来年度の中国売上目標は20億円
――御社は年内をめどに、香港に仮想データセンター(DC)を開設することを公表しておられます。クラウドインフラ提供の事業を、中国をはじめアジアへと拡大することを目指しているということですね。
石田 クラウド環境の構築に必要なインフラを提供する事業は、日本国内で非常に活発になっています。当社の東京仮想DCが満床になりつつあって、需要拡大に対応するために、今秋、関西に新しい仮想DCを開設します。クラウド事業の毎月の伸び率は15%と、ISP向け事業の年間伸び率に相当しており、もうすぐ月次で黒字化するところにきています。これからは、年内に開設予定の香港仮想DCをベースとして、クラウド事業をそのまま中国でも展開していくつもりです。
先日、ソーシャルゲームを提供する中国大手のゲーム会社「Hoolai Game」に、中国で初となるお客様として、中国向けクラウドインフラサービス「フリービットクラウド VDC China Package」の採用を決めていただきました。Hoolai Gameは日本を含めてアジアでの事業拡大に取り組んでいて、当社とアマゾンの2社のクラウドサービスを検討していましたが、フリービットが年内に香港に仮想DCを開設することを踏まえて、当社のソリューションの採用を決断していただいたそうです。同社は、現時点では東京仮想DCを用いていますが、今後は、香港仮想DCを利用することを計画していると聞いています。
――御社が中国ビジネスに力を入れておられる背景には、中国でM2Mを基盤とした「スマートシティ」が急速に普及している状況があると思います。日本では「スマートシティ」が普及しないという見方でしょうか。
石田 無理ではないですかね。日本は規模があまりにも小さすぎるので。一方、中国はここ数年、毎年のように新しい「スマートシティ」が誕生するという勢いで普及が進んでいます。中国政府は経済の発展とともに、農村部を都市化させるという大規模な課題に直面しており、その一環として、各地方政府と連動して「スマートシティ」のインフラ構築に注力しています。中国は「スマートシティ」の需要が旺盛なだけでなく、政府によるITベンダー向けの支援策が充実しているのも、日本と比べての大きな違いです。例えば、合弁会社のFBIIがチャイナ・テレコムと連携してM2Mのインフラ構築に携わっている無錫市は、DCを無償で提供してくれたり、電気代や税金を低くしてくれています。市はITベンダーの社員寮までつくってくれており、およそ35~40m2の部屋を日本円でいえば1万円ほどの家賃で借りることができます。
――石田社長は以前の本紙取材で、将来、フリービットの本社を中国に移すといっておられました。
石田 中国ビジネスの今後の成長戦略に合わせて、グローバル本社というかたちで主要拠点を中国に移設していく計画のもとに物事を進めています。最先端技術が揃った中国をベースとして、事業展開をアジア各国に拡大する。2年くらい前から、社員にそういうメッセージを送っています。当社は本社を中国に移すにあたって、社員にオンラインで中国語講座を受けさせたり、中国でのビジネスに全面的に対応できる人材の育成を強化しているところです。
――中国事業の今後の売上目標を聞かせてください。
石田 来年度(2013年度3月期)は中国ビジネスを約20億円の売上規模に引き上げて、徐々に伸ばしていきたいと考えています。
・お気に入りのビジネスツール中国大手のコンシューマ向けデジタル機器メーカー、aigo社の携帯型プロジェクター。名刺入れと同じくらいのサイズを実現した小型・軽量ボディが特徴だ。「これをポケットに入れて、いつでもどこでも簡単にプレゼンテーションができる」とお気に入りの理由を語る。
眼光紙背 ~取材を終えて~
今年5月に、フリービットがFBIIとチャイナ・テレコム無錫支社との戦略提携を発表した。それをきっかけとして、取材を申し込んで、石田社長に初めてインタビューに対応していただいた。取材の際、石田社長は本社を中国に移設する計画を明らかにし、記者を驚かせた。ここ数年、海外進出を本格化して、海外に拠点を増やすITベンダーが多くなっているが、日本で上場している企業が本社を海外に移すというケースは、これまではなかっただろう。
フリービットは技術者を中心とした企業だ。「社員には、完全に中国で活躍できる人がまだ少ない」と石田社長。その対策として、フリービットは、このところ中国人留学生を積極的に採用したり、社員が中国でビジネスができるスキルの向上を支援している。石田社長は、「幹部は中国対応ができなければ、当社では昇進できない」とハードルを高くしている。(独)
プロフィール
石田 宏樹
(いしだ あつき)1972年生まれ、39歳。1995年8月、大学在学中にインターネット関連コンテンツ制作などを手がけるリセット社を設立し、同社取締役に就任。同年10月に、三菱電機からISP(インターネットサービスプロバイダ)設立の参画依頼を受け、ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)の立ち上げに携わる。99年4月、DTIの最高戦略責任者に。2000年7月、フリービット・ドットコム(現フリービット)を設立し、代表取締役社長兼最高経営責任者に就任、現在に至る。07年10月からDTIの社長を兼任。
会社紹介
2000年5月、フリービット・ドットコムとして東京・渋谷に設立し、インターネットサービスを提供する事業者(ISP)に対して、インフラ提供サービスを開始する。02年、社名をフリービットに変更。07年に上場し、同年、ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)を子会社化した。ISP向け事業のほかに、インターネットデータセンター(iDC)のアウトソーシングサービス事業やユビキタス家電の企画・設計・製造のアウトソーシングサービス事業などを手がけている。従業員数は262人(2010年4月30日現在)。