DCの仮想統合化を視野に
──つまり、御社の強力な運用アウトソーシングのノウハウと、有力SIerが多数集うITホールディングスグループ全体の豊富な業務アプリケーションを融合させるということですか。失礼ながら、ユーフィット自身は、それほど自社の売れ筋業務アプリケーションをもっていない印象があります。
西野 当社はグループウェアの「KnowledgeOn(ナレジオン)」など独自の業務アプリケーションをもっていますが、これだけでは十分ではありません。今、名古屋に2棟ほどデータセンター(DC)を借りていて、将来的には自社でDCの新設も検討しています。これに当社とITホールディングスグループがもつ豊富な業務アプリケーションを搭載して、クラウド/SaaS方式で全国の顧客へ提供するという方向性は、構想の一つとして有力視しています。
地場の公共案件は、グループ会社が個別に受注するケースが多かったわけですが、システム的にみれば、全国で共通して使える部分もある。逆にこうした共通部分を全面に押し出し、地域の成功事例をグループ会社が連携して全国で展開するという手法も考えられます。実際、公共に強いインテックとは連携を深めて、すでに実績も現れ始めている。
──グローバル展開はどうでしょう。グループ会社ではTISがこの4月、最新鋭DCを国内主要SIerとしては初めて中国・天津市で開業しました。
西野 グローバル化の波は、情報サービス業界のビジネスモデルを根底から変えようとしています。最も大きな影響を受けているのが受託ソフト開発です。労働界でよく「同一労働同一賃金」といわれますよね。同じ仕事をするなら、企業や雇用形態が違っても同じ賃金にすべきだという考え方です。これを受託ソフト開発に当てはめるならば、同じソフトを開発するのであれば“国や地域が異なっても同じ報酬にすべき”となる。中国やインドなどで優秀なプログラマが育ってきていますので、同じソフトを開発するなら、日本のプログラマは価格面で勝てないということです。
当社も中国・大連や北京、上海で部分的にオフショア開発を進めていますが、これからは、もっと劇的にビジネスモデルを変えていく必要があります。従来の労働集約型のソフト開発では、お話にならない。顧客の課題を解決する提案型、あるいはグローバルで均質なソフト開発をしたり、クラウド/SaaS型のサービスを国境に関係なく提供したりする能力が求められているのです。
──DCを巡っては、複数のDCをまるで一つの情報基盤のように仮想統合する動きが加速しています。
西野 DCの仮想統合も、当然、視野に入れています。ITホールディングスグループは英BTとも次世代DCの分野で協業関係にありますし、国内でも当社を含めてDC系の運用に強いSIerが揃っています。
クラウド/SaaSの流れをみても明らかなように、ユーザー企業は、こうしたIT基盤系の領域から距離を置き始めています。見方を変えれば、国内外にまたがるIT基盤は、当社のようなSIerが主体的に取り組むべき分野になっているのです。今期からIT基盤サービス部門を新設するなど、従来の金融業向けSIでも、運用アウトソーシングでもない、新しい基盤サービスビジネスへの取り組みを強化しています。
ITホールディングスグループと密接に連動し、なおかつ当社の強みを生かしつつ、国内外のユーザー企業へサービスを提供。向こう4~5年以内をめどにユーフィット連結の年商500億円、営業利益率10%を達成してみせます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ユーフィットの強みは、変化適応力があることだ。東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)の電算部門が独立。その後、三和銀行との合併特需があった時期には、「年商約900億円まで拡大した」(西野隆英社長)と、振り返る。
しかし、事業再編などを経て売り上げが縮小。今はITホールディングスグループの主要企業の1社として存在感を発揮するものの、売り上げはピーク時の半分以下に落ちた。「金融再編など外部環境の変化には、抗いがたいものがある」と、事業環境の激変に翻弄された心情を吐露する。
強みは「ミッションクリティカルな金融系システムの開発・運用」(西野社長)と自負する同社。だが、一番の強みは、外部環境の変化への適応力だろう。情報サービス業界は、今後、これまでよりさらに大きな変化にさらされる。こうしたなか、最後に勝つのは、適応力の強いユーフィットのようなSIerだろう。(寶)
プロフィール
西野 隆英
(にしの たかひで)1955年、大阪府生まれ、78年、大阪大学経済学部卒業。同年、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。95年、三和銀行システム部次長。02年1月、UFJ銀行(現三菱東京UFJ銀行)システム企画部副部長。同年6月、ユーフィット取締役執行役員。同年10月、常務取締役。03年、専務取締役。04年、取締役副社長。06年、代表取締役副社長。10年4月、社長就任。
会社紹介
ユーフィットの昨年度(2010年3月期)連結売上高は前年度比5.6%減の427億円、営業利益は同61.7%減の19億円。今年度(11年3月期)連結売上高は同8.7%減の390億円、営業利益は前年度並みの19億円を見込む。銀行の電算部門の出身だけあって、クレジットカードや信販会社のシステム開発・運用など金融系のSIに強い。