150億円投じて新鋭DC竣工へ
──2012年秋をめどに、約150億円を投じて最新鋭データセンター(DC)を竣工させる計画を発表されましたね。
浅田 ソフト開発中心から脱却するための投資の一環です。当社はDCを東京に2か所、沖縄に1か所の計3か所で運営しており、首都圏で計画している新型DCが竣工すれば4番目のDCとなります。マシンルームの床面積だけで約5000㎡。当社としては過去最大の規模です。クラウド/SaaSなどサービス型のビジネス基盤として活用したり、ITライフサイクル全域をカバーする大規模なBPO拠点としての役割も担っていくことになります。
──キヤノンMJグループ全体のITソリューション事業のビジネス目標は、年商3000億円とうかがっています。直近のおよそ2倍の高い目標です。
浅田 ITソリューションの頭文字をとった標語「ITS3000」の目標は、当然、堅持します。また、ソフト開発の比重が大きいままの延長線上に年商3000億円があるとは考えていません。ビジネスモデルの変革を推し進め、今のおよそ6000人の陣容で3000億円への道筋をつくる。ソフト開発のボリュームや人員ばかりを増やして規模を追い求める愚行は、絶対にやりません。ハードルが高いのは、重々承知しています。
──御社のITソリューション事業の最も大きな優位性とは何でしょうか。
浅田 これを突き詰めると、キヤノングループがITソリューション事業を手がける意義ということになります。キヤノンがもつプリンタやカメラの先端技術を、どこまで生かせるかにかかっている。もちろん、SIビジネスでプリンタやカメラを売るという話ではなく、こうしたデバイスを製造するノウハウをITソリューションへ落とし込んでいくという意味です。
経済危機で打撃を受けたものの、キヤノンは製造業界で“勝ち組”と評されています。これには、それなりの理由があるわけで、生産管理やグローバル規模のSCM(サプライチェーン管理)のノウハウなど、多岐にわたる要因が挙げられます。キヤノンITSでも、生産管理システムなど製造業向けの商材を多数もっていますが、では、本当にこれら製品すべてにキヤノンのノウハウが凝縮されているかと問われれば、まだ改良の余地はある、と答えるしかありません。
──グローバルに向けた施策はどうでしょう。キヤノンMJグループは国内の販売会社であり、海外の統括会社と、どう協調していく方針ですか。
浅田 事業を伸ばすには、グローバル展開している日本の優良顧客の要望に応えていく必要があります。海外でのサポートは、世界各地のキヤノンの販売会社と連携して行います。将来、3000億円を達成した時、その10%程度は海外で稼ぐくらいの意気込みで取り組む方針です。また、ソフト開発分野では、海外での開発系のビジネスパートナーづくりも欠かせない。
ただ、世界のキヤノングループのITソリューション事業を見渡すと、この事業の規模がダントツで大きいのは日本。その次に、米国の現地法人がソフト開発能力をもっている程度。成長著しい中国では、物販が中心という状態です。法人向けの複合機などのドキュメントソリューションは、早い段階からITとの融合が進んでいますが、ここでいうITと、SCMを支えるような基幹業務システムとは、少しレイヤーが違う。
キヤノンMJ-ITHDでは、基幹系システムの構築に耐えうるITソリューションサービスを、キヤノングループがもつ世界の優良顧客に提供していきます。このために、当社が中心となって、各国を統括する事業会社と積極的に連携し、ビジネスを伸ばしていく考えです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)のITソリューション事業が本格的に立ち上がって、今年で8年目。有力SIerのアルゴ21と合併して順調に事業を拡大しようとした矢先、経済危機に直面。大きなダメージを受けた。
浅田和則・キヤノンMJアイティグループホールディングス社長は、「このままではダメだ」と、グループの再編を決意。最新鋭データセンター(DC)におよそ150億円の投資を行う。グループのITソリューション事業を結集するとともに、ソフト開発の比重が高い従来のビジネスモデルを変革。DCをベースとしたBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の拡大に強い意欲を示す。
目標へのハードルは高いが、「突き詰めれば、製造業界の“勝ち組”であるキヤノングループの先進性や特性を生かしたITソリューションをどう構築、提供するかだ」と、自身のルーツをもう一度、問い直す。(寶)
プロフィール
浅田 和則
(あさだ かずのり)1949年、広島県生まれ。71年、中央大学法学部卒業。同年、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン=キヤノンMJ)入社。90年、総務部長。98年、総務本部長。99年、取締役。03年、キヤノンシステムソリューションズ(現キヤノンITソリューションズ)社長。07年、キヤノンMJ専務取締役ビジネスソリューションカンパニーITソリューション部門担当。10年4月1日、キヤノンMJアイティグループホールディングスの社長に就任(キヤノンITソリューションズの社長を兼務)
会社紹介
キヤノンMJアイティグループホールディングス(キヤノンMJ-ITHD)は、2010年4月1日にキヤノンマーケティングジャパンの中間持ち株会社として設立された。グループの中核ITソリューション会社のキヤノンITソリューションズなどを傘下に収めている。今年7月1日付で上場会社だったキヤノンソフトウェアなどを新たに持ち株会社の下に置くことで、グループのITソリューション事業の一体感をさらに高める。キヤノンMJ-ITHDの年商規模は1000億円余、人員は約5800人になる。