M&Aの果実をサービス創出につなげる
──「EmpoweredOffice」に加えて、御社が成長の柱に据えておられる社会インフラの事業についてうかがいます。社会インフラといえば、NEC……。思い起こせば、過去、御社を取材したときに、「NECでは」という言葉を口にしたら、「当社は独立している上場企業です」と、少し厳しい口調でたしなめられた経験があります。 和田 社会インフラ事業については、もちろん同じ領域に力を注ぐことを方針に掲げるNECと協業して事業を展開していきたいと考えています。
強調したいのは、当社はビジネス戦略を完全に自社で決めて、独自のかたちで展開しているという点です。この会社の社長に就任する前、私は長年にわたってNECで要職を務めてきました。この経験を生かして社会インフラで親会社と密に連携しつつも、「EmpoweredOffice」をはじめとする独自商材に力を注ぎ、あくまでNECネッツエスアイとしてビジネスの成長を目指していきます。
──成長基盤を築くために、昨年はM&A(企業の合併・買収)に積極的に取り組まれました。 和田 M&Aは、中期経営計画で定めた事業拡大を実現するための手段と捉えていて、「チャンスがあれば、実行する」というふうに考えています。2013年はそういうチャンスが複数あったので、M&Aを進めてきました。
具体的には、13年4月にNECモバイリングの移動通信基地局関連事業を吸収したのをはじめ、6月には、コンタクトセンター(CC)事業を手がけるキューアンドエーを連結会社化しました。さらに、10月1日付で、通信プロバイダやケーブルテレビジョン事業者にデータ・映像・音声のシステム構築を提供するNECマグナスコミュニケーションズの株式を取得し、子会社化しました。
──M&Aには、相乗効果を得ることができるというメリットがある半面、それぞれの組織が噛み合わなければうまくいかないという、“人の面”での落とし穴があると思います。和田社長は、組織統合の進捗具合をどのようにみておられますか。 和田 3件とも、事業面で当社との親和性が高いこともあって、かなり一体化が進んでいます。技術リソースを合わせることによって、新しいサービスをつくり出すといったシナジーも発揮しつつあります。近いうちに、具体的なサービスを発表し、お客様に提案することによって、M&Aに要した投資を回収します。
東京五輪の特需で次のビジネスを
──御社は、2013年に芝パークホテル(東京・港)にマルチデバイス対応のネットワーク環境を納入するなど、観光系の案件が活発に動いているとうかがっています。2020年の東京五輪の開催も決まり、観光客が求める通信インフラを構築するのは、まさに腕の見せどころですね。 和田 おっしゃる通り、観光を切り口とするビジネスは好調です。ホテルの新設やリニューアルのラッシュで、ホテル向けのWi-Fi構築案件を数多く受注しています。さらに、海外から日本を訪れる観光客の数が増え、その観光客のモバイル端末にマルチ言語で観光情報を配信するサービスに関するニーズが高まっています。当社は、キューアンドエーのリソースを活用して、コンタクトセンターの多言語対応を急いでいるところで、需要をいち早くものにしたいと考えています。
東京五輪に関していえば、スマートフォンやタブレットで競技を鑑賞する人が多くなることが予測されているので、2020年に向けて、Wi-Fi環境の強化が急務になります。そこで、当社は現在、五輪関連の情報を収集するチームを組織して、特需が生む次のビジネスにつなげるための体制を築こうとしているところです。
──海外展開についてはいかがでしょうか。 和田 海外展開にも本格的に取り組みます。日系企業のお客様にICTインフラを提供するだけでなく、現地企業もターゲットに据えて、「EmpoweredOffice」などの商材を訴求していきます。
──和田社長は、自らの経営スタイルを「トップダウンではない」と表現しておられます。 和田 会社をどう変えるかについて、私は、現場の社員の声に耳を傾けたり、ボードメンバーと議論を交わしたりして、ボトムアップによって方針や進路を定めるやり方を大切にしています。「EmpoweredOffice」を活用することによって、コミュニケーションを活発にするオフィス環境を社内につくっているので、私は社長としてコミュニケーションの活性化を促しながら、社員はどんなことを考えているかを把握して、経営方針に反映することを心がけています。

‘「EmpoweredOffice」のデモを見て、経営改革のツールとして導入を決断するお客様が増えている’<“KEY PERSON”の愛用品>和田社長を模したフィギュア フィリピン現地法人のスタッフが、和田社長の写真をもとに手作業で丁寧につくり、現地訪問の記念品として贈ったもの。和田社長は「似ているね」と感動し、専用のガラスケースに入れて大切に保管している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
和田雅夫社長は、NECネッツエスアイが2013年12月1日に創立60周年を迎えたのを機に、「明日のコミュニケーションをデザインする会社をつくる」というミッションをおよそ6000人の社員に課した。
その一つの商材として、同社は昨年10月、ビデオや音声、テキストチャットなどの機能をシームレスに利用することができるコミュニケーションプラットフォーム「LookieTalkie」を発売した。
このプラットフォームを開発したのは、韓国のベンチャー企業であるイニシャル・ティーだ。NECネッツエスアイは、これをローカライズして、国内で販売する。
斬新なIT製品を生み出す国のベンチャー企業の力を借りて、国内外のユーザー企業のコミュニケーションを支援しようとしている。グローバルな視点をもって、ユニークな商材を取り揃えることによって、NECネッツエスアイは和田社長が課したミッションの実現を目指す。(独)
プロフィール
和田 雅夫
和田 雅夫(わだ まさお)
1953年8月31日生まれ。NECで航空宇宙・防衛事業本部防災・交通ネットワークソリューション事業部長、放送・制御事業本部長、執行役員などの要職を経て、2012年4月にNECネッツエスアイの顧問に就任。同年6月、代表取締役執行役員社長に就いた。
会社紹介
NECグループのICT(情報通信技術)ベンダー。1953年に設立された。ネットワークを中核とするシステムの企画・コンサルティングや設計・構築から、保守・運用や監視サービス、アウトソーシングサービスまで、幅広い事業を手がけている。2013年3月期の連結売上高は2357億円。従業員数は6024人。東京・文京区後楽に本社を置く。