「BtoC」を利益を出す事業にする
──弱いところというのは、中堅・中小企業(SMB)やコンシューマ市場を指すのでしょうか。
渡辺 そうです。SMBとコンシューマ市場は、これからアタックする対象に据えています。
当社は、従業員数1000人以上の企業を「大手」と定義し、そこに対してハイタッチ営業を行っていますが、従業員数1000人以下のユーザー企業への営業は、チャネルパートナーに任せています。SMB向けビジネスを強化するために、まずは、販売パートナー向け支援の充実を図ることに取り組みます。過日、製品情報を提供するポータルサイトをリニューアルしました。さらに、タブレットを活用して製品のデモを行うなど、新しいパートナー向け営業ツールを開発しています。一方、コンシューマ事業では、家電量販店の中に「ショップ・イン・ショップ」をつくり、当社製品をカスタマイズするかたちで販売する場づくりに力を注ぎます。
──SMBもそうですが、とくにコンシューマ事業は、収益を出すことが難しくなっているように思われます。御社にとって、本当にSMB/コンシューマの分野に注力する価値はあるのでしょうか。
渡辺 おっしゃる通り、SMB/コンシューマは利益を確保しにくいセグメントであることに違いはありません。しかし当社は、この分野ではまだまだ伸びしろが大きく、かつグローバル大手であるという強みをもっているので、収益性を上げることは可能だとみています。収益向上のためのポイントとなるのは、販売のボリュームを増やすこと、つまり、シェアを引き上げることです。レノボ・ジャパンは、コンシューマ市場での現時点のシェアは8%前後ですが、この数字を2ケタの水準にもっていくことを目標としています。そうすることによって、法人向けだけでなく、「BtoC」も利益を出す事業にしていきたい。
──IBMは、各国の法人がその国に合った事業戦略を立てて、あたかも現地企業のようにビジネスを展開することで知られています。渡辺社長は、レノボ・ジャパンで日本独自の戦略を実現するために、本社からどのくらいの自由度を与えられていますか。
渡辺 レノボは、大きな戦略はグローバルで決めますが、そのフレームワークのなかで、各国法人が“ローカル”として動くことができます。レノボ・ジャパンに入って、ビジネス戦略を練る自由度がとても高いことにびっくりしました。「守り」と「攻め」のグローバル戦略を柱とし、自由をフル活用して日本ビジネスを拡大していきたい。
──昨年、NECとの「パソコン事業連合」がIT業界に衝撃を与えました。ここにきて、成果も出始めていると聞いています。今後、NECとの連合に類似するようなかたちで、例えば、日本のテレビメーカーとの協業も考えられるでしょうか。
渡辺 今のところは、検討していません。今後は、テレビの市場動向や日本のテレビメーカーの業績推移などをみて、慎重に検討していきたいと考えています。当面は、「パソコン」の分野で事業拡大を図ることを最優先で推し進めます。
・こだわりの鞄 2年ほど前に購入したコーチ(COACH)製のバッグ。「何より、財布や手帳といった小物が取り出しやすいのがいい」と、使い勝手のよさがお気に入りポイントだそうだ。渡辺社長は、「女性用のビジネススーツは通常、財布などを入れる内ポケットがないので、私にとってバッグは欠かせないアイテムだ」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
昨年、NECとレノボがパソコン事業で協業することが明らかになったとき、渡辺社長は、「外からみて、正直、驚いた」と述べる。
レノボ・ジャパンは、「レノボ・NECホールディングス」の設立から約9か月のタイミングで社長交代を実施した。渡辺社長はレノボ・ジャパン本体のオペレーションを手がけ、前社長のロードリック・ラピン氏と異なり、本体の社長とホールディングスの会長を兼務することはしない。ホールディングスの会長は、以前と同じく、ラピン氏が務める。このように“役割分担”が明確な新体制をつくった取り組みからは、NECとの協業においてまだ改善できる部分があると読み取ることができる。渡辺社長は、「『1+1』で『2以上』の結果が出ている」とコメントし、NECとの協業の進捗状況についての具体的な発言は避けた。両社は今後どう動き、どう協業を拡大するか興味深いところである。(独)
プロフィール
渡辺 朱美
渡辺 朱美(わたなべ あけみ)
九州大学理学部数学科を卒業後、1986年4月、日本IBMに入社。ノートパソコン「ThinkPad」などの製品開発エンジニアを経て、日本・アジア太平洋地域でThinkPadのブランドマネージャーを務める。2000年から2001年にかけて米IBM本社に赴任後、日本IBM公共事業の営業部長や執行役員バイスプレジデント(VP)システム製品事業担当(全ハードウェア事業責任)を歴任。2010年から、執行役員VPとしてインサイド・セールス事業を担当。2012年4月1日、レノボ・ジャパンの社長に就任した。
会社紹介
2005年、中国と米国に本社を置く大手パソコンメーカーであるレノボ(聯想集団)の日本法人として設立。ノートパソコン「ThinkPad」や「IdeaPad」のほか、デスクトップPCやサーバー、ワークステーションなどを提供する。2011年7月1日、レノボが51%、NECが49%を出資する合弁会社「レノボ・NECホールディングス(Lenovo NEC Holdings B.V.)」を設立した。