マネタイズの仕組みを全国展開
──そうしたコンピュータパワーが電通との協業拡大につながった、と。 釜井 そうそう、本題ですね(笑)。電通との協業ビジネスが拡大したのは、2009年、家電エコポイントが実施された時に、補助金などを申請するのに使う情報システム基盤としてクラウドサービス「Salesforce」が採用されたことがスタートです。電通はグリーン家電普及推進コンソーシアムの幹事会社として参加しており、当社はSalesforceのシステムまわりを担当したことが、本格的な協業拡大のきっかけになったのです。Salesforceは汎用サービスですので、エコポイント用にカスタマイズする必要があります。今さらですが、当社の技術力を電通が高く評価して、2010年の住宅エコポイントについても同じような仕事を電通と一緒に行いました。
当社の事業セグメントでは「コミュニケーションIT」と呼んでいるのですが、直近では大阪梅田駅周辺の再開発計画「グランフロント大阪」の商業施設で、スマートフォンとデジタルサイネージを組み合わせたマーケティングシステムを構築しています。この施設は2013年4月下旬に開業する予定で、デジタルデバイスを使ったマーケティング活動を通じて、さまざまなマネタイズにつながるような仕組みづくりを電通と連携して進めています。開業時にはまだ初歩的な仕組みからのスタートとなる見込みですが、順次、発展させていきたいと考えていますし、ここで得た成果は全国の同様の商業施設への横展開もできると期待しています。
──2013年1月から香港法人の台北支店の営業を開始するなど、アジア市場での拠点整備を着々と進めておられますね。 釜井 直近では北京と上海2か所、深セン、香港、シンガポール、ニューヨーク、ロンドンで、今回の台北を含めると9拠点を展開しています。ASEAN地域についてはタイとインドネシアでの営業拠点の開設を検討中です。先ほどお話ししたように、金融機関向け業務システムや製造業向けのエンジニアリングソフトを手がけてきた実績がありますので、海外ビジネスにおいても金融や製造分野でのビジネスが伸びています。
世界9拠点にASEAN2拠点増設を検討
──海外ではどのようなビジネスが伸びているのですか。 釜井 いろいろありますが、一つはリース会社の海外拠点向け業務システムの上期売り上げが、前年同期比79%増と大幅に増えました。リース会社向け業務システムはヒット商品となり、上海法人の売り上げもこの業務システムの販売が好調なことから39%増と伸びています。金融絡みでいえば、上海だけでなく、ニューヨークやロンドン、シンガポールなどの金融都市における人員拡充も進めていくことで、事業の拡大を図っていきます。
バンコクやジャカルタへの拠点開設の検討については、「中国リスク」を考慮して……というわけではまったくなく、日系製造業が多く進出するタイやASEAN最大の市場であるインドネシアでのビジネスの拡大が見込めるからです。中国との政治摩擦は懸念材料ではありますが、当社の中国ビジネスの事業計画になんら変更はありません。こうした取り組みによって、今期(2013年3月期)のグローバル関連の売り上げは前年度比20%余り伸びて69億円の見込みで、来年度は80億円まで拡大しようと考えています。
製造業向けには、独シーメンスグループのPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)システムの販売で、当社はアジア地域でのダントツのトップセラーですし、CADやCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)といった製品開発から製造、生産管理全般で強みを生かしていきたい。当社が開発した地銀向け業務システム「BANK・R」の中国語版の展開も促進していきます。
また、コミュニケーションITの分野では、2012年5月に製品化したネット通販や決済、顧客管理、ビッグデータ分析などをモジュール化した「iPLAss(アイプラス)」を製品化しています。電通向けのシステム開発を通じて、これまでも700種類余りのマーケティング関連モジュールを開発してきましたので、この分野で顧客からの大抵の要求にはモジュールを組み合わせることで応えられます。アジアは消費市場が急速に拡大していますので、電通との協業を通じてコミュニケーションIT事業の拡大も進めていく考えです。
──来年度(2014年3月期)は中期経営計画の最終年度となりますが、いかがですか。 釜井 今のところ、経営計画で策定した年商800億円、営業利益55億円の目標に変更はありません。国内情報サービス市場が回復基調にあるとはいえ、長期的にみれば、やはり成熟市場です。ただ、当社がこれまで培ってきた金融や製造をはじめとする業種業務のノウハウやアジア成長市場の取り組み、電通グループとしての相乗効果を生かすことで、潜在的な成長余地は依然として大きいとみています。
・FAVORITE TOOL 電通の公式手帳「Dennote」。電通に入社以来、37年間、愛用している。新聞や中吊り広告の単価表、全国の系列テレビ局の略称一覧など「資料編が駆け出しの頃にはとても役に立った」と振り返る。使っているうちに慣れてしまい、「デジタルの時代だからといって、来年からスマートフォンに置き換えようとは思わない」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
冬本番を迎えようとする時期に釜井節生社長へのインタビューに臨んだ。当日、「まあ、窓の外でも見てください」と言われ、促されるままに応接室から外を眺める。すると、三菱グループの旧岩崎家高輪別邸沿いに植えられている落葉樹が鮮やかに色づいていた。寒暖の差が大きかったこともあって、ひときわ鮮やかだ。
経営に当たっては、「日本経済が抱える大きな課題をどう解決するのかということを、まず念頭に置くようにしている」という。人口減少で長期的に厳しい局面にあるなか、「いちSIerができることは限られる。だからこそ、さまざまな人や企業との連携を通じて、日本経済を再び活性化させるお役に立ちたい」と話す。
記者に最初に窓辺の風景を見せたのは、「この美しさを色褪せさせるわけにはいかない」という釜井社長なりのメッセージであろう。大きな方向性を示すことで、協業しやすい雰囲気づくりを大切にしていることがうかがえる。(寶)
プロフィール
釜井 節生
釜井 節生(かまい せつお)
1952年、東京都生まれ。75年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、電通入社。83年、米ニューヨークへ出向。88年、ISLマネージメント(スイス)出向。02年、常務執行役員、財経本部長。06年、常務取締役CFO。09年、電通国際情報サービス専務。10年4月、代表取締役社長就任。
会社紹介
電通国際情報サービス(ISID)は電通グループのSIerだ。今期(2013年3月期)連結売上高は前年度比6.0%増の677億円、営業利益は同43.9%増の33億8000万円の見込み。ここ数年、着実に業績を伸ばすとともに、欧米やアジア成長市場に向けた海外展開も積極的に進めている。