戦略的ポジショニングで成長へ
――DCを活用したアウトソーシングサービスは、成熟度が増す国内情報サービス市場にあって数少ない成長分野です。それだけに競争が激化しており、御社としてはどう勝ち残るお考えですか。
ウォーリー 当社の強みはグローバルな通信ネットワークへの接続性と、クラウドコンピューティングなど高度な情報システム運用への対応の大きく二点が挙げられます。
通信回線は香港、シンガポールなどアジア金融都市と太い回線で接続しており、米シカゴや欧州方面へも帯域を確保し、遅延の低減に努めています。ソウルやオーストラリアのシドニーへも2012年早々に接続する予定です。
クラウドへの対応は、わかりやすい指標の一つに電源があります。古いサーバーでしたら1ラックあたりせいぜい3kVAあれば十分でしたが、今の小型で高い処理能力をもつサーバーを、さらに仮想化して集積度を高めているクラウド型では、1ラックあたり6~8kVAは必要です。印西DCは最大で20kVAまで対応できるうえに、DC全体の電力消費をIT機器の電力消費で割ったPUE指数を1.5以下に抑えられる省エネ性能を誇っています。
――業務アプリケーションに踏み込んだアウトソーシングサービスは手がけないのですか。
ウォーリー 当社はDC事業者ですので、業務アプリケーションより上のレイヤーは、ビジネスパートナーであるSIerにすべて委ねています。“戦略的ポジショニング”と呼んでいますが、当社は高速で大容量のネットワーク回線への接続性、DCという物理的な設備、サーバーの性能をフルに引き出すコンピューティングプラットフォームのレイヤーまでをビジネス領域と定めているのです。つまり、そのレイヤーより上の領域はSIerと組むということです。
――ユーザー企業の中国・ASEAN地区への進出増加や、クラウドへの対応は、SIerにとってビジネスチャンスでもあると同時に、先行投資が予想以上に重くのしかかっています。
ウォーリー グローバル化とクラウド対応は、ある意味セットで考えるべきことなのかもしれません。クラウドは世界のどこからでもサービスを利用できるアーキテクチャですから、当然、それ相応の通信回線の帯域も求められます。クラウドのイメージとして広く使われている“雲”の図柄はネットワークのなかにあるということを象徴しているわけです。また、先の電源の例でもそうであったように、クラウドはDCへの情報システムの集約という側面を持ち合わせているので、IT機器は従来よりも高集積、高性能なものが求められる。そうなるとこうした機材への先行投資の額も増え、規模のメリットがますます無視できなくなります。
SIerはシステム構築(SI)が本業なので、クラウドのインフラ部分は当社のようなDC運営と通信ネットワークのプロに任せるのが最適だと考えています。SIはユーザー企業の業種や業務を知り尽くしたカスタムメイド的な付加価値が多くを占めますが、クラウドインフラはある程度規模がないと厳しい。当社は積極的に規模の拡大を図っていくことで、2015年には2010年比で売り上げ倍増を目指します。
・こだわりの鞄100年余りの歴史がある老舗「GLOBE TROTTER(グローブ トロッター)」のビジネスバッグがお気に入り。「私の祖父母も同じブランドの旅行鞄を持っていた」とウォーリーCEO。映画タイタニックの影響もあってか、「近年、再び人気が出ている」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
KVHは東京に本社を置くDC事業者であり、グローバル規模でのビジネス展開に強みをもつ。社員のグローバル化も進んでおり、総員およそ450人の国籍は世界26か国にもなる。
「複数言語への対応も可能で、ユーザー企業やビジネスパートナーであるSIerの海外展開を支援する」(リチャード・ウォーリーCEO)と、他のDC事業者との差異化ポイントをアピールする。また、DC設備と通信、コンピュータの三つの運用能力に長けていることが受注増につながり、最新鋭の印西DC(千葉)は竣工から早々に拡張を決めている。
ユーザー企業がサーバーを自らの手元に置いておきたいという要望が強かった日本は、「DC中心のクラウド化については、世界に比べて2年ほど遅れていたが、震災を境に潮目が変わった」とみる。今後は災害対応能力の高いDCへの集約がさらに進み、クラウドはより一層の大規模化を遂げると予測する。(寶)
プロフィール
リチャード・ウォーリー
(RICHARD WARLEY)1965年、英国ドーチェスター生まれ。87年、英London School of Economicsで経済学修士を修得。91年、英College of Lawで法学学士を修得。投資銀行やコンサルティング会社、データセンター事業者などを経て、2008年、KVH株主の米フィデリティ投信グループのプライベートエクイティ部門Devonshire Investorsに入社。情報通信グループ担当マネージング・ディレクター兼グローバルCFO。2010年9月、KVH最高経営責任者(CEO)に就任。
会社紹介
KVHは米フィデリティ投信グループの事業子会社である。英国のITサービス事業者のcolt社とは兄弟会社。KVHはおよそ1850社の顧客を擁し、うち日系企業が6割強、外資系企業が4割弱で構成される。また、売上高ベースでは、高い信頼性を重視する金融サービス系の顧客が約4割を占める。国内で4か所のDCを運営するとともに、アジア太平洋地区を中心に太い帯域の通信ネットワーク網を展開する。