国外売上高比率を6割にする
――先ほど、日系SIerとの提携目的としてグローバル化を挙げられましたが、中国の内需拡大は相当なものです。当面は中国国内だけで十分成長できるのではないでしょうか。
劉 中国の経済発展はご存じの通りで、そう遠くない将来に米国とほぼ同等の市場規模となり、人口ベースで考えれば、今の日本の10倍の市場へ拡大することも夢物語ではありません。当社の中国国内での成長の余地は、果てしなく大きいでしょう。ただ、これは私のこだわりでもあるのですが、“グローバルカンパニー”というのは、一つのノウハウであり、企業文化に根ざしたものだと思っているのです。つまり、グローバルで成長するというのは、その企業に備わった“能力”とでも言い換えられると思います。
日本の製造業はグローバル企業を何社も輩出してきましたし、これによって今の日本の経済発展があるわけです。少々手前勝手な言い回しですが、例えば、あるITソリューションを中国で100万元で売ったとします。同じ商材が日本や欧米でも評価を得て売れたとします。するとおよそ貨幣価値の差が5倍ほどありますので、人民元に単純換算して500万元で売れることになる。これだけでも今の当社が海外へ出るメリットが大きいことがおわかりでしょう。直近の国内と国外の売上高比率は約7対3で国内が多いのですが、これを向こう10年で4対6と逆転させる構想です。いずれ人民元の価値が上昇し、中国の所得や消費水準も高まりますので、まさに時間との勝負です。
――世界市場での競争力を保つために、独自のITソリューションの開発に力を入れているということですか。
劉 そうですね。そのためには社員の給与水準を高めて、すぐれた人材を多く投入しなければなりません。当社は2010年から5年間、平均給与を年率10%の割合で高めて、人材確保に努めています。研究開発費と相まって利益は圧迫しますが、それでも世界市場で戦っていくには、必要不可欠な投資です。直近の国外売上高比率の約3割のなかには、日本や欧米からのオフショアソフト開発などのアウトソーシングサービスが多く含まれます。グローバル視点でマネジメントできる人材や、IBMなど世界の有力なITベンダーと互角に戦える商材開発という面では、残念ながらまだ道半ばです。
――グローバルで成功するために、どのような手を打とうと考えておられますか。また、今後、TSOLやNECに求めるものは何でしょうか。
劉 中国国内で当社が展開しているような全方位の総合的なITサービスを、いきなり世界に持ち込むわけではありません。リソースが分散して、勝てるものも勝てなくなってしまう。まずは自動車関連、モバイル、医療・ヘルスケアの3領域に絞って世界に挑む方針です。TSOLやNECの幹部の方々には、「中国だけでなく、いっしょに世界でシェアを獲得しましょう」とメッセージを送っています。ビジネスにとって競争はもちろん重要ですが、協業もまた重要なのです。
・お気に入りのビジネスツール「今日はSymbian OSの携帯だけど、明日はAndroidかもね」と、最新のモバイル端末がお気に入りのビジネスツール。ほかにもWindows MobileやiPhoneなどを揃え、「ジャラジャラといくつも持ってると、たまにケータイ売ってる人と間違われることもある」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「日本のITソリューションは、日本で考えられている以上に価値がある」──。劉積仁董事長兼CEOは、中国市場に向けたビジネスで東芝ソリューションやNECと相次いで合弁事業を立ち上げた理由について、このように語った。
先進的なシステムの一例として挙げるのは、健康保険や年金などの社会保障関連だ。「いずれ訪れる中国の少子高齢化は、日本の経験が役立つ」と、日本がもつノウハウは“宝の山”に映る。中国政府はこれまで鉄道や高速道路、港湾といったインフラ投資を先行してきたが、今後は保険や医療制度の近代化を急ピッチで進める見込みだ。
劉董事長は、こうした情報サービスへの需要拡大が期待される有力分野で日系ITベンダーのノウハウが生きるとみている。協業は中国国内だけにとどまらず、「アジア全域に協業範囲を広げたい」と、得たノウハウを一寸たりとも“宝の持ち腐れ”にはしない姿勢をみせる。(寶)
プロフィール
劉 積仁
(JIREN LIU)1955年、中国遼寧省丹東生まれ。80年、中国の東北工学院(現・東北大学)計算機応用学科を卒業。86年、米国家技術標準局コンピュータ研究院に留学。87年に帰国後、博士号を修得。88年、東北大学の教授。91年、アルパインとの産学協同で、後の東軟集団の母体企業となる「瀋陽東工アルパインソフトウェア研究所」を設立。現在、東軟集団の董事長兼CEOであるとともに、東北大学副学長や中国軟件行業協会(CSIA)副理事長、中国自動化学会常務理事などの要職も務める。
会社紹介
東軟集団(ニューソフトグループ)の2010年12月期の連結売上高は前年度比18.5%増の49億3700億元(約600億円)、利益総額は同23.1%減の5億6000万元(約67億円)の増収減益。人材開発や研究開発の先行投資がかさんだ。同社の年商規模を日本での感覚に置き換えると“3000億円クラブに属するトップSIer”であり、技術力のある実力派SIerとして中国の情報サービス業をリードしている。東芝ソリューションやカーナビメーカーのアルパインなどと深い関係にある。