日系SIerとも多面的な協業を検討
──日本でも、ユーザー企業からの直接受注する割合が高いのですか。 李 基本的には、情報システム子会社を含むユーザー企業グループからの直接受注がビジネス全体の8割を占めます。ユーザー側からの「日本のSIerの○○社とは長いつき合いだから」という事情によって、アンダーに入ることはありますが、これは例外です。多重構造のなかにあっては、デリバリーセンターを活用したオフショアソフト開発のコストメリットが十分に生かせない。何かよほど大きなメリットがなければ、日本のユーザー企業は外国のSIerに仕事を出したがらない傾向にありますので、当社が築いてきたグローバルデリバリーモデルのメリットを強く前面に押し出すことで、直接受注のウェートを高めていきたい。
──グローバルデリバリーモデルは、IBMやアクセンチュアが主にインドを活用することで確立したビジネスモデルです。御社では、インドを中国に置き換えて実践するということですね。 李 グローバルで存在感あるSIerに成長するには、グローバルデリバリーモデルの確立が不可欠だと考えています。しかし、だからといって、今すぐ世界トップグループのIBMやアクセンチュアを目指すというわけではなく、その前ステップとして、まずはインドの大手SIerであるタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)やインフォシスなどをロールモデルにしたい。彼らは欧米ユーザー企業やITベンダーとの深い結びつきを足がかりに、グローバルベンダーへと成長しました。
インドで動員できるSEやプログラマの規模をみると、トップグループは数万人から10万人に達します。これに対して、当社はまだ1万人未満。中国東北地区には当社のほかにも有力SIerが多数あり、例えば東軟集団(ニューソフト)はおよそ2万人と聞いていますから、規模としてもグローバルデリバリーモデルを実践する世界トップグループとはまだ距離があります。
──プライム(元請け)志向の強い御社の場合、日系SIerやソフト開発ベンダー(ISV)と“協業”するというよりも、“競合”するケースのほうが多くなりそうです。 李 ケース・バイ・ケースです。中国で勤務する当社のスタッフは、エアコンの効いた部屋でプログラム作成に没頭している者ばかりではなく、客先に出向いて機材の設置や保守、システムやネットワーク導入作業に従事する人員も多くいます。直近では営業・サポート拠点を含め、中国主要都市に15か所ほど拠点を展開していますので、例えば、日系ユーザーの進出先現場でのITサポートを日系SIerと協業して行うことも可能です。また、双方がもつソフトやサービスを組み合わせた多面的な協業ケースも考えられます。突き詰めれば、ユーザーの満足度が最も高まるよう、互いに強みをもち寄ることで共にビジネスを拡大していきたい。
少なくとも、日系ユーザーのITシステムのオフショアソフト開発先として、今のところ中国に勝てる国はまだないと思っています。政治的には一部摩擦もありますが、経済的にはほとんど影響がないし、やはり業務アプリケーションは文化に依存する部分が多いので、当社を含めて日本式システムを熟知しているベンダーが多い点が、中国の最大のアドバンテージになります。日本向けビジネスでは、こうした強みを生かしながら安定感ある成長を成し遂げていく考えです。
・こだわりの鞄 「TUMI(トゥミ)」のビジネスバッグ。4年ほど前に横浜で購入した。「ITがいくら発達しても、私はスタッフの顔を見ながら話したいので、積極的に第一線に出向く」。日本と大連本社、中国各地のデリバリーセンターを行き来する行動派の李会長にとって、軽くて丈夫な「TUMI」は使い勝手がいいという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「世界に向けて常に視野を広げていく」と、ハイソフト(海輝軟件)ジャパンの李勁松会長は話す。海輝軟件グループの直近の年商は175億円ほどで、日本の大手SIerの年商規模から比べてそれほど大きいわけではない。日中の物価の差を考慮した感覚的な年商は1000億円弱といったところか。中堅から準大手クラスのSIerであるにもかかわらず、日欧米市場への進出意欲は極めて高く、プライム(元請け)案件重視の経営姿勢を貫いている。
この姿勢の背景には、「中国国内を見渡すと、すでに従業員数万人クラスの大手集団ができあがりつつある。今、追いついておかなければトップ集団から取り残されてしまう」という危機感がある。グローバルビジネスで先手を打つことで、伸びしろを確保し、グローバルデリバリー体制の整備を推進。低コストで高品質なサービスを世界に向けて提供することで成長を続け、グローバルでの存在感をより一段と高めていく。(寶)
プロフィール
李 勁松
李 勁松(JINSONG LI)
1969年、中国・大連市生まれ。91年、大連海事大学卒業。92年、コンピュータエンジニアリング会社の川崎重工(大連)科技に5年間勤務。97年、創業間もない海輝軟件(ハイソフト)に入社。以来、日本市場向けビジネスを中心に担当。2009年、中国本社の副総裁に就任。日本法人での役職は代表取締役会長。
会社紹介
ハイソフト(海輝軟件)グループの昨年度(2011年12月期)の連結売上高は前年度比約49%増の2億1800万ドル(約175億円)。地域別売上高構成比は北米が49.3%、日本が18.6%、中国が18.0%、欧州が8.6%、ASEANなどが5.5%。直近では、アジアの最大市場である中国本国でのビジネスの伸び率の高さが目立つ。