社内公用語を英語にしてグローバル採用
──在宅勤務体制を整備したりで、社内の仕組みもユニークですよね。 小椋 クラウドを使うことで、場所を問わず働けるという自由を手に入れることができます。そこに最低限タガが外れない程度の安全性を確保するソリューションを提供しているのが私たちなのですが、先進的なお客様は、社員の皆さんが非常に生き生きと仕事をされていることに気づきました。そこで、われわれも「クラウドは危ないからシステムを守りましょう」と言うだけでなく、自分たち自身がアーリーアダプタとしてクラウドを活用したうえで、どのようにリスクと向き合ったか、そのノウハウをお客様に伝えるとともに、商材開発にも生かすべきだと考えました。
在宅勤務もその一環です。まずは在宅勤務そのものの課題を洗い出さなければ、お客様のニーズに沿った提案はできません。部門長は、週に一度は必ず在宅勤務をしなければならない決まりにしています。失敗したら失敗したで、それもノウハウの蓄積になりますし、お客様にとっても有益な情報になるでしょう。
──社内の公用語を英語にしたとうかがいました。これも、海外事業に本腰を入れる現れということでしょうか。 小椋 オンプレミスの商材とクラウドの商材では、開発のやり方もだいぶ違うので、開発者、技術者の確保が厳しくなってきています。そこを、グローバル採用でカバーしようと考えています。この際、ネックになるのが言語なんです。そこで社内公用語を英語にして、開発体制も英語にしました。日本語が必須ではないとアナウンスした途端、世界中から求人への応募が来るようになりました。すでに社員の1割は外国人です。台湾、インドネシア、ベトナムなど、若者の人口が多く、将来当社が市場参入する可能性がある地域から、インターンの学生の受け入れや、新卒採用などもどんどん進めていく方針です。
──当面の目標は? 小椋 日本では、クラウドセキュリティソリューションのシェア1位を獲得しました(ミック経済研究所調べ)が、ASEANでも同様の実績を上げたいですね。個人情報保護法の施行を経て、業務効率とバランスを取ったうえでセキュリティソリューションをどう運用していくかという現実的な落としどころもみえていますし、そのノウハウは間違いなく輸出できます。
HDE Oneは事業開始から3年で損益分岐点を越えていて、クラウドビジネスの性質上、利益が出やすくなっていることもあり、その分、R&D(研究開発)に非常に積極的に投資しています。十分に世界と戦えるタイミングだと思っていますので、現実的な目標として、ぜひとも達成したいです。

‘自分たち自身がアーリーアダプタとしてクラウドを活用したうえで、どのようにリスクと向き合ったか、そのノウハウをお客様に伝えるとともに、商材開発にも生かすべき。’<“KEY PERSON”の愛用品>ビジネスバッグの代わりは風呂敷 和装が基本の小椋社長にとって、風呂敷は外出時に欠かせないアイテムだ。愛用のノートPCを包んで肩にかけながら通勤電車に乗る。「さまざまな形状のものを包むことができて便利」とのことで、海外出張するときも同じスタイルを貫く。
眼光紙背 ~取材を終えて~
一見して異端児という印象を受ける。何しろ、小椋社長の普段は和装で、通勤の満員電車にもこのスタイルで乗り込む。「海外からのインターン生をもてなすときに、和装だったらおもしろいんじゃないかという程度のノリだったけれど、海外事業に本気になるにつれ、段々と自分たちのアイデンティティとは何かを考えるようになった」という。今では、自らの装いを、HDEが「日本の企業」としてグローバル市場に出て行こうしていることをはっきり示す意志の現れだと自覚している。直近の米国出張で、洋服を一着ももたずに現地に赴き、入国審査にえらく時間がかかったというエピソードを、楽しそうに話してくれた。
市場での信用を高めるために、株式公開も視野に入れる。それでも、「必要な投資をしたうえで、無理なく利益を出せる段階になってから」と焦りはない。抱えるユーザーに成長企業が多いため、自動的にアップセルにつながることもしばしばで、事業環境は良好。こうしたビジネススキームをつくりあげた技術者社長は、大胆ではあるものの、合理的で地道な思考を併せもつリアリストというのが本質のようだ。(霞)
プロフィール
小椋 一宏
小椋 一宏(おぐら かずひろ)
1975年、ニューヨーク生まれ。一橋大学経済学部卒。6歳でN80-BASICによるプログラミングを習得してゲームプログラミングを始め、高学年ではMSXなどのBASICマシンでの開発経験を積む。中学生になってからはN88-BASICによるプログラミングに没頭。プログラマとしてのアルバイト時代にLinux、インターネットと出会い、大企業を上回る新しい技術力への適応力をもつ企業の設立を志し、1996年、ホライズン・デジタル・エンタープライズ(現HDE)を創業。起業した後は一貫して技術部門のトップとして会社をけん引し、2009年頃にクラウド技術を社内に持ち込んだ。
会社紹介
1996年にLinux関連ソフト開発企業として発足。近年、クラウドに舵を切り、現在の主力商材は、「Google Apps」「Office 365」「Salesforce」の連携セキュリティソリューションである「HDE One」。Google AppsやOffice 365をラージアカウントに販売する資格をもつ15社ほどのパートナーと協業している。資本金は、3億2580万円。