新規事業ではコンピュータは販売しない
──御社は2012年に新規プロジェクト本部を設置して、エネルギーやレアアース、ロボット、漁業など、既存ビジネスとは一線を画した分野の開拓に取り組んでおられます。何か立ち上げの基準はあるのですか。 小松 実をいえば、基準はありません。唯一決まっていることは、「新規事業の立ち上げにあたって、コンピュータを売るな」ということだけなのです。つまり、情報機器、電子デバイス、サポートとは異質の4本目のビジネスの柱を構築しようとしているのです。今は、その柱にどれが一番いいのかを吟味する期間なので、いろいろなことに取り組んでいるのです。
──新規プロジェクトは、ITとは関係のないビジネスのようにも思えますが、ITにはこだわらないということでしょうか。 小松 これまでのミツイワとまったく関係のないことをやるというわけではありませんよ。ただ、単にITを売ることはしないということです。これまで構築してきたお客様とのパイプを活用して、ITの技術を活用する商売を始めているのです。
例えば、漁業では、漁師になって魚を獲りにいくわけではなくて、魚をインターネット経由で販売する流通の仕組みを構築しています。ロボットでは、センサ技術の進歩に伴って、工場などの自動機の需要がぐっと伸びているとお客様から聞いています。そこで、お客様と協力して、ミツイワが培ってきた技術を活用し、ロボットの情報とITの情報を連携させ、ロボットの動きを調整するなどといったことを考えています。
とはいえ、2012年に始めたばかりですので、まだ具体的な成果は出てきてはいません。2~3年のスパンで、安定して成果を出せるようにするために、今は準備している段階です。
──新規プロジェクトで最も成功しそうなものはどれですか。 小松 一概にはいえませんが、やはり漁業とロボットは有力視しています。でも、このほかに別の新規ビジネスが出てくる可能性もありますから、はっきりとは断言できません。ただ、どれかに大きく育ってもらわないと困りますね。既存ビジネスだけでは、どうなることか、先読みしにくい世の中になってきていますので……。
ビジネス基盤をつくり替える“土木工事”を推進
──2012年度の業績を教えてください。 小松 具体的な数字は申し上げられませんが、前年よりも落ち込むことはないということだけは宣言しておきます。
──堅調に成長しているという解釈でよろしいでしょうか。 小松 微妙なところですね。一昨年ですと東日本大震災やタイの洪水などがあって、電子デバイスの販売に影響が出ました。昨年は天災がなかったので、大きく飛躍するはずでしたが、市場の影響で半導体関連のビジネスは厳しかった。なので、市場の影響を受けないサポートの部分でカバーしてきました。その結果、前年割れはしなかったものの、それほどは伸びてはいません。
──ミツイワは来年、設立50周年を迎えられますね。次の50年に向けて、どんな事業を展開していきたいとお考えですか。 小松 私が入社して30年ほどになりますが、入社した頃は定期採用というものがなくて、スポット的な採用でした。その後に定期採用ができたので、私よりも後の世代、今の40代半ばくらいの年齢の社員が多いのです。その意味では、10年後の彼らに、われわれのことを思い出してもらえるようになりたいですね。「あのオヤジ、うるさかったけれど、いいもの残してくれたな」と言ってもらえるようになろうと、同世代のおじさんたちで酒を飲みながらいつも話しています。これを実現することが私の夢ですね。引退した後に、渋谷あたりでみんなで集まって、「この前、あの部下が俺らのことをほめていたよ」という話がちらっと聞こえてくるのが最高の喜びだと思っています。
そうなるためには、今のうちにストックビジネスの地盤を固めておいて、売り上げのボリュームを大きくしておくことが大事です。そうすれば、サービスのメニューを変えるときの原資にもなります。また、利益率を上げておけば、その収益を使って、新規プロジェクトや人材の育成に投資できます。苦しいこともありますが、既存ビジネスの基盤をつくり替える“土木工事”をどんどん進めていきます。
・FAVORITE TOOL 招き猫の置き物。グループ会社の社長から贈呈されたもので、社長に就任したとき、「商売が繁盛するように」と、恵比寿にある招き猫の専門店で購入して、わざわざ届けに来てくれたのだとか。小松社長は、この置き物をいつも机の上に置いて、「社員と商売に福が訪れることを願っている」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ストックビジネスの拡大や、新規プロジェクトの開拓で、新たな事業基盤を築いていこうとしているミツイワ。インタビューを通して小松社長は、利益率の具体的な目標値については、明らかにすることがなかった。
そんな小松社長からは、トップダウンで物事を進める経営者というよりも慎重な人物という印象を受けた。
ただ、「次世代に引き継いでいくために、ビジネスの基盤を確立したい」と語るときの小松社長は印象的だった。その口調は、それまでとは違って明らかに力がこもっていて、会社に対する熱い思いが伝わってきた。
小松社長は、新卒入社の生え抜きで、約30年間ミツイワの成長に貢献してきた人物だ。「私だけでなくて、いいものを残していきたいという思いはみんなの総意。そういうことを言い合う仲間が社内にいることが財産だ」という。会社の仲間は家族同然なのだろう。自分たちの世代が進んで苦しい思いをして、“土木工事”を進めていこうとする姿勢には、心を打たれる。(道)
プロフィール
小松 拓也(こまつ たくや)
1960年、東京都生まれ。独協大学法学部を卒業後、同年、三岩商事(現ミツイワ)に入社。営業部門で経験を積み、01年から営業本部第二営業部長、04年から営業本部執行役員を務めた。その後、09年に取締役営業本部長、11年に常務取締役に就き、12年6月1日、社長に就任。
会社紹介
1964年7月25日設立。資本金は4億900万円で、従業員数は786人(2012年4月1日現在)。11年度(2012年3月期)の連結売上高は、548億3200万円。情報機器や電子デバイスの販売、システム運用・保守、SI(システムインテグレーション)などを事業領域としている。12年には、新規プロジェクト本部を設置し、既存ビジネスの枠を越えた事業の開拓に取り組んでいる。