中堅・中小の進出を支援
──これまでのお話で出てきた課題を解決するには、どうすればよいとお考えですか。
張 日系SIerでもトップ10に入るような大手は、とくに問題ないでしょう。現に上位クラスのSIerは中国でのビジネスを着実に伸ばしています。中国のSIerでも、すでに日本のSIerと互角以上に戦える実力派が頭角を現しつつある。しかし、中堅・中小は厳しい。先日、『週刊BCN』で、日立製作所の看板パッケージソフトで統合システム運用管理「JP1」が、中国で本格的に売れ始めたという記事を読みました。JP1を中国で売り始めてからすでに8年たつということですが、これだけ長期にわたって耐えられたのは日立製作所の資本力があったからこそ。もしこれが中小のパッケージソフトベンダーなら、1~2年で資金が尽きてしまう。
──今年の懇談会では、パッケージソフトベンダーが多く集まるコンピュータソフトウェア協会(CSAJ)のメンバーも多数参加しますね。
張 日本の中堅・中小SIerもそうですが、パッケージソフトベンダーも、海外進出の経験が少ないケースが多い。中堅・中小のベンダーも、ちゃんと中国へ進出できるよう、業界団体としてバックアップする動きです。JISAやCSAJなどが力を合わせれば、解決の方向性がみえてくるかもしれません。せっかく中国という巨大市場がすぐ隣にあるわけですし、日中情報サービス業界の交流のパイプも太い。私は過去13回分の懇談会の経験もありますので、恐らくこのあたりを評価され、今年6月、CSAJの理事の任をいただきました。
──長城コンサルティングの中国ビジネスはどうですか。
張 私の本業は経営コンサルティングですが、一方、中国でソフト開発のグループ会社を何社か展開しています。北京大凱科技では、製造業向けソフトなどを開発する日本のナレッジオートメーションの開発工程の一部を担ったり、長江流域に広がる工業ベルト地帯のほぼ中心部にある江蘇省江陰市にも、09年、現地法人江陰城大信息科技を設立しました。
江陰市は企業誘致にとても熱心で、経済的に最も成功した市と目されているところです。製造業の一大集積地ですので、江陰の拠点では、CADソフトなどの販売をイメージしています。世界有数の巨大な工業地帯ですので、需要は大きい。江陰でのビジネスはまだ始まったばかりなので、来年あたりの日中情報サービス産業懇談会で、よい経過報告ができるといいと願っています。ちなみにナレッジオートメーションの竹原(司社長)さんは、CSAJの中国ビジネス研究会主査を務めておられるほどの中国通です。
──日本と中国は、漢字を共有し、文化的にも共通項が多いのですが、違うところも多い。ビジネスをするうえで、どのあたりに気を配ればよいでしょうか。
張 中国の歴史が物語っているのですが、とにかく変化が大きいことが最大の特徴です。とくに近現代はめまぐるしく変わっている。日本企業や日本人は、この中国の変わり身の早さに対応できないケースが多いように見受けられます。おそらく、日本で起業した中国人経営者でさえ、うっかりすると対応に苦慮するほどの変わりようだと思います。
例えば、モノやサービスをつくるとき、中国人は海外の最も優れた要素を組み合わせてつくるケースが多いのですね。先日、北京から上海へ夜行新幹線で移動したのですが、中国の新幹線網の急速な発達は、私自身も驚きを隠しきれません。語弊があるかもしれませんが、日本とドイツ、フランスの世界3大新幹線の技術を貪欲に採り入れ、これを組み合わせたイメージです。組み合わせるにも、相当の技術が必要であり、実力はある。ただ、ゼロからつくっていては変化に間に合わないため、世界中から採り入れてスピードアップを図る。
ITでも同じで、変化適応に奔走する中国のユーザーがスピーディに組み合わせられる商品が人気を得ています。このあたりがビジネスのヒントになるのではないでしょうか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「日本が“寿司文化”であるとすれば、中国は“麻婆豆腐文化”だ」と、張佶社長は言う。本場の麻婆豆腐は辛い四川風の味付けだが、日本の一般的な麻婆豆腐は四川の人からすれば“甘い”。北京出身の張社長にとっては、「四川は辛すぎて、日本は甘すぎる」。こうした味の嗜好に対応するため、麻婆豆腐の味は、実のところ地域ごとに大きく異なるのだという。本場は辛く、その他は地場の要望に応える形で味付けが柔軟に変化するというわけだ。
一方、日本の寿司は、板前の腕の差はあっても、味が大きく変わることは少ない。「日本は純粋で均質、単一的なものを好み、中国は国土の広さ、変化適応の必要性からミックスを得意とする」というのだ。
なるほど、単一的なものを中国へ持ち込んだとしても、結局、現地であれこれ混じり合いながら浸透していく中国特有のプロセス原理を垣間見た思いである。(寶)
プロフィール
張 佶
1953年、中国北京生まれ。70年、首都鋼鉄公司入社。73年、日中国交正常化をきっかけに日本語を独学で勉強。82年、北京師範大学外国語学部卒業。同年、北京市人民政府入府。87年、埼玉大学経済学部に留学。同年、長城コンサルティング創立。92年、成城大学大学院経済学研究科修士課程修了。90年、北京大凱科技を創立、董事長に就任。98年、中国ソフトウェア産業協会理事。07年、中国ソフトウェア産業協会東京事務所代表。10年6月、コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)理事。
会社紹介
長城コンサルティングの主要グループ会社は3社。北京でソフト開発を手がける北京大凱科技、上海の上海点線通商務諮詢、そして長江沿岸の工業ベルト地帯の中心部に位置する江陰城大信息科技。日本と中国でのコンサルティングやソフト開発・販売に加え、「日中情報サービス産業懇談会」をはじめとするビジネス交流の支援にも力を入れる。