国内サービサーとの連携軸へ
──この市場は、富士ゼロックスに限らず「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」などと称してリコーやキヤノンも積極化しています。ただ、実際のところ、こういう市場をどのように探して開拓するのでしょうか。
山本 これは一筋縄ではいかないですね。当社はゼロックス・コーポレーションという親会社で、世界的なインフラを持っています。翻訳一つとっても世界の一か所に電子化して送れば、すばやくやってくれる。または機械が故障したり、給紙の用紙が切れた時などは、全部通信を介してマネジメントできる。
当社では「サービス・バックヤード」と呼ぶシステム基盤が全世界に網の目のごとく存在します。これを共有して使えるのです。当社は直販が主ですので、顧客の現場を理解しています。顧客とのコンタクト、直販、長年の基盤と信用、世界のバックヤード(グローバル・サービス)がありますので、世界展開する国内企業が海外で活動する際、共通のインフラを提供できるのが最大の強みです。
──こうした世界展開は、リコーやキヤノンにはできない領域ですか。
山本 われわれの世界はリコーもキヤノンも入ってきていません。ですが、そのうちやってくるかもしれません。
──本当の意味でドキュメントに特化した事業を展開するコピーメーカーは、富士ゼロックスだけかもしれませんね。
山本 いい例があります。学生10万人規模の豪サウスウェルスの大学では、大学の一角にゼロックスの「サービスコーナー」があるんです。そこで、教科書まで作ります。(講師陣が)新しい講座を開くたびに自ら執筆してバインダー化して25人分しか作らなかったりする。学生がそこに買いに来て、一冊からプリントして購入できる。こんなイメージこそが、当社が描く「アウトソーシング」なのです。
──富士ゼロックスには、もっと下の層へのソリューション展開を期待するSIerが多くいますが。
山本 いままで話したのは、大型機を中心にした「プロダクションプリンティング」などの世界。それともう一つが「エンタープライズ・ソリューション」です。ここは大きな軸です。企業内のITインフラと当社のドキュメント機器が融合する時代が到来した。重要になってきているのが基幹システムとの連携です。この部分に力を入れるとなると、サービサーや大手コンピュータメーカー、SIerなどとの連携が欠かせなくなるわけです。
昨年からは、当社は顧客の「パートナー」であり「ソリューションカンパニー」であるということを掲げている。右手にハードウェア、左手にソフトウェア、プラスしてコンサルテーションを施すことをやる。ドキュメントコミュニケーションの「ホームドクター」になろうという意気込みです。当社の機器は連携性に優れている。ミドルウェアも新たに開発し、基幹システムなど他のITとの連携をスムーズにした。こうしたことを外部に発信しているのですが、まだ認知されていない。地域の有力販社とジョイントするなど、サービサーなどとの連携を強化します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士ゼロックスの社長といえば、経済界のご意見番として著名な小林陽太郎氏や凄腕で知られる小林氏後任の有馬利男氏の威光が強烈だ。山本忠人・現社長は、この変革期に向けての戦略立案の優秀性で両氏に劣らない。しかし、知名度はまだ低い。
小林、有馬政権当時は、米ゼロックスが「複写技術」を独占的に持っていたため、「コピーといえばゼロックス」という時代だった。だがいまは、国内だけ見ても競合が激しい。
ライバルのリコーやキヤノンが、早くから「ソリューション販売」の旗を掲げる一方、富士ゼロックスは乗り遅れた感があった。だが、山本社長は就任早々に「ソリューションカンパニー」を打ち出し、有力SIerとのパートナーシップに方向性を定めている。
第一印象は「固い」イメージ。だが、話し出すと口調は滑らかで、内容も面白い。思わず聞き入ってしまう。次なる戦略に興味津々だ。(吾)
プロフィール
山本 忠人
(やまもと ただひと)1945年10月、神奈川県生まれ、63歳。68年3月、山梨大学工学部卒業。同年4月、富士ゼロックスに入社。94年1月、取締役VIP事業部長。2002年6月に代表取締役専務執行役員に着任してからは、現在まで代表取締役職を歴任。主にドキュメントとサプライのプロダクト技術開発の責任者を務めてきた。07年6月に、有馬利男社長の後任として代表取締役社長に就任。
会社紹介
1962年に富士写真フイルム(現・富士フイルム)と英ランク・ゼロックス社の合弁で「富士ゼロックス」が発足。同年には普通紙複写機「富士ゼロックス914」を、75年にフルカラー複写機「富士ゼロックス6500」をいずれも「業界初」で発売した。当時、コピーすることを「ゼロックスする」という言葉が一般化したほど、全盛を極めた。2006年からは富士フイルムホールディングス設立を受け、同社傘下の事業会社になっている。