市場規模は500億円の可能性
──販売はどのように行っているのですか。レコメンドソフト単体で売るのは難しい印象を受けます。
上村 今は広告代理店からの引き合いが中心です。研究開発を重視していることから、販管費がかさむ営業面にリソースを配分しきれない側面もあります。優れたレコメンドソフトを開発することで、ネット通販などのシステムに組み込まれるOEM型のビジネスであれば、それほど営業コストがかからない。販売パートナーとは積極的に組んでいく方針です。
──レコメンドソフトの市場規模は、どれほどなのでしょうか。売り手にとって満足できるボリュームのビジネスが成り立つのかが気になるところです。
上村 国内ネット通販などのレコメンド単体で見ると十数億円と小規模です。ただ、レコメンドの機能そのものは、通販だけで使われるものではありません。通販に劣らないほど有望なのはネット広告とユーザーをマッチングする市場です。今はユーザー属性やクリック履歴などをもとに、できるだけユーザーニーズに適合した広告が配信されています。レコメンド技術を応用することで、さらに精度の高い広告配信が可能になりますし、こうした市場を創出していくのが当社のミッションの一つだと考えています。
──不況で消費全体が伸び悩むなかでも、ネット通販は堅調に伸びています。ネット広告も増加傾向にあることを勘案すれば、将来的な市場規模はどのくらいになるとお考えですか。
上村 ネット通販や広告などを足し合わせたレコメンド関連市場全体でいえば、500億円ほどの規模に拡大する可能性があると推測しています。最終的にはこの市場で2~3社のトップ企業が残るイメージです。その前段階として2012年をめどに、年商を20億円近くまで拡大させ、株式上場を目指します。成長する市場のなかでトップシェアのポジションを確保したい。OEM供給先や販売パートナー、ユーザー企業から“指名買い”されるよう努めていく方針です。
──課題は何でしょうか。
上村 ベンチャーが成功するには、何よりも差別化要素の大きい商品やサービスを開発することですが、こうした商材は優秀な人材によってつくりだされるものです。ベンチャーで働く意義を考えると、やはり自らビジネスをドライブする実感を得られることだと思っています。わたし自身、学校を卒業して最初に勤めたのは大手企業でしたが、ベンチャーのドライブ感に惹かれて転職した経験があります。個人的にはIPO(株式公開)してお金を儲けるとか、株式や企業売買で儲けるとかよりは、新しい市場を創出したり、世界に挑戦することにやりがいを感じます。
ただ、一方で企業は“社会の公器”といわれるように、社員やその家族が安心して生活できるよう努めることも大切です。当社はベンチャーですので、莫大なリクルート費用を投じられるわけではありませんが、採用にあたっては他の会社に比べて“休日が1.5倍で、報酬は2倍得られる会社にしよう”と呼びかけています。そのために営業利益率は最低でも15~20%は確保しないとなりませんし、国内だけでなく世界で勝負できる実力をつけなければならないなど、課題はたくさんあります。
──海外進出のメドは立っているのですか。日本のソフト開発ベンダーの海外進出は失敗の連続ですが…。
上村 国内でビジネス基盤を築いてからとか、IPOしてからとかでは、ネットの世界では遅すぎます。レコメンドの仕組みは応用できる幅が広いので、海外での販売も積極的に取り組む予定です。昨年秋には中国向けの美容系ポータルサイトに納入しています。日本のソフト開発ベンダーが海外進出で苦戦していることも知っていますが、これからも失敗し続けると決まったわけではありません。挑戦する者だけが、成功を手にできるというものです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
景気の先行きが見えないなか、外出を控える消費者が増えている。家族との団らんの機会を増やし、ネットでショッピングを楽しむ。“引きこもり購買”と呼ばれる現象で、モノやサービスの流通形態が大きく様変わりする。
この商流の変化に大きなビジネスチャンスを見出すのが、上村崇社長率いるALBERT。レコメンドソフト開発に特化するベンチャー企業だ。グーグルやアマゾンの例を挙げるまでもなく、「独創的な商品やサービスを繰り出すのは、常にベンチャー企業」。旧来型の流通に依存する企業が及び腰になる状況だからこそ、ベンチャーにチャンスが巡ってくる。
ネットが普及して約15年。情報量は爆発的に増えた。必要な情報を絞り込む検索は大手への集約が進む。だが、検索と同様に重要視されるレコメンドはブルーオーシャンだ。「これから本格拡大する有力市場」。ベンチャー精神で世界を目指す。(寶)
プロフィール
上村 崇
(うえむら たかし)1979年、京都府生まれ。03年、早稲田大学商学部卒業。同年、アクセンチュア入社。04年、インタースコープ(現ヤフーバリューインサイト)入社。05年、ALBERT(アルベルト)設立。代表取締役社長に就任。
会社紹介
ALBERTは、レコメンド(推奨)ソフト開発に特化したベンチャー企業。社名の由来は理論物理学者のアルベルト・アインシュタインにある。ネット通販などで顧客の必要な商品をレコメンドするソフトを開発する。曖昧なニーズから的確に商品を推奨したり、顧客がクリックしたり購買したりした履歴から趣味嗜好の傾向を読み取ったり、色や形、模様から類似商品を探し出すなど、さまざまな仕組みを取り揃える。