バッティングは避けるが自社の成長も重視
──二つの柱のうちの「グループ外向けの展開」については、NTTデータなど、グループのSI会社とバッティングすることになりかねないので、なかなか難しい部分があると思いますが……。 海野 おっしゃる通り、NTTのグループ会社と競合する可能性があります。ですから、当社はどのような商材を提供するか、サービスメニューを慎重に考えなければなりません。現在策定している事業計画では、NTTグループ以外の国内の通信キャリア、言ってみれば、KDDIとソフトバンク、そして海外の通信キャリアを相手に、当社の強みである料金管理やサブスクライバ(加入者)管理といったサービスを提案するシナリオを描いています。これによって、グループ会社とのバッティングを回避することができます。
グループ外向けにビジネスを展開することについては、確かにジレンマがあります。NTTデータなど、グループ会社と競合するわけにはいかない。しかし、会社としてビジネスを伸ばさないと、社員のモチベーションが下がる。では、どちらを重視するかというのがそのジレンマです。私は経営者として、社員がやり甲斐を感じて仕事する環境をつくりたいので、バッティングを極力避けつつ、グループ外向け展開もビジネスの柱の一つに成長させたいと思います。
──NTTコムウェアは5000人以上の社員を有する大規模な組織です。大きい会社を動かすためには、トップが組織の力をどのように引き出すかということがポイントになると思います。NTTデータで本部長、NTTコミュニケーションズでは副社長を務められた海野社長は、豊富な経営ノウハウをNTTコムウェアでどう生かしますか。 海野 私はNTTデータの本部長時代から、「優秀な人を集めて、彼らに頑張ってもらえば、組織はうまく回る」と確信しています。昨年、NTTコムウェアの社長に就任してから、取締役や部長など、会社のトップ120人を集め、四つに分けて合宿を行って、今後のビジネス方針について意見交換する場をつくりました。当社は、よくいえば伝統的で安全を重視する会社ですが、悪くいえば人に言われないと動かない体質をもっています。今後は、ソリューション提案の強化など、社員が自ら積極的に動くことが問われるので、受動的な社風を打ち破らなければならないと考えています。合宿で、それを120人のトップに伝えました。
──合宿の開催について、参加者からどのような反応がありましたか。 海野 合宿は当社では新しい試みです。終了後のアンケートでは、「意見が言えてよかった」とか「他の人の意見を聞いて参考になった」など、ポジティブなフィードバックが出てきました。トップ層のメンバー同士で意識が合うと、エネルギーが生まれて、会社として大きなパワーになります。今年も合宿を開いて、漁師たちが同じタイミングで網を同じ方向に引っ張って大漁を目指すような体制をつくりたいと思っています。
会話に時間をかけて「組織プレー」を実現
──海野社長は社員との会話を重視しておられるとうかがっています。 海野 時期にもよりますけれども、会議や打ち合わせが多く、自分のイスに座って一人で仕事をすることはほとんどありません。
私は、黒澤明監督の映画『七人の侍』が好きです。この映画は、それぞれ違う個性や得意技をもつ七人の侍が力を合わせて「組織としてプレーする」というストーリーがとてもすばらしいと思います。NTTグループ向けのシステム刷新や海外ビジネスの立ち上げなど、時代の変化に応えて大きなチャレンジに立ち向かっている当社にとって、まさに「組織としてプレーする」ことがカギを握っていると捉えています。
『七人の侍』のように、社員がうまく噛み合う会社を築くために、私は社員との会話を大切にして、最適な組織づくりを進めています。
──海野社長が以前在籍されたNTTデータやNTTコミュニケーションズは、「情報の活用」を切り口としたサービスやソリューションの展開に注力しています。今後、NTTコムウェアでもデータ活用を商材化しますか。 海野 高級自動車の販売店や老舗のデパートでは、選別された重要顧客のデータを分析し、次にどのような提案をするかなど、情報をマーケティングに生かしていると聞いています。通信の世界でも、今後はデータ分析によってお客様に「次」を提案して事業の拡大につなげることが重要になってくるでしょう。当社は、サブスクライバ管理などのソリューションをもっているので、これらをぜひ、通信キャリアなどのマーケティング活動にご活用いただきたいと思います。
──データ活用もその一つの例ですが、市場の変化に対応するために、商材の新しい提案の仕方が必要だと思います。「伝統的」とおっしゃった御社にとってかなりのチャレンジですね。 海野 市場を取り巻く環境の変化が激しいからこそ、マーケットの求めるものをいち早く見つけて提供する必要があります。ヨットは風が吹かなければ進みません。もちろん、追い風はベストですが、向かい風でも動きます。変化はチャンスでもあります。私はそう考えて、事業方針を理解して果敢に動く組織を築いて、NTTコムウェアの事業を大きく伸ばしたいと考えています。
・FAVORITE TOOL 鞄、ノートパソコン、名刺入れの3点セット。鞄は日本の老舗メーカーのもの。「開けにくいので、少し不便」と苦笑する。パソコンは、小型ながら堅牢性にすぐれたパナソニック製にこだわりをもつ。ちなみに、シルバーの名刺入れには、名刺ではなく、カフスや印鑑など、日ごろに使う小物を入れている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
海野忍社長がNTTコムウェアのトップとして置かれている立場は、かなり複雑である。
NTTグループの一員としてコスト削減に貢献し、一時的な売上減少を受け入れなくてはならない。また、将来に向けて事業を伸ばすためには、グループ外向け展開や海外ビジネスに取り組み、組織を大きく再編する必要がある。しかし、それと同時に、グループ会社とのバッティングを回避することを迫られている。
「NTTコムウェアの社長に就任して、仕事のやり甲斐は何か」とたずねたら、海野社長は「それはもちろん、NTTグループ全体を見渡し、最適なシステムを考えるのは、私とNTT本体の(鵜浦博夫)社長にしかできないということだ」と即回答した。複雑な立場に置かれつつも、海野社長は常に穏やかな表情を見せ、楽しく仕事をこなすことを心がけている。
経営哲学は「部下を信じる」こと。社員を信頼し、組織を動かそうとしている。(独)
プロフィール
海野 忍
海野 忍(うみの しのぶ)
1952年生まれ。75年、日本電信電話公社に入社。2003年、NTTデータ取締役経営企画部長、04年、取締役公共地域ビジネス事業本部長、05年、執行役員第三公共システム事業本部長、07年、常務執行役員ビジネスソリューション事業本部長。08年、NTTコミュニケーションズ代表取締役副社長法人事業本部長、11年、代表取締役副社長。12年、NTTコムウェアの社長に就任。
会社紹介
NTTグループの大手システムインテグレータ。1997年、NTTコミュニケーションウェアとして設立された。2000年、NTTコムウェアに社名変更。NTT東西やNTTデータなど、NTTグループ会社にITインフラを提供している。グループ外向けビジネスも展開する。2012年3月期の売上高は1937億円。従業員数は5293人(2012年3月31日)。東京・品川に本社を置く。