自らの人脈で大手SIerとの連携に動く
──5月には、パートナープログラムの詳細を発表されました。ポイントを教えてください。 纐纈 簡単にいうと、ディストリビュータ向けではなく、販売店である「リセラーパートナー」と、SIerが中心の「ソリューションパートナー」に向けたシンプルなプログラムです。上から「プラチナ」「ゴールド」「シルバー」という3種類のカテゴリを設定し、それに応じた内容のトレーニングやサポート、マーケティング支援などを行います。
──これまでも、ソフォスがハイタッチで案件を発掘していたとはいえ、パートナーとは協業していたわけですが、従来のパートナープログラムと大きく違うのはどんなところですか。 纐纈 パートナープログラムへの参加要件として、投資をお願いしたことです。これはお金をいただくのではなく、当社の認定を受ける専任の営業や専任のエンジニア、つまり人的リソースを用意していただくということです。
さらに、ビジネスプランを共有することにしました。達成できなかったからといってペナルティがあるわけではありませんが、当社の製品をどれくらい売ってくれるのかについて、コミットメントをしっかりいただくことにしたということです。そのぶん、支援内容を手厚くしましたし、「ゴールド」以上のパートナーには、パートナー同士の情報共有の仕組みやリベートも提供して、インセンティブを与える仕組みを構築できました。
──2015年3月までに、ソリューションパートナーを現在の6社から12社に拡大して、リセラーパートナー70社と契約、さらに、そのうち20社はUTMアプライアンスに特化したパートナーにする目標を掲げておられます。 纐纈 ソリューションパートナーについては、これまで大手SIerと協力関係を築いてこなかったという課題があります。そこで、私自身の人脈も活用して、すでに伊藤忠テクノソリューションズ、新日鉄住金ソリューションズ、SCSKなどとの協業に向けて動いています。
リセラーパートナーは、従来の当社ディストリビュータであるソフトバンク コマース&サービス、ダイワボウ情報システム、シネックスインフォテック、シー・エス・イーという4社の商流で拡大を図ります。重要なのは、ディストリビュータと密接に連携して、ポテンシャルのある販売店を見極めること。そして、当社の営業がしっかり販売店を訪問して、足で稼ぐという取り組みを地道に進めることです。チャネル開拓に近道はありません。どぶ板営業が一番強いんです。
エンドポイントセキュリティは死んでいない
──パートナー施策の変革に伴って、社内体制も変えたのでしょうか。 纐纈 チャネル営業の部隊を強化しました。といっても、人数を増やしたわけではなく、これまでハイタッチ営業をしていた人員の一部の役割を少し変えたという感じです。
人を入れ替えることは個人的にしたくないですし、現在のリソースをうまく使えば業績を伸ばすことができると確信していました。ソフォスには、成長のベースになる大きな財産がもともとあったからです。セキュリティ製品は、契約の更新がストック収入になって、それは安定した成長の基盤になりますが、ソフォスはこの更新案件を刈り取る営業体制をもっているのです。パートナーも独自のカスタマーデータベースをもっているので、これと連携して、更新案件を一緒に刈り取るビジネスを活性化させることができるでしょう。
さらにソフォスは、ハイタッチ営業が中心だったことで、すでにパートナーと連携できる案件がたくさんあります。パートナーとともに大型案件をクローズするノウハウも蓄積しています。最初からパートナービジネス中心でスタートしたベンダーは、パートナーを増やしても、協力して案件を開拓することができなくて困っているところが多いのですが、そうした課題は最初から解決できているわけです。
──競合に比べて、製品自体にポテンシャルは感じていらっしゃいますか。 纐纈 もちろんです。ソフォスは、最も広範囲なポートフォリオをもつセキュリティベンダーです。専用サーバーやストレージも、自前のものが用意できます。日本では官公庁向けで圧倒的なシェアを誇っていますが、これが生きて、通信や金融分野の案件も増えてきています。
また、今年はUTMアプライアンスやクラウドセキュリティ商品を市場に出していきます。競合他社に比べて動きは圧倒的に速く、中小企業のお役に立つラインアップが揃いつつあります。
──年率30%の成長と、3年後に売上40億円を達成することを目標に掲げておられますが、手応えはいかができしょうか。 纐纈 新たなパートナープログラムをしっかり運用できれば、達成できる自信はあります。セキュリティ市場の有力ベンダーは、あまり調子がよくなくて、「エンドポイントセキュリティは死んだ」などというメッセージも聞かれますが、全然そんなことはありません。必要なのは、PC上のセキュリティだけではないんです。データセンターを含めて、ITシステム全体で、エンドポイントでのセキュリティの要求はこれからどんどん強くなっていくでしょう。ソフォスはそのニーズに真摯に応えていきます。

‘重要なのは、営業がしっかり販売店を訪問して、足で稼ぐという取り組みを地道に進めること。チャネル開拓に近道はありません。どぶ板営業が一番強いんです。’<“KEY PERSON”の愛用品>クロスのボールペン 米国の筆記具メーカー、クロスのボールペンを愛用している。ユーザー歴は10年以上で、いやみな高級感がなく、素朴なデザインが気に入っているという。筆記具はクロス製のものが多く、万年筆も所有している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
まずは「チャネル開拓請負人」の面目躍如といったところか。就任早々、新たなパートナー向け施策を打ち出し、成長のための仕組みを整えた。ただし、「苦労はこれから始まる」という纐纈社長。インタビュー中に何度も繰り返したのは、「決めたこと、やるべきことを実行していくことが大事」という言葉だ。理念やビジョンがいくらすぐれていても、実行が伴わなければ成果にはつながらない。そんなあたりまえのことを、これまでのキャリアで痛感しているということなのだろう。自社の強みと課題を冷静に分析して戦略を立てたという印象だ。
外資系企業の日本法人でトップを務めることに関しては、「自分の考えで社内のリソースを動かして事業を推進できるのは大きな喜びだし、ソフォスがより強くなるために何をすべきか、本社に対してモノが言える立場になったことに大きなやりがいを感じている」と話す。「チャネルファースト」をグローバルで打ち出したソフォスが、スペシャリストである纐纈社長にかける期待は大きい。(霞)
プロフィール
纐纈 昌嗣
纐纈 昌嗣(こうけつ まさつぐ)
1961年8月生まれの52歳。京都府出身。1987年、京都大学大学院工学研究科修了後、NECに入社。コンピュータのオペレーティングシステムの開発、米国企業とのアライアンスなどに従事する。その後、サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)に移り、ソフトウェア、ストレージ、サービス事業を担当。2007年、レッドハット常務執行役員パートナー営業&マーケティング統括本部長として、パートナー事業モデルの改革を主導した。14年3月から現職。
会社紹介
B2B市場に特化した総合セキュリティソリューションベンダー。グローバルでは、英アビンドン、米ボストンに本社を置く。150か国で、10万法人、1億ライセンス以上のユーザー基盤をもつ。2013年度の売上高は400億円以上。日本法人は2000年に設立され、社員数は約50人。国内での導入実績は約3500法人。とくに官公庁向け市場では圧倒的な強さを誇る。