グローバル人材を揃えて提案活動を加速
──御社は、この5月、東洋ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)と組んで、日本企業の海外現地法人を対象に、記帳代行業務と会計システムを組み合わせたクラウド型サービスを投入されました。その経緯を教えてください。 岩澤 新しい市場を求めて海外に出られる日本企業は、大手だけではなく、SMB(中堅・中小企業)も増えているとみています。海外に進出したSMBは、税務会計の処理を現地の会計事務所に丸投げすることが多いですが、外部にお願いした経理処理や記帳が本当に正しいかどうかについて、確信はもてません。
そこで、当社がB-EN-Gと共同で提供するサービスでは、現地での会計/税務業務は、税理士法人名南経営と税理士法人東京クロスボーダーズの2社が代行します。つまり、日本のプロ集団をパートナーとしているので、お客様は業務のスピードと正確さに満足していただくことができます。さらに、クラウド型ですから、大きな投資を行うことなく、すぐに使うことが可能です。このサービスを当社が目指す「ビジネスソリューション」の目玉の一つとして、日系SMBの市場を開拓していきたいと考えています。
──海外事業を伸ばすために、人員体制の整備が重要になります。グローバルでばりばり活動できる人材は揃えておられるとみていいのですか。 岩澤 英語が堪能で「海外でビジネスをやりたい」という強い意志をもっている若手人材を確保しています。マネジメント層に関しては、まだ人員を増やしていく必要があると捉えている部分もありますが、こちらも優秀なメンバーが揃っていると自負しています。例えば、シンガポール現地法人のトップは、20年間、現地でビジネスの経験や人脈を築いてきた人物です。今後のパートナー提携やお客様の獲得について、大いに期待できる人材だと私はみています。
そもそも、なぜ当社が「IIJ GIO」の海外展開を手がけているのか。それは、組織が大きく、行動が遅くなりがちなIIJ本体よりも機敏に動くことができるからです。スピード感とネットワークサービスの提供で培ったグローバルデリバリの力を武器にし、海外で「IIJ GIO」の事業をリードします。
現地に足を運んで、ニーズを分析する
──このところ、とくに中国での案件が活発に動いていると聞いています。 岩澤 おかげさまで、製造業のお客様を中心に、立て続けに大きなビジネスを受注することができました。まず、日本の電機メーカーに、クラウドを活用して、製品を中国の消費者に紹介するウェブの仕組みを納入しました。これに加えて、日本の機械メーカーには、コスト面でのメリットを評価していただき、当社のクラウドソリューションの採用が決まっています。
これらの案件は、日系企業のお客様でありながらも、導入の決定は日本本社ではなく、中国現地法人で行っていることが特徴です。このことから、日系企業は中国市場の開拓を加速するために、ITの活用などに関して現地法人に権限を与えているという傾向を読み取ることができます。これによって、現地での提案活動がしやすくなり、受注までの期間を短縮できるようになります。これまでの導入事例をうまく生かし、どんどん横展開していきたい。
──御社は事業領域を徐々にアジア諸国に広げていくとうかがっています。それに向け、岩澤社長は直近でどのような動きをしておられますか。 岩澤 私は「現地に行かないと、現地のニーズがわからない」というふうに考えていて、各国を訪れてITに関してどんな需要があるかを分析することに力を入れています。一つの例を挙げると、アジアでは、企業内ネットワークを利用する際に、セッションごとに変わるプライベートIPアドレスを使うことが多いです。私どもはそんなニーズを汲み取って、当社が提供するインターネットVPNサービスに、プライベートIPアドレスに対応する機能を付加しました。
アジア市場の成長も、当社のグローバル展開もまだ始まったばかり。アジアは今後、相当伸びると確信しています。競争が激しいなかで、お客様は経営にスピードを求めるようになり、クラウドやネットワーク、業務アプリケーションをすぐに使うことができるソリューションへの需要が旺盛になります。私は、「お客様の事業をどう伸ばすか」を常に頭に置いて、そのために必要なITを提案することによって、アジア市場の大きな可能性をものにしたいと思っています。

‘そもそも、なぜ当社が「IIJ GIO」の海外展開を手がけているのか。それは、IIJ本体よりも機敏に動くことができるからです。スピード感とデリバリ力を武器にして、海外事業をリードします。’<“KEY PERSON”の愛用品>折りたたみ式の老眼鏡 折りたためば、ペンほどの大きさになり、上着やシャツのポケットに収納しやすい老眼鏡がお気に入り。通販で購入したとか。壊れにくく、持ち運びが楽なので、資料を読むときなど、ビジネスの場で活用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
岩澤利典社長への取材は、6月下旬に行った。IIJグループは、東京・神田神保町から飯田橋駅周辺の富士見への本社移転を翌週に控えて、会議室の前には、引っ越し用の段ボールが並んでいた。岩澤社長は、「新しい本社では、IIJ本体へ自由に出入りできるようになるので、密に連携をとって事業拡大につなげたい」と期待を語った。
新本社の13階には、IIJグローバルソリューションズが提供するクラウド型テレビ会議システムを含め、IIJグループの各製品・サービスの体験ができるスペースが設けられている。ここに企業の経営者や事業部門の担当者を招いて、ITのビジネス活用シーンを訴求することによって、導入の決断を促す。
日本IBMで社会人生活のスタートを切った岩澤社長の語り口調からは、極めて冷静に物事を考えて経営判断を行う人物との印象を受ける。アジアという“熱い”市場を開拓するために、リスクもちゃんと考慮する、まさにこの冷静さが岩澤社長の強みになりそうだ。(独)
プロフィール
岩澤 利典
岩澤 利典(いわさわ としのり)
1962年生まれ、兵庫県出身。同志社大学経済学部を卒業して、1985年、日本IBMに入社。通信サービスなどの販売を担当する。99年、AT&Tグローバル・サービスの設立に伴い、同社の関西営業部長に就任。2007年に社名をAT&Tジャパンに変更した後、ソリューション&サービス担当取締役、代表取締役副社長を経て、2009年、代表取締役社長に就任。2010年9月、IIJグローバルソリューションズの設立とともに現職に就いた。
会社紹介
インターネットイニシアティブ(IIJ)グループでICT(情報通信技術)ソリューションを手がける。1985年、日本IBMで通信サービスを提供する部門として発足。AT&TによるIBMグローバルネットワーク部門の買収を受け、1999年、AT&Tグローバル・サービスを設立。2007年、社名をAT&Tジャパンに変更。2010年、IIJがAT&Tジャパンのネットワーク・アウトソーシング・サービス事業を買収し、IIJグローバルソリューションズを立ち上げた。従業員数は約280人。