SMB市場を本気で狙う
──日本の情報サービス産業は、間接販売が中心です。日本市場でのパートナー戦略の重要度は、他地域と比べて高いと考えておられますか。 トラセル チャネル販売はグローバルでも30~40%と大きなウエートを占めていますので、日本に限らず、他地域でも重要なテーマです。
日本では、NECや富士通マーケティングなど大手企業のパートナーのほか、特定の分野に強みをもつ中小のパートナー企業も多く、彼らの活動のバックアップに力を入れています。
──これまでは、本社が大規模なERPを採用しているグローバル企業の海外拠点などに2層目のERPとして「NetSuite」を提案する戦略が中心だった印象です。しかしここにきて、国内SMB(中堅・中小企業)向けの拡販にも本格的に取り組む方針だとうかがっています。新たなパートナー戦略が不可欠だと思うのですが……。 トラセル 大企業向けの2層ERP戦略は、非常に大きな成功を収めました。その戦略を変えるということではありません。この成功をベースにSMB向けのビジネスもさらに強化していくということです。
そのための新しいパートナー戦略も当然策定しています。全国の会計事務所やローカルのSIer、コンサルタントなどに、ユーザー企業を単純に当社に紹介してもらう「お客様紹介プログラム(NetSuite Referral Partner Program)」を本格的に市場に周知し、中小企業のIT投資に対するインフルエンサー(大きな影響力を及ぼすキーパーソン)のコミュニティをつくります。3年間で2000社ほどを目標にしています。これは、システムが受注に至ったときにキックバックされる手軽でシンプルなプログラムで、参加は無料なので、パートナー側にリスクはありません。むしろ彼らにとっては、上流の導入コンサルティングを手がけたりすることで、顧客と継続してつき合えるという大きなメリットが生まれます。
──既存のパートナー施策はどう運用しますか? トラセル 既存パートナー網の中心で、導入コンサルティングからインプリメンテーションまでをカバーする「ソリューションプロバイダ」も拡充します。現在は10社ほどですが、2014年中に2倍に増やします。ただ、これはERPビジネスの経験や、ネットスイートの価値や特性をよく理解している企業を厳選して契約することになるでしょう。また、ネットスイートと連携するソリューションを開発する「SDNパートナー」の拡充や、グローバルな案件を手がける大手コンサルティングファームなどとの連携も、従来以上に力を入れていきます。
実はちょうど今、ある大手ベンダーからネットスイートのパートナーになりたいというお話をいただいています。このベンダーは、昨年、社内の一部門に当社のビジネススイート「NetSuite」を導入されたのですが、短期間で構築でき、運用もスムーズで非常に驚かれたようです。近く、大きな発表ができるかもしれません。
クラウドからは逃れられない
──パートナー網を拡充するということですが、ネットスイートに関心をもっているITベンダーなどにどんなメッセージを訴求していくのでしょうか。 トラセル 先ほども申し上げたように基幹システム分野でも、クラウドへの要請は急激に高まっています。実際、セールスの現場では、ユーザーから、クラウドという選択肢がほしい、クラウドERPを提案してほしいという声が必ずといっていいほど上がるようになっていて、ベンダー各社はクラウドから逃れられない状況になっています。そういう意味で、ネットスイートがチャネル戦略に注力するのは必然であり、チャネルの拡充と既存パートナーとの協業を深めることが当社にとっても成長のキーになるといえます。
当社と協業してみたいと考えていただけるとしたら、判断は早いほうがいいと日本のベンダーに申し上げたい。後れを取れば取るほど、パートナーになった場合のメリットは小さくなっていきます。市場環境の変化も速いので、ビジネスの機会を損失する可能性も高くなります。
──日本市場では、SAPの「Business By Design」がリリースされました。SMB向けでは、国産ベンダーもクラウド対応を強化しています。競合として対策を考えておられますか。 トラセル 正直に申し上げて、競合だとは考えていません。ネットスイートは、1998年からクラウドでビジネスをやってきました。これまで多くのITベンダーが当社に追いつこうとしてきましたが、クラウドERPでは変わらず先頭を走っていると自負しています。
既存のERPベンダーがクラウドで成功したいと考えているなら、オンプレミスの製品をクラウドに移行するという発想は捨てなければなりません。クラウドのための製品をゼロからつくり直す必要があります。しかし、それが完成したときには、私たちはすでにその先に行っているということです。
パートナー企業も、成長を続けたいなら発想を変えて、自分たち自身の戦略をもつべきです。何もオンプレミスの商材を捨てろといっているのではありません。クラウドとオンプレミスの戦略を切り分けて、どんな業種、ユーザーへの提案で強みを発揮していくのか整理する必要があるのです。

‘ERPベンダーがクラウドで成功したいと考えているなら、クラウドのための製品をゼロからつくり直す必要があります。しかし、それが完成したときには、私たちはすでにその先に行っている。’<“KEY PERSON”の愛用品>ターガス製ケースに守られたiPad オーストラリアを拠点に世界中を飛び回るトラセル氏。「ネットスイートの業務はすべてクラウド上で行うので、iPad以外のデバイスはいらない」という。iPadのケースは、義弟が経営幹部を務めるターガス製だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ネットスイートは日本市場で、クラウドネイティブなERPとしてほぼ唯一の選択肢を提供してきた。SAPが、昨年、グローバル企業の中小拠点をターゲットに「Business ByDesign」日本版をリリースし、その後すぐにネットスイートは国内SMB市場への注力を鮮明にしたが、この動きには、まさにトラセル氏がいうように「私たちはすでにその先に行っている」というメッセージが込められているような気がする。
国内SMB市場の本格的な開拓に向けて、パートナー施策も改めて整理した。クラウドのビジネスでは、既存のIT商材と同じような間接販売モデルは通用しない。コミュニティをつくって、一種のクチコミ効果で拡販を狙う手法は、コンシューマ向けのサービスでは成功事例が多いが、ネットスイートの取り組みは、B2B、しかも基幹システムの分野でそれを狙う意欲的な施策といえる。日本のSMBへのクラウド商材の売り方という意味で、モデルケースとなり得るポテンシャルを感じさせる。(霞)
プロフィール
マーク・トラセル
マーク・トラセル(Mark Troselj)
自身の出身地であるオーストラリアやシンガポール、中国で、米デル、米サン・マイクロシステムズ、独SAPなどに勤務。グローバルのITビジネスに20年間携わってきた。米ネットスイートでは、日本を含むアジア太平洋地域の直販、チャネルセールス全般について指揮を執る。サザンクロス大学でMBAを取得。
会社紹介
クラウドERPのトップベンダー。1998年、米オラクルのラリー・エリソンCEO兼会長と、当時、米オラクル技術部門のリーダーだった米ネットスイートのエヴァン・ゴールドバーグ会長兼CTOにより創設された。2002年には、現在の主力製品である中小企業向けCRM/ERP/Eコマースのビジネススイート「NetSuite」をリリース。2013年のグローバルの売上高は、前年比34%増の4億1450万ドル(約423億円)。2012年は前年比49%の成長を記録しており、継続して大きく業績を伸ばしている。