向こう3年で1兆円を上乗せ
──東芝ソリューションは、従来の受託ソフト開発型からクラウドを中心とするサービス型へ転換することが遅れていたということでしょうか。 錦織 SIerの業態がクラウド型、サービス型へ変わっているのは周知の通りです。東芝のクラウド&ソリューション社社長と東芝ソリューションの社長を、今回、私が兼務したということは、すなわち、クラウドを軸に東芝グループ各社との連携ビジネスを加速していくということです。
さらにいえば、一部、中国などで合弁会社はあるものの、東芝ソリューションのビジネスの大半が国内市場に依存しているのが実態です。東芝の電力や社会インフラなどのビジネスに比べれば、海外ビジネスは圧倒的に少ない。東芝グループ全体の直近の海外売上高比率は約58%で、これを2017年3月期までに63%へ高める方針です。売上高も向こう3年で国内外トータルで1兆円ほどの上乗せを目指していますので、国内だけでなく、海外でのビジネスの成功は欠かせません。東芝ソリューションだけが国内ビジネス中心というのも、おかしな話だと思いませんか。
──近年、主要SIerは海外でのM&A(企業の合併と買収)を積極的に行っている姿が目立ちますが、こうした海外進出という側面でも、少し消極的だったように見受けます。 錦織 東芝ソリューション単体でみればそうかもしれませんが、東芝グループ全体でいえば、海外ビジネスで出遅れていることは決してありません。エネルギー関連企業のウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニーやランディス・ギアを例に挙げるまでもなく、東芝グループは海外でのM&Aに積極的です。
東芝ソリューションとしても、東芝グループの結集力を高めるという狙いの下、こうした海外法人に自社のSEを常駐させて、海外における業種や業務のノウハウの吸収に努めていきます。東芝ソリューショングループには、組み込みソフトやヘルスケアの領域に強い東芝情報システムがあり、例えば、今年7月に新設された東芝社内カンパニーのヘルスケア社が開発する各種検査機器向けの組み込みソフトなどの分野で、より一段と相乗効果が高まることを期待しています。
──東芝グループ全体の成長に向けた三本柱は「エネルギー」「ストレージ」「ヘルスケア」ですが、いずれの領域も東芝ソリューショングループの活躍の余地が大きい印象を受けます。 錦織 エネルギー管理システム(EMS)などを駆使したスマートコミュニティでは、国内外の35都市のプロジェクトに参加しており、東芝ソリューションもクラウドの領域で積極的に参画しています。ストレージについても、東芝の自社製NANDフラッシュメモリを駆使したフラッシュアレイストレージは自慢の製品です。
オールフラッシュの時代になる
──錦織社長は、2009年に東芝へ入社される前は、ライバル会社の富士通におられたとうかがっています。国内大手ITベンダーのなかでは異例のキャリアですね。 錦織 残念ながら、きょうは古巣の話はできません。ただ、富士通にいたときは、東芝や日立をみて、漠然と「いろんな事業をやっているんだな」と思っていました。ですが、実際に東芝に来てみると、ほんとうにいろいろなものをつくっています。NANDフラッシュメモリをはじめとするデバイスから、M2M(マシン・トゥー・マシン)やビッグデータといった要素技術、エネルギーやヘルスケアといった社会インフラ全般まで幅広い。コンピュータメーカーとはまた違った広がりがあります。
──NANDフラッシュメモリは、これからの東芝のストレージビジネスを力強くけん引していくことが期待されています。 錦織 これからのストレージはオールフラッシュの時代になることは間違いありません。コンピュータシステムの大きなボトルネックの一つがハードディスクドライブ(HDD)であり、今のフラッシュメモリの生産量から推測すると、遅くても2020年過ぎにはHDDとほぼ同じコストまで下がってくるとみています。DCに占めるスペースや、消費電力の低減、高集積化による効率化などデバイス以外の要素も絡んでくると、HDDからフラッシュメモリへの切り替えが数年前倒しになる可能性も高い。
NANDフラッシュメモリを使った東芝のフラッシュアレイストレージは、一般的なリレーショナルデータベースのトランザクション処理性能比でHDDの28.8倍のスピードが出ます。それだけでなく、クラウドを支えるDC全体の省電力化は社会の要請です。ここに東芝のNANDフラッシュメモリが大いに役立ちます。
──東芝ソリューションは2003年に、東芝のITソリューション部門を集約して発足したSIerですが、クラウド&ソリューション社とともに行った一連の再編は、東芝ソリューションにとって再び大きな転機となりそうですね。 錦織 東芝グループの結集力を高めるために、東芝ソリューションからみれば、一時的に東芝グループ向けの売上比率が増えるかもしれません。しかし、グループ結集力によって得たノウハウは、東芝ソリューションの長期的な成長の観点からみれば、必ずプラスに働きます。

‘クラウドを軸に東芝グループ各社との連携ビジネスを加速していく。’<“KEY PERSON”の愛用品>服飾感覚で集めた眼鏡 その日の気分や用途に応じた眼鏡を複数揃えている。「別に眼鏡が趣味というわけではない」というが、「服と同じ感覚」で集めているうちに、色やデザイン、機能が異なる眼鏡がお気に入りのグッズになった。
眼光紙背 ~取材を終えて~
東芝ソリューションは、東芝社内カンパニーのクラウド&ソリューション社と一体になって東芝グループ向けのクラウド基盤を担う中核事業会社との位置づけが強まった。
富士通から東芝に転職し、クラウド&ソリューション社と東芝ソリューションのトップを兼務する錦織弘信社長は、「富士通に勤めていたときは、ただ漠然と“東芝はフラッシュメモリから社会インフラまで幅広く手がけている”という印象だった」と話す。その後、東芝に転職してから、「さまざまな業種・業態の顧客をもつ幅広さこそ、ITソリューション事業を強化するカギ」と実感するようになった。
海外進出においても、東芝グループの結集力を生かすことで飛躍できる。
今後の課題は、結集力を生かしつつも、一方で、東芝ソリューションらしい強さをどう育てていくのかということ。グループの下支えだけに甘んじていては、本領を発揮することにはつながらない。(寶)
プロフィール
錦織 弘信
錦織 弘信(にしこり ひろのぶ)
1956年、東京都生まれ。80年、横浜国立大学工学部を卒業して、富士通に入社。09年、東芝に入社し、10年にストレージプロダクツ社HDD事業部長に就任。執行役常務(ストレージプロダクツ社社長)、執行役上席常務(セミコンダクター&ストレージ社副社長)などを歴任。13年10月、執行役上席常務(クラウド&ソリューション社社長)。14年6月24日、東芝ソリューション取締役社長を兼務。
会社紹介
東芝ソリューションは、東芝グループのITソリューション事業を集結して2003年に発足したSIerである。主なグループ会社は組み込みソフト開発などに強い東芝情報システム、保守サービスの東芝ITサービス、中国法人の瀋陽東芝東軟信息系統など。昨年10月からは東芝社内カンパニーのクラウド&ソリューション社に所属する事業会社となった。