ローエンド向けNASが成長のエンジン
──昨年度の成長率は25%だったそうですが、好調な業績のエンジンとなっているのは、どのような事業分野でしょうか。 岩上 昨年度は、ローエンド向けのNAS(ネットワーク対応ストレージ)事業が、大きく売り上げに貢献しました。当社は、中堅・中小企業(SMB)ビジネスの強化を方針に掲げており、NASを中心として、2011年からSMB向け製品のラインアップを拡充してきました。新たに投入したローエンド製品の販売が好調で、昨年度の成長の機動力になっています。
当然の話ですが、SMBをターゲットにする販売パートナーにとっては、製品が売りやすいかどうかが重要なポイントになります。当社のローエンド向けNASは、設置しやすく、エンドユーザーにとっても使いやすいように設計しています。こうして販社にとって売りやすい製品を武器として、引き続きSMBを攻めたいと考えています。中堅・中小企業はデータが急増しているので、SMB向けNAS市場は活性化しています。当社は、11月上旬にミッドレンジの新製品も発売しました。ローエンド/ミッドレンジの製品を揃えて、早いうちにビジネスチャンスをものにしたい。
──ローエンド/ミッドレンジNASは、文教や医療といった業種にけん引される地方市場にもニーズがあると思われます。御社は、2011年11月に、福岡に営業拠点を開設しました。本社を含め、日本で4番目のオフィスです。九州など、地方のビジネスは順調に伸びていますか。 岩上 福岡拠点の開設もそうですが、日本に投資してプレゼンス(存在感)を高めることは、米国本社が日本市場に可能性を感じていることの証です。地方ビジネスの強化は、少しずつではありますが、成果がみえてきています。昨年度、首都圏の売上比率が85%から81%に下がりました。別の見方をすれば、地方ビジネスは4%の伸びをみせた、ということになります。もちろん、これで満足するわけではありません。地方は、とくにローエンド/ミッドレンジ製品に関して、まだまだポテンシャルがあると考えています。
──地方事業の拡大に向けて、今後、どのように動きますか。 岩上 これから、地方の市場を攻めるうえでのポイントは、販売パートナー向けの支援を強めることによって、2次店の数を増やすことです。当社は現在、東京本社でパートナー向けのセミナーを開いていますが、今後、地方でもセミナーを開催することを企画しています。
サービス/サポートの展開を強化する
──岩上さんは、「守破離」という言葉に思いを込めておられるそうですね。 岩上 昔いた会社の上司に教えてもらって、ずっと大切にしている言葉です。「守」は、師の教えを忠実に守ることを意味します。ビジネスの世界に当てはめていえば、売れている営業パーソンのやり方をまねる、ということですね。「破」と「離」は、師から習ったことを破って、師から離れる。それによって、イノベーションを生み出すことを意味します。私は、この言葉を強く意識して、日々の経営活動に生かしています。
今年10月に社長に就任し、「守」の3年間を終えました。次は、経営トップとして、ネットアップを「破る」ことに取り組んでいきます。現時点では業績は好調ですが、このままでいつまでも成長し続けるという保証はありません。3年前に、ネットアップの組織を大きく変えました。来年は、組織をさらに再編し、今後の成長に向けた基盤を築きたいと思います。
──具体的に聞かせてください。 岩上 一つは、クラウドコンピューティングの本格的な普及を受けて、クラウドプロバイダーや、クラウド環境の構築を手がけているシステムインテグレータ(SIer)に特化した営業部隊を立ち上げること。もう一つは、サービス型商材の展開を強化することです。
先ほど申し上げた通り、当社は、2016年度までに売り上げの倍増を目指しています。その達成に向けて、ストレージ機器の販売を伸ばすのはもちろん、サービスやサポートの提供を強めることも必要不可欠とみています。当社が今後展開するサービス/サポートの一例を挙げましょう。例えば、ユーザー企業のCIOに向けたフロントエンド支援が考えられます。これは、ネットアップのスタッフがユーザー企業のシステムの日々のログを拾って、解析することによって、障害を未然に防ぐという保守サービスです。2016年度の売上構成では、このようなサービス/サポートは大きな部分を占めてくると思います。
──日本のユーザー企業は、海外進出を加速しています。ITの販社だけではなく、メーカーもその動きに対応することが必要だと思います。グローバル企業である御社では、どのような施策を講じていますか。 岩上 今年5月に、お客様のグローバル展開に迅速に対応するための体制をつくりました。各国のネットアップ拠点を密に連携しています。これによって、海外に出るお客様に対して、各リージョンのマネージャが連絡を取りあい、国境を越えたかたちで、お客様のニーズに応えられるようにしています。お客様の海外進出を、当社にとってのビジネスチャンスにしたいと思っています。
・FAVORITE BOOK サム・ウォルトン著の『私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ』。世界最大のスーパーマーケットチェーンの創業者が、経営哲学を語る本だ。岩上社長は何度も読み返しているという。なかでも「利益を社員やパートナーと分かち合う」というくだりが気に入っているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
岩上社長に、話題の「ビッグデータ」についても質問した。大量情報を分析し、経営改善に活用するビッグデータは、情報を保存・管理するストレージがソリューションの基盤となる。EMCをはじめ、ビッグデータを事業拡大のキーワードに掲げているメーカーも現れている。
岩上社長は、「ビッグデータのようなバズワードには、あまり興味がない」という。ただし、そう言いつつも、動いていないわけではない。先日、分散処理ソフトウェア「Hadoop」をテーマにしたラウンドテーブルを東京・六本木で開催。参加したエンドユーザー15社から、データ分析・活用のニーズをヒアリングしたという。
「今の段階では、ユーザー企業のニーズを深く理解することが重要だ。非構造化データが伸びていく先はどこかをきっちりと分類し、適切なソリューションを開発するのがポイントになる」との見解を示す岩上社長。市場のニーズを明確に把握したうえで、ビッグデータ関連のビジネスを展開しようとしている。(独)
プロフィール
岩上 純一
岩上 純一(いわかみ じゅんいち)
2009年、ネットアップに入社。営業統括本部長に就任し、ネットアップの日本でのパートナー販売に関する戦略立案を担当する。パートナー企業を中心とする営業体制の確立と顧客基盤の拡大に携わる。2012年10月1日から現職。ネットアップ入社前は、日本IBMで製品部門の事業部長、SAPジャパンで製造業担当バイスプレジデントを歴任。
会社紹介
ストレージシステムの開発・販売を事業とする米NetAppの日本法人。日本での営業やマーケティング、パートナー支援などを手がける。本社は、東京港区・虎ノ門。そのほか、大阪、名古屋、福岡に営業拠点を構える。NetAppの2012年度(2012年4期)のグローバル売上高は、62億米ドル。