シスコUCSの事業展開を本格化
──2011年2月に、御社は日本では初の販社として、米国の大手ネットワーク機器メーカー、シスコシステムズの「ハイバリュー・ディストリビュータ」になりましたね。
齋藤 そうです。この契約によって、当社はシスコのサーバー「Cisco Unified Computing System(UCS)」のすべての製品を、ディストリビュータとして提供できるようになりました。全ラインアップのリセールができるのは、日本では私どもだけです。2月にすでにUCSの受注をいただいており、好調なスタートを切りました。
当社は、設立当初は営業中心の体制だったのですが、2010年に、親会社から技術者を転籍してもらったり、また、積極的に中途採用を行うなどして、技術体制を大幅に強化してきました。今は、社員の約3分の2が技術者です。シスコとハイバリュー・ディストリビュータの契約ができたのは、技術を強化してきたからだと思います。
──ハイバリュー・ディストリビュータの契約は、御社とシスコシステムズにとって、それぞれどういうメリットがあるのでしょうか。
齋藤 シスコの社長から、UCSをはじめとして日本法人の事業を爆発的に拡大したい、ということを聞いています。シスコさんは、“中立的な立場”をとってメーカーとSIerをつなぐ当社が、新しいチャネルを開拓するために最良のパートナーだとみているのでしょう。一方、当社にとってのメリットは、シスコのUCS製品をトータルで提供できることによって、SIerに対してのサポート力を高めることができることにあります。競合に比べて有利な立場に立てるわけです。
今後、ハイバリュー・ディストリビュータになったのを機に、シスコの製品を当社なりに噛み砕いて、独自のソリューションとして提供していきたい。4月には5~6人程度の人員を配したUCSマーケティング部署を新設し、技術と販売の両面においてUCSの事業展開に本腰を入れていきます。
とはいえ、当社はシスコさんとの強いパートナーシップを重視しながらも、「シスコのハードだけ売る会社」にするつもりはありません。日本市場の開拓を狙う海外のネットワーク機器メーカーが数多くあるので、彼らとの販売代理店契約も増やしたいと考えています。すでにリバーベッドテクノロジーとラドビジョンの2社と販売代理店契約を締結しており、シスコの製品と競業しない領域で、海外メーカーの取り扱いを拡大していく方針です。
──昨年から加速化しているクラウドコンピューティングの普及がネットワーク業界に刺激を与えはじめています。齋藤社長は、クラウドによるビジネスチャンスをどうみておられますか。
齋藤 クラウドの普及は間違いなく大きなビジネスチャンスになると思います。しかしながら、当社はディストリビュータなので、どのようなかたちでクラウドに取り組んでいけばいいかがポイントになります。クラウド事業者になる気はありませんから(笑)。クラウドビジネスの切り口として考えられるのは、サービスプロバイダやデータセンター事業者に向けたソリューションの提供です。自社が自らクラウドを展開するのではなく、クラウド事業者を“お手伝いする”ことに、今後の商機があるとみています。
──クラウドに加え、IT業界で注目を集めているキーワードといえば、海外進出ですね。
齋藤 そのとおりです。最近、ネットワングループのなかでも、「来年度、海外どうするの?」という声がよく聞こえています。一般的に、海外に進出した製造業や金融業の日系企業に向けてネットワークの保守サポートを提供することが一つの事業展開として考えられます。しかし、当社は体制やビジネスモデルの特徴からすると、とくに単独では海外進出がまだ難しいと思います。そのため、当面は日本国内だけで事業を展開していきます。
・お気に入りのビジネスツール齋藤社長がこだわりをもっているのは、鞄や、万年筆などの筆記用具ではなく、腕時計なのだ。見せてくれたのが、スイスの老舗メーカー、ロレックス製の高級時計。「気分転換のために、先日、デパートで購入した。ちょっとした若作りの意も含めて…」と笑顔をみせる。
※編集部注 このインタビューは、東日本大震災が発生する前の2月9日に行った。今回の大震災に際して、齋藤普吾社長は、「被災された皆様とご家族に心よりお見舞い申し上げます。また、避難所などで本当に不便な生活を強いられている方々も多数いらっしゃいますので、一日も早い復旧・復興を心より願っております。微力ながら弊社としても出来る限りの支援活動をさせていただきます」というコメントを寄せた。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ネットワーク業界は狭いことを実感した。昨年末、「年頭所感」の取材で齋藤社長に初めて会ったときに、本紙を持参して、齋藤社長に見ていただいた。その号は、若手のIT業界関係者を紹介する連載企画「FACE」に、WAN最適化のソリューションを展開するリバーベッドテクノロジーの伊藤信マーケティングマネージャーが登場していた。齋藤社長は、「FACE」の記事を見て、「先日、伊藤さんに会ってきたばかりですよ」と語った。そして、今回のインタビューの際にも、またリバーベッドテクノロジーの社名が出てきた。齋藤社長は、ネットワンパートナーズがリバーベッドと販売代理店契約を締結したことを話したのだ。
ネットワーク業界は狭いだけでなく、常に新しいパートナーシップを組む動きがある。ネットワンパートナーズはシスコシステムズの製品を売るための会社として設立されたが、齋藤社長は1社との関係だけに依存しないようにと、事業展開の範囲を広げることに積極的に取り組んでいる。(独)
プロフィール
齋藤 普吾
(さいとう しんご)1954年10月24日生まれ。芝浦工業大学工学部工業経営学科卒業。日本電気システム建設(現NECネッツエスアイ)を経て、94年、ネットワンシステムズに入社。公共・パートナー事業本部長、エンタープライズ事業本部長などを歴任した後、2006年に同社取締役、07年に同社常務取締役に就任(現任)。2008年にネットワンパートナーズ設立とともに同社代表取締役社長に就任。
会社紹介
大手ネットワークインテグレータのネットワンシステムズの100%子会社として、2008年11月に設立。ネットワーク関連の製品/ソリューションをシステムインテグレータなどのパートナー企業に提供し、パートナーと共同でのソリューション開発をビジネスとしている。現在、グループ全体の中での売上比率は約10%。社員数(2010年8月現在)は111人。