SaaSの早期普及を目指し、国内ITベンダー5社が2009年12月に立ち上げた「SaaSパートナーズ協会」。発起人であるきっとエイエスピーの松田利夫社長が代表者にあたる専務理事に就任し、SaaSサービスの「再販モデル」の確立に奔走している。現在、地域のITコーディネータやSIerなど「売り手」が、SaaSサービスをユーザー企業へ簡単に提案できる「Webストア」の提供を目指している。SaaSをIT市場で浸透させるため、これまで見過ごされてきた「売る」ことに焦点を当てた活動が、業界の注目を集めている。
SaaSを統合する技術はある
──昨年12月に「SaaSパートナーズ協会」を設立しましたが、国内にSaaSを普及するうえで課題となっている「誰が売るか」ということを主眼にしています。他の団体と一線を画した理由は?
松田 SaaSの場合、製品を右から左へ売買するのと違い、単純ではありません。ソフトウェアの場合は、仮に店頭でパッケージを購入したら、あとの工程が発生する。インストールする作業などは、パッケージがSaaSに変わることで省略できるでしょう。ただ、「このパッケージを誰に使わせるか」という許諾権を、どう与えるかという問題があります。物理的なメディアであれば、利用者に渡し、「これを使うように」と許諾を与えられる。だが、SaaSを「売る」には、こうした仕組みがネットワーク上にないといけないし、管理する人が必要になります。
──ソフトウェアのライセンス購入や管理面で当たり前の仕組みが、SaaSを「売る」うえで整っていないんですね。
松田 そうです。利用を許諾した社員がその部門から異動する可能性があります。そのような社員に対する許諾権は、企業でSaaSを使っている間に常時変わります。そうした変更をSaaSの提供者側で追跡できるわけがないので、企業内のIT担当者なりが管理しなければならない。こうした作業は、ソフトを買う時点では入っていますよね。ソフトについては、「誰が使ってはいけない」ということも管理する必要がある。これらすべての仕組みが整っていなければ、ソフトを購入することはできません。
──なるほど。ソフト(SaaS)の売買に必要な体制を整備するのが協会の役目の一つなんですね。ただ、協会が主張するこのような仕組みが、「本当に提供できるのか」と、懐疑的な見方をするベンダーが少なくありません。
松田 ソフト販売で、許諾権の付与などを企業内で管理するツール群は、いままでも存在しましたし、それをサポートするSIerなどが管理すればよかった。しかし、SaaS/クラウドの場合は、SalesforceやGoogleが各社流の仕組みを提供しています。それをいちいち個別に作り込んでいたら、大変な作業になります。Salesforce流やGoogle流などを、提供各社に共通化するように強いるのは無理ですよね。それを一つの「ユーザーID/パスワード」で使えるようにすることが求められている。この仕組みが協会でも必要と考えています。これが「売る」あるいは「買う」という仕組みとともに提供されなければならないのです。
──「売る」「買う」という当たり前の商行為をきちんと考えているところが、他のSaaS団体と異なる点ですね。
松田 こうした「連携」や「統合」などのインタフェースを規格化しようと、技術的な研究を進めるSaaS団体は多い。逆にこうした団体に聞きたいです。SalesforceやGoogleだけでなく、国内外のサービスプロバイダのインタフェースを統一的に規格化できますか、と。できないですよね。そこに誤解があって、実は「連携」「統合」する技術がすでに潜在的にあるんです。
──潜在的にですか。松田専務理事が社長を務めているきっとエイエスピー(きっとASP)では顕在化していますね。
松田 当社(きっとASP)では、米Jamcracker社とSaaSプラットフォーム製品「Pivot Path/JSDN」の販売契約を締結していますので、すでに顕在化しています。私が、1990年代末から2000年にかけて、「ASPインダストリー・コンソーシアム・ジャパン」に参画してASPのプロモーションを行っていた2000年前後には、豪州やシンガポールなどで、米Jamcracker社と類似のサービスがすでに提供されていたんですよ。
「売り手」に技術的な負担を強いることなく、SaaSを「売る」ことができる仕組みづくりは、「できる」という確信があるからやっている。
[次のページ]