エコシステムの構築に専念
──具体的にどのようなパートナー施策を4倍成長のバネにされますか。
堀 エコシステム(生態系)を構築することに専念します。単に売ってもらうだけではなく、パートナーからビジネスの発案があったり、一方でソフォス自身が、全体の動きを見ていて、いい商材を持っているならば、協業することで効果が得られるパートナーを別のパートナーに紹介するなどし、協業体制を作り上げます。パートナーが戦略的に攻めたい顧客がいるならば、当社がエンドユーザーにダイレクトタッチもします。顧客のさまざまな要望は本社にフィードバックすることでWin-Win-Winの関係を作ることができるのです。
──グローバルの従業員はどのように関係してきますか。
堀 いろいろな局面で関わってきます。「社内の何万台ものPCに別のベンダーのソフトウェアを入れたところ、非常に容量の大きい定義ファイルが送られてくる」とか「アップグレードが煩雑になっている」とか、そんな課題を持つ顧客をどう救ったかという経験、ノウハウを持っている社員を探して、その社員に直接、問題の案件に関わってもらうようなことを始めています。他のソフトの場合、日本で発生した問題なら国内で解決できるものが多いものですが、セキュリティの場合はグローバル規模で共通する課題ですからね。
──エコシステム構築に向けた策は。
堀 パートナーだけではなく、製品を納入するSIerがいて、その先にはエンドユーザーがいます。私自身も時間があるときにはエンドユーザーへうかがいます。それはソフォス製品の評価のためではなく、顧客の“ペイン(痛み)”を知るためです。例えば象を売る二人のセールスマンがいるとします。一人はお客さんに「この象はこんなに体格が大きくてすばらしい、だから買ってくれ」と象の話しかしない。もう一人は「おたくでは20人の人手をかけて2時間かけて水を汲みに行き、それが終わると山で半日かけて木を切り倒していますね。水汲みを30分、伐採を2時間にできる方法があります。興味ありますか?」と尋ねれば、当然ながらお客さんは後者に興味を示すわけです。そこで初めて象の話をする。まだまだ当社は前者の象のセールスマンなんだと思います。エコシステムでは当社社内がどんな仕組みで回っているか、パートナー、SIer、エンドユーザーのところで何が起こっているかを当社の社員全員が把握しないといけません。自分が今こなしている仕事が、その後どういったところで役に立つかがわかればモチベーションが上がり、エクストラ・エフォート(最大限の努力)につながりますからね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
暖房の効いた部屋で「最近、走っているから代謝が盛んですぐ汗が出てきちゃう」と堀社長は笑う。温かみのある人柄が伝わってくる。
ソフォスは創業23年の会社だが、非上場。創業者もずっと経営に関わり続けていて、他の外資系と比べると社員の勤続年数も長い。非上場であるためか、経営戦略や製品戦略がぶれず、信念を持ってビジネスを展開できるのは強みだ。堀社長は、「嫌だったら、創業者は自ら手を引くはずで、(現役でいることは)非常にいい会社であることの裏づけなのだろう」と評価する。一方、さらなる成長のために本社は「上場」を目指す。
「1~2年先あたりで上場するとCEOは言っています。ランニングにたとえれば、これまでは緩い下り坂だった。それを平坦な道か、少し上り坂にして、時には高地トレーニングのような強化策もとり入れて、上場までに体力つけないといけないですね」。(環)
プロフィール
堀 昭一
(ほり しょういち)1950年1月9日、熊本県生まれ。74年、九州大学大学院工学修士課程を修了後、ソニー入社。78年、ソニー・アメリカでIPD(情報機器事業部)のプロダクトマネージャーに就く。87年、アーサー・D・リトル入社後、シニア・マネジメント・コンサルタントに。88年、アップルコンピュータ入社、マーケティング担当副社長。94年、同社日本代表。97年、日本ビューロジック/98年、インフォミックス/2000年、アドビシステムズ/01年、SAS Institute Japan、06年、ノベルでそれぞれ代表取締役社長を歴任。09年1月5日、ソフォス代表取締役社長に就任し、現在に至る。
会社紹介
1985年、英国で創業されたベンダー。法人向けのウイルス・スパム対策やポリシー施行のソリューションを展開する。全世界で1億以上のユーザーに製品を提供する。Windows、Mac、Linuxなどマルチプラットフォーム環境を同一のソリューションで対応できるのが特徴。従業員はグローバルで約1500人。創業から一貫して安定成長を続けている。昨年、ドイツの暗号化・情報漏えい対策ベンダーのウティマコセーフウェアを買収。