海外売上高比率10%超に手応え
──残存者利益というのは落穂拾いみたいで、なんだか夢がありませんね。
岡本 先行者利益を狙って、本当の意味でグローバル市場を手中におさめられるほど体力があるSIerは、国内では限られているのが実情です。少なくとも当社は、年商で700億円も800億円も稼ぐアメリカの有力SIerをポンと買収できるほど、資金的な余裕は残念ながら持ち合わせていません。
──NTTデータのことですね。
岡本 どことはいいませんが、ただ、当社にもできることは少なからずある。先の天津DCを活用したサービスビジネスは、早く手を打ったからこそ、うまく動き始めたケースです。
中国やASEANは、これから経済がぐんぐんと伸びる。日系企業の進出も拡大し、地場有力企業のIT投資も盛んです。この一大需要地に自ら積極的に出て行くのが成功への近道と考えています。
先行者か、残存者か、どちらの利益を狙うにしろ、先行投資の体力や競争力、持久力が求められることに変わりはありません。当社グループ内のオーバーヘッドロスを減らし、総合力を発揮できるよう体制を強化します。こうして得られた利益を、将来の成長に向けた投資に回したい。
──デジタル・チャイナ(神州数碼)グループなど、中国の大手SIerと御社は密接に交流しておられますね。
岡本 中国の企業とは、オフショア開発も含めて30年近くつき合っています。もちろんデジタル・チャイナグループとも良好な関係です。地場の有力ベンダーの協力なしには、中国でのビジネス拡大は望めません。だからこそ、誰と組むかはとても重要です。お互いの力量のレベルや相性などいろいろ要因はありますし、知り合って日が浅いと、やたらと権利ばかりを主張されてしまうこともあるでしょう。ただ、私の経験上、双方が胸襟を開き、信頼関係を築くことができれば、あとは一気呵成にビジネスが進む。多くの中国企業は意思決定が速いですし、行動力があります。
──中国・ASEANでの合弁事業が増えそうな気配ですが、御社の意思決定のスピードやガバナンス体制はどうですか。
岡本 意思決定は、ガバナンスなのか、オペレーションなのか難しいところですが、これまで日本のSIerが行ってきたような意思決定プロセスでは、とてもじゃないけど、新興国の成長スピードについていけない。日本の経営は、根幹部分で横並び意識が強く、「みんなそうしている」といわれると、つい「そうかな」と思ってしまうフシが、どうしてもあるのではないでしょうか。今回の当社グループ3社の合併では、意思決定をよりスピーディにすることも狙いの一つです。海外での合弁会社が増えれば、合弁先との調整もありますので、ことさら迅速に決断しなければならない場面も増える。このような状況に耐えられる体制づくりを急ぎます。
──ずばり、海外での売り上げ目標は?
岡本 海外売上高比率は早い段階で10%台に拡大させます。数年前は漠然とした目標でしかありませんでしたが、今は十分に実現可能な、確かな手応えを感じていますよ。
・こだわりの鞄 スイスのBALLY(バリー)は、今から10年ほど前、ニューヨークで購入した。「一泊程度の出張にちょうどいい大きさ」と、岡本晋社長とともに、あちこち旅行してきた。「ある日、取っ手がとれてしまったが、日本でも快く修理に応じてくれて助かった」と、お気に入りの様子。
眼光紙背 ~取材を終えて~
十数兆円規模に成長してきた国内情報サービス業は、日本の重要な基幹産業の一つに育ってきた。だが、海外のITベンダーに比べると、グローバル化という側面ではいささか見劣りする。岡本晋社長は、「需要があるところに自ら出て行くべき」と、IT投資が旺盛な中国・ASEANへの進出を加速する。
その一方で、「自らを基幹産業だと自負するのは、当社を含めておこがましい話。うぬぼれるのは好きじゃない」と、あくまでも顧客を支える“黒子”に位置づける。さらに、クラウドなど最新の技術を常に習得して、国内外での高い競争力を誇る「プロの黒子であるべき」とも。
日本経済の低成長が続くなか、日本の情報サービス市場も決して楽観視できない。先がみえない「混沌とした状態からいち早く脱却しなければならない」と、従来の業界の殻を打ち破るかのように、グループの総力を上げて新規ビジネス、市場創出に努める。(寶)
プロフィール
岡本 晋
(おかもと すすむ)1943年5月12日、東京生まれ。68年3月、東京大学文学部卒業。同年4月、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。75年、東洋情報システム(現TIS)入社。90年6月、取締役。92年4月、常務取締役。96年6月、代表取締役専務。04年4月、代表取締役社長。08年4月、TISとインテックホールディングスが経営統合。共同持ち株会社のITホールディングス代表取締役社長に就任。情報サービス産業協会(JISA)副会長。
会社紹介
ITホールディングスの今年度(2011年3月期)連結売上高は、ソランが加わったこともあって前年度比6.7%増の3350億円、営業利益同3.2%増の165億円の見込み。また、2011年4月1日付でTISとソラン、ユーフィットが合併。新生TISが発足する予定だ。クラウド対応の大規模データセンター(DC)の建設を進めており、2011年に新設する予定のDCを含めた合計床面積は約12万m2と国内有数の規模を誇る。