ソーシャルメディア業界に集中営業をかける
──中山さんはビジネス開発本部の本部長として、2009年から御社のクラウド事業の立ち上げを率いてこられました。ゼロから新規ビジネスを開拓したその腕が評価され、今回、新社長に選ばれたとうかがっています。 中山 当社は、もともと国際デジタル通信としてインターネットゲートウェイサービスなどを展開してきました。そして2008年、福岡・北九州の「アジアン・フロンティア」DCの運用を開始して、DC事業を開始しました。その翌年に、ヤフーグループの傘下に入り、IDCフロンティアとして新たなスタートを切ったのです。
当時は、クラウドが話題を集めるようになって、システムを収納する倉庫を提供するDC事業だけでは、会社の存続が難しいという危機感を抱いていました。その打開策として、クラウド事業に乗り出して、DCとクラウドの相乗効果を図りながら、ITインフラを統合的に提供するビジネスモデルを採用することを決めました。
そうはいっても、当時はクラウドに関する経験やノウハウをほとんどもっていませんでした。私は、ビジネス開発本部の総責任者として、少人数のチームで、右も左もわからないまま、手探りの状態でクラウド事業の立ち上げに着手しました。振り返ってみれば、うまくいくかどうかの不安があったのですが、会社の将来のために、とにかくクラウド事業の立ち上げを成功させないといけないという強い気持ちが自分を動かしました。
──クラウド事業が軌道に乗るまでに、どのくらいの期間がかかりましたか。 中山 正直にいうと、最初の1年間は失敗の繰り返しで、全然うまくいきませんでした。親会社のヤフーがもつクラウド技術を活用することによって、サービス面でのハードルはある程度クリアすることができましたが、いくらクラウドをお客様に提案しても受注につながらなかったのです。
そうした状況にあって、私は大胆な決断をしました。当時、環境の変化が非常に激しかったソーシャルメディアの業界に、集中して営業をかける方針を打ち出したのです。「飛び込みでもいいから、全力で攻めろ」と指示を与えて、営業活動に力を入れました。ソーシャルメディア業界は、変化が激しいからこそ、柔軟にシステムの拡張ができるクラウドへの関心が高いという私の見方は結果的にみれば正解で、営業が努力して、大口の受注につなげることができました。これが、クラウド事業が軌道に乗ったターニングポイントです。
現在は、最初にクラウドを注文してくださったお客様から次のステップとしてDCサービスを受注したり、あるいは、DCを利用しているお客様が新規ビジネスを立ち上げるためにクラウドの活用に取り組んだり……。DCとクラウドは、相乗効果を発揮して、そのおかげでビジネスが順調に伸びています。今になってみると、大変だったけれども、その頃にクラウド事業を立ち上げていなかったらと考えると、本当にぞっとします。
現在も苦労、「分析」をどう実現するか
──当時の経験を生かして、今後はどのようなことに取り組んでいくつもりですか。 中山 現在も、2009年と似ているような状況に置かれているとみて、あらためて危機感を募らせています。DCとクラウドを組み合わせてITインフラを提供するビジネスは、今のところは成長していますが、DC/クラウド事業者間の競争が激化している情勢にあって、事業のさらなる新しい柱が必要だと捉えています。これから立ち上げたいのは、データ分析サービスの事業です。
このところ、社内システムやソーシャルメディア内に蓄積されている情報を分析し、サービスの改善や新製品の開発に活用する「ビッグデータ」が注目を集めています。サービスを提供する事業者が多い当社のお客様も、ビッグデータの活用に対するニーズが高いと判断して、データ分析サービスの開発を進めているところです。年内に発売することを計画しています。
──もう一度、新規事業をゼロから開拓する。中山さんの腕の見せどころですね。今回も、さまざまな苦労に直面しておられますか。 中山 そうですね。当社にとってまったく新しいビジネスですから、クラウドを立ち上げたときと同じように、いろいろな壁に当たっています。当社は、データを入れる器、つまり、DC/クラウドを提供することを強みとしていますが、肝心の「分析」という部分をどこまで自社で提供できるかについて、悩んでいるところです。
今後、海外のベンチャー企業も含めて、データ分析にすぐれた技術をもつ企業をパートナーとして獲得し、分析のノウハウを手に入れることに力を注ぎます。そして、分析をDCとクラウドと連携し、三つがうまく噛み合うかたちで展開していきたい。私のモットーは、チャレンジです。データ分析をキーワードにして、ビジネスの三本目の柱をつくることに挑みます。
・FAVORITE TOOL シャープ製の電卓。5年間、経理部門に所属していた新人時代から使っており、社長に就任した現在も事業計画の数字の確認などに活用している。会社として、名刺管理アプリケーションなどを導入し、ITを駆使しているが、個人としてはアナログな電卓こそが、欠かせないツールになっているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
IDCフロンティアは、2012年10月、福島県白河市に建設した白河DCの1号棟の稼働を開始。今年5月には、08年に北九州に開設したアジアン・フロンティアDCの5号棟の稼働を開始した。首都圏と関西地区の都市型DCに加えて、大規模な郊外型DCのリソースを拡大し、急速に高まりつつあるデータ分散の需要に対応している。
ヤフーの技術を活用し、圧倒的に速いネットワークで、データを各地のDCからユーザー企業に届ける。「これまでは、首都圏にDCが集中して、視界が狭かった」と中山一郎社長。地震や津波が発生するリスクからすると、首都圏よりも、郊外のDCにシステムを置いたほうが安全だと、中山社長は熱く語る。今後は、データの「分散」に「分析」という新サービスを追加し、同社のDCを利用する際の付加価値を高める。
身だしなみについては、「お客様に謝りに行くときしか、ネクタイをしない」と苦笑交じりで語る。社長に就任しても、第一線の現場にいるような感覚で、社員に接している。(独)
プロフィール
中山 一郎
中山 一郎(なかやま いちろう)
1969年9月生まれの43歳。愛知県出身。94年、明治学院大学経済学部経済学科を卒業後、国際デジタル通信(現IDCフロンティア)に入社。ビジネス開発本部の本部長、取締役ビジネス推進本部長を経て、2013年4月に代表取締役社長に就任。親会社であるヤフーのシステム統括本部IDC本部長を兼務する。
会社紹介
インターネット大手、ヤフーの子会社として、2009年2月に設立。データセンター事業とクラウドコンピューティング事業を手がける。社名の「IDC」は、同社の前身である国際デジタル通信(International Digital Communication)の頭文字をとったもの。東京・新宿に本社を置く。首都圏のほかに、福島・白河や福岡・北九州などでデータセンターを運営している。