ワイヤレス・クラウド時代に強み発揮
──2010年に矢野薫・前社長(現会長)にも取材させていただきましたが、その時はグローバル事業についてはあまり積極的にお話しされていない印象がありました。
遠藤 そんなことはないと思いますよ。ただ、ほかに取り組まなければいけないことがあっただけのことだと思います。「グローバル」は、だいぶ前から当社の「チャレンジ」です。ただ、これまで海外売上比率は30%が最大で、現在は若干減少して20台%です。半導体を非連結化したので、目減りしているのです。まずは中計にある25%の目標達成を目指します。
──海外の売上比率目標を達成するために、来年度(2012年3月期)にはどんな展開をしていきますか。
遠藤 先ほどのテレフォニカの事例のように、通信キャリア向けのソリューションビジネスを拡大しようと考えています。それと、システムインテグレーション(SI)を含めたビジネスを海外へ展開することです。これまで培った資産やノウハウを結集し、それを生かして社会インフラソリューションなどを展開していきます。
──他社も「OneNEC」と同じように、グループ一体となり、クラウドでは「垂直統合型」のビジネスを推進しているようにみえます。NECが展開するクラウドは、他社とどこで差異化を図るのですか。
遠藤 私の捉えているクラウドというのは、ソフトウェアとハードウェアの共有化によって、オペレーションをどう効率よく回していくかということです。クラウドを展開するうえでのITプラットフォームとネットワーク、それからその上で動くサービスと、アクセスに必要なデバイスやセンサー、それらをすべて含めたのが「クラウド・ビジネス」です。将来、クラウドは「ワイヤレス・クラウド」になっていくでしょう。紙の情報を電子データ化して、必要なときに共有して使えるような仕組みはすでにあります。これからは、単に紙の情報を電子データ化して共有するだけではなくなります。
自動車メーカーが電気自動車を売りだそうとしていますが、そういう自動車などのさまざまな機器からリアルタイムに情報が出てくる。このリアルタイムに出てきたデータを取得し、リンクさせれば、新しいビジネスが創出できる。そこにクラウドの本当の面白みがあるわけです。それを実現するための仕組みが必要です。自動車は動いていますから、実現するのは無線しかありません。当社はネットワークも、サービスも、デバイスも提供できます。構成する機能を垂直的にもっていることが強みです。
──国の予測統計では、クラウド関連の市場規模は40兆円になると試算しています。いままでのお話を聞いていますと、社会インフラに強みをもつNECは、計画値よりもっと成長してもいいと思いますが…。
遠藤 当然ながら、もっと成長したいという思いは強くあります。だけど、多くの顧客で本業への投資が戻っていない。ただ、通信キャリアをみるとワイヤレス・ブロードバンドを提供する動きが加速していますし、ここは当社の得意分野でもありますので、「ワイヤレス・クラウド」といった領域での需要を見出すことができるでしょう。
──2011年がスタートしましたが、遠藤社長の方針として、この1年はどんな言葉が似合いそうですか。
遠藤 やっぱり「グローバル」でしょうね。11年4月から、いよいよ5極体制が動き始めますので、世界のNECが共通認識でビジネスを推進する「グローバルOneNEC」として飛躍を期したいと思います。
・お気に入りのビジネスツールモンブランの万年筆とケース。どちらにも名前のイニシャルが入っている。「万年筆好きです」とひと言。思い入れがあるわけではないそうだが、いただきものだというこの万年筆を使い始めてかれこれ5年になる。契約書にサインする時など、日常的に使い込んでいるそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「今年57歳になりました」。富士通の山本正已社長と同世代なのだそうだ。今年2月にトップに抜擢された遠藤社長。当時、矢野薫前社長は「当社のグローバル化を推進するのに適している人材」と抜擢の理由を語っている。その時点で遠藤社長は「クラウドは、(市場が)厳しい状況のなかで提供するのに適している。海外での新たな展開を進めていく」と力強く語った。
2009年度、NECでは「選択と集中」を主眼におき、組織再編や事業の見直しに費やした。グローバルビジネスの基盤を整え、2011年、いよいよ全世界で5極による市場開拓をスタートさせる。遠藤社長はその旗振り役として、世界中を飛び回る。この取材は、多忙を極めるなか、なんとか30分という時間をいただくことができた。
富士通に日本IBM…日本のITをリードするトップは昭和28~29年生まれの同学年。いわく「28(にっぱち)組」の時代。彼らのリードで、日本のIT産業が変貌を遂げることを期待したい。(環)
プロフィール
遠藤 信博
(えんどう のぶひろ)1953年11月生まれ、57歳。1981年3月、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。同年4月入社。2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長、05年7月、モバイルネットワーク事業本部副事業本部長。06年4月、執行役員兼モバイルネットワーク事業本部長、09年4月に執行役員常務に就任。同年6月、取締役執行役員常務を経て、10年4月に代表取締役執行役員社長に就任、現在に至る。
会社紹介
1899年創業の電機メーカー。主な事業セグメントはITサービス事業、プラットフォーム事業、キャリアネットワーク事業、社会インフラ事業など。従業員は14万2358人、売上高は3兆5831億円(10年3月期)を誇る。