新天地の海外市場で挑戦
──準大手・中堅企業向けERPの事業会社であるNTTデータビズインテグラルに出資されています。「MCFrame」のOEM提供で、どれだけの増収効果を見込んでおられますか。
石田 32社の当社パートナーのほか、新たに加わるNTTデータグループの営業展開力には非常に期待しています。増収効果としては、10億円を見込んでいます。
一部は、従来の当社パートナーと新規パートナーの間で競合するケースが出てくるでしょうが、長い目でみれば、すべてのパートナーにとってのメリットのほうが大きいと考えています。競争の効果が現れて、ユーザーのすそ野が広がっていくはずです。
──ここにきて、生産管理システムをSaaS提供する動きがみえ始めました。SaaS/クラウド事業について、どのような見通しを立てておられますか。
石田 会計システムの「A.S.I.A」は、すでにASP型を提供していて、ユーザーも多数抱えています。
生産管理システムは、SaaSで提供するなら、ERPで一番最後になるでしょう。当面は様子見です。原価管理システムに関しては、2年前からSaaS型の「MCFrame online 原価管理」を提供しています。低価格ですし、ユーザーは必要な時だけに限って利用できるのがメリット。今は実戦的なトライアルを実施している段階です。とはいえ、すでに10社以上と契約しており、引き合いも多い。導入の動きが加速化していくとみています。
──SaaS/クラウドと同様に気になるのが海外事業です。中国・上海に現地法人を設立されたのが2010年。このところ海外展開を強化されていますが、海外事業の売上高や目標値は明らかにされてきませんでした。
石田 売り上げの20%程度は、日本のユーザーとの契約で、すでに海外がらみのSI案件になっています。海外拠点のIT支援ができるSIパートナーであることが重要です。現在は、海外の地場企業にSIサービスを提供しているケースはほとんどありません。
例えば中国について考えると、多くの製造業はまだまだ十分なIT投資ができる状況にないでしょう。これから中国で人件費が上がってくれば、製造業の自動化やIT化が推進されていくのではないでしょうか。実ビジネスになるのは、これからでしょう。
──海外で地場企業から案件を勝ち取るためには、販売チャネルの整備や現地の地場企業のニーズに合わせた提案が欠かせませんね。
石田 中国・上海の現地法人は、当社が出資しているDealEasyとどのように連携していくか考えなければなりません。つまり、地元の土地勘を頼りにしながら、地場企業の攻め方を考えるということです。中国は省ごとにいろいろなやり方があるでしょうから、その特性を踏まえながら案件化させていく地道な努力が必要と考えています。
それだけではなく、特徴のあるソリューションを打ち出さなければならないと考えています。「MCFrame」はまだ日系企業向けが中心ですが、食品のトレーサビリティなど、テーマを明確にしないと。それに、著作権に関する懸念もあります。不正コピーを防止する策も打たないといけません。
タイにも現地法人を設立しており、MAT(Material Automation Thailand)がパートナーとなっています。この会社は、日系企業向けにLANの構築やハードウェア、CAD関係のシステム販売などをしている独立系SIerです。協業を通して、現地の日系企業に自社パッケージなどの営業活動を展開しています。
・こだわりの鞄 ミラショーンの鞄。二代目になるという。「たいていの鞄は取っ手周りが傷んでくるが、これは傷まない丈夫なつくり」。そのまま置いても倒れないので、中身の出し入れが容易だ。初代は4~5年使い、二代目は4年目くらいだという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビューでは、まず最初に、今期の目標について保守的ではないかと尋ねた。答えは、「今年度は引き続き厳しい情勢が続く」というもの。製造業を取り巻く環境が激変しており、メーカーを主力得意先とする東洋ビジネスエンジニアリングの業績にも多大な影響を及ぼしている。
もちろん、同社も手をこまねいているわけではない。NTTデータビズインテグラルへの出資やSOA、SaaS/クラウド事業の推進など新たな取り組みを行っている。中長期的には、海外事業が非常に大きなポジションを占めるはずとみて、上海とタイに現地法人を設立している。ただ、今のところは日系企業向けが中心。中国の地場企業は「まだ十分なIT投資ができる状況にない」と将来に期待している。
派手な数字をぶち上げることがなく、状況を見据えている。着実に一歩ずつ歩みを進めていくことを基本に据えているようだ。スピード感に欠ける印象はあるが、堅実な成長を目指す姿勢がうかがえた。(宮)
プロフィール
石田 壽典
(いしだ としのり)1950年6月、福岡県生まれ、60歳。76年、九州大学大学院工学研究科修了。同年4月、東洋エンジニアリング入社。1999年、東洋ビジネスエンジニアリングに入社し、営業企画センター長。2000年、取締役。経営統括本部長やビジネスコンサルティング部長などを歴任し、2008年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1987年、大規模プラントの設計や機器調達、建設などを手がける三井系のエンジニアリング企業である東洋エンジニアリングが、産業システム事業本部を設立。1991年、日本初のSAPパートナーとしてERPビジネスを開始した。1996年には、自社パッケージ「MCFrame」をリリースした。東洋ビジネスエンジニアリングの開業が1999年。2004年、中国・上海に駐在員事務所を開設し、2010年、現地法人に昇格させた。