話合いの場だと考えています。もちろん、各組織のミーティングも定期的に開催しています。また、開発部門にコスト削減について意見を求めたり、営業部門に良い製品を開発するための投資について討議する会議も行っています。マトリクス的に議論できる場の提供は、社員個々が会社をより身近に感じ、状況を把握することにつながると考えています。
優秀な社員が数人いても、たかが知れている。すべての社員がスキルを1%向上するほうが大きな力になる。
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