難しい技術を形にする
──順調に成長しているということで課題はなさそうですね。 森田 いや、そんなことはありませんよ。売り上げの中身をみると、必ずしもすべてが理想的とはいえません。本当に販売したい製品が立ち上がっていない。例えば、
12年度の初頭に「今年はシスコの年にする」と宣言し、「UCS」や「Nexus」などの販売に力を入れたのですが、マーケットやユーザー企業のニーズも含めて、やっと準備が整ったところで、まだまだ数値としては満足できるものではない。また、伸びている製品についても、技術的な価値をきちんと提供できているかといえば、まだまだ。メーカーのチャネル制度に守られていたというのもあります。ですので、実力以上の売り上げとも捉えています。
──12年度に出てきた課題を解決してビジネスを拡大するために、13年度はどのようなことに取り組むのですか。 森田 社長としては、達成は困難を伴うとしても将来が見込めるという目標を立てなければなりません。大きなビジョンとしては、「バリュー・アデッド・ディストリビュータ」、言い方を換えれば「ソリューション・ディストリビュータ」として、「コンバージド(融合)・インフラストラクチャ」の提供を目指しています。そのために、米VCEと販売代理店契約を結んでプライベートクラウドのインフラ基盤「Vblock」の販売を開始したほか、ネットアップの垂直統合アーキテクチャ「FlexPod」の提供に力を入れています。また、ストレージ関連では、米Fusion-ioと販売契約を結び、フラッシュメモリに直接アクセスを可能にするソフトウェア開発キットを販売しています。さらに、在宅勤務やテレワーキングという観点からいえば、VDI(仮想デスクトップインフラ)をベースとしたソリューションの提供も必要になってきます。ただ、VDIはWindowsの技術にかなり精通していなければ構築するのが難しい。そこで、検証に検証を重ねたパッケージを提供しています。もちろん、シスコの「Nexus」も引き続き販売していきます。
このように、ITインフラの構築に向けて、さまざまな技術や製品が出ているのですが、裏を返せばインフラ構築が難しくなってきているということです。サーバーやストレージ、ネットワーク、ソフトウェア、仮想化など、すべてを知っていなければならず、技術者リソースが求められます。また、構築に半年や1年といったように、かなりの時間がかかる。これではユーザー企業のスピード経営についていけません。さらに、ユーザー企業のグローバル化にも対応しなければならない。そのため、ディストリビュータとしていち早く技術を習得し、販売パートナーがグローバル標準の最適なシステムをいかに構築できるかということに重きを置く必要があります。大げさな表現かもしれませんが、ディストリビュータの当社がメーカーにならなければならないとも考えています。マルチベンダー化を遂行して、各メーカーの製品や技術を把握し、いかにコンバージドしたインフラを構築するための素地を固めるか、これが重要になっているのです。決して多いとはいえませんが、人材も揃っていますので、バリュー・アデッド・ディストリビュータとしてコンバージド・インフラストラクチャの提供を目指すというビジョンを達成できると確信しています。
独特なリズムの連携で差異化
──確かに、業界のなかで御社は難しい技術にも対応するとの評価が出ていますが、技術者の教育で変わった取り組みなど、スキルアップに関して何か秘訣はあるのですか。 森田 社長の私自身が新しもの好きで、類は友を呼ぶではありませんが、そのような社員が集まっているのです。また、社員には「失敗してもいいじゃないか」と言っています。私自身、現場にいた頃は、売れると思って、ある新しいメーカーの製品を仕入れたのに一個も売れなかったという経験があります。その時は非常にショックでしたが、その失敗を次の成功に結びつけようと考えました。ですので、次の成功に向けて社員には「やるからには、とことん過激にやっていい」とも指示しています。そのなかで、自動的にリーダーが出てきて、そのリーダーが仲間とノウハウを共有する。後輩や部下がリーダーから学んだことを吸収して、リーダー格として育つ。当社にはそんなサイクルが根づいているのです。
当社は決して大きな会社ではありません。競合といってはおこがましいのですが、大手企業と比べれば体力も筋力もない。しかし、ユニークで、しかも独特なリズムで社員同士が連携できる文化をもっている。これがあれば、どんな競合にも勝てるはずです。海外の数々の競合と戦い、ワールドカップで金メダル、ロンドンオリンピックで銀メダルを獲得した女子サッカーの「ナデシコジャパン」を例として取り上げて、「目指すは『ナデシコジャパン』だ」と社員のみんなで盛り上がったりもしています。
──13年度の売上目標は。 森田 12年度は、少しの読みと幸運で500億円を突破したわけですが、調査会社が国内IT市場の成長率に関して微増という予測を示していることから、この勢いが継続する保証はありません。なので、慎重にみて10%未満の増加と緩やかな成長を見込んでいます。ただ、社員には「600億円を目指さなければ、目標に到達しない」という意識も現れてきています。そんなに幸運は続きませんから、何ともいえませんが、会社で掲げた売上見込みも、あくまで見込みですので、結果がどうなるかは、12月までの当社の取り組みをみていただければと思います。
・FAVORITE TOOL ハワイで購入したアタッシュケース。30年以上も前に購入し、当時の値段で160ドルだったそうだ。購入したのは新婚旅行の時。「所帯をもつということで、もっと成長しなければという想いを込めて奮発した」と当時を振り返る。大事にしていて、「この鞄と妻は手放せない」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ずいぶんと前になるが、森田氏がマーケティング本部長を務めていた頃に初めて取材した。仮想化をはじめ、さまざまな技術への取り組みについて聞いた。「この会社は、最先端の技術をいち早くキャッチして、できるだけ早くビジネスとして確立しようとしている」と感じたことを覚えている。
業界では、「森田社長がいるからこそ、今のネットワールドがある」と評されている。新しい技術に敏感で、マーケティングを担当していた頃から、その新しい技術をビジネスとして形にすることに抜群に長けていたからだが、森田社長ひとりを評しているのではない。社員一人ひとりが新しい技術の習得に積極的で、苦労しながらも最適でわかりやすいシステムの構築手法を見出そうとしているからだろう。だからこそ売上高で前年度比14%増を達成。「13年度は、緩やかな成長を見込んでいるが勢いは止まらない」と、控えめな成長を目標に据えながら、今の体制で大きく成長する素地が固まったことをアピールしている。(郁)
プロフィール
森田 晶一
森田 晶一(もりた しょういち)
1954年、高知県出身。78年3月、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。日本ディジタルイクイップメントなどを経て、95年3月、ネットサーブに入社。00年10月、合併によってネットワールドの営業支援本部(現・マーケティング本部)取締役本部長に就任。05年3月、常務取締役、07年3月、専務取締役を歴任し、09年3月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
NOVELL製品などの日本国内ディストリビュータとして1990年8月1日に設立。2000年には、ネットサーブと合併した。ネットワーク・ストレージ、ITインフラ基礎製品などの販売に強いことに加え、早くから仮想化領域にも取り組み、技術力に長けたディストリビュータとしての地位を築く。ビジネスは順調に拡大し、2010年度に売上高400億円、12年度には530億円を達成した。