ハイブリッド環境こそが求められる
──で、ASEANとの違いについては。 ロバートソン あ、そうでしたね。ASEANに行って驚いたのは、進んでいる企業はどんどん新しい技術を採り入れていきますし、そうでない企業との格差が大きい。同じ業種のなかでもバラツキが大きいというか、これが世界的にみれば恐らく普通なのでしょうけれど、日本の均質的なITの導入スタイルとは随分違う。また、赴任中の後半期間、日系SIerがマレーシアなど地場のSIerとの合弁や協業が急速に進み、日系SIerのアジア進出の勢いを肌で感じました。
──冒頭の「vCloud Air」をはじめとするパブリッククラウドなどのIT基盤サービスの充実によって、御社のパートナーであるSIerの仕事の一部を奪っていくように思います。 ロバートソン それは違います。理由は明白で、少なくとも日本のユーザー企業は、信頼できるSIerにしか基幹業務システムを基本的に出さないんですよ。困ったときも最後まで面倒をみてくれるSIerにアウトソースするのが多くの日本のユーザーのスタイルで、SIerはこうしたユーザーニーズをしっかり捉えています。当社のようなソフトウェアベンダーはSIerのビジネスを支える側に回ったほうが合理的です。
「vCloud Air」は、当社の仮想化技術を採用してくださっているSIerが、ユーザーの業務アプリを必要に応じて移し替える先として活用してもらえればいい。ニーズと合わなくなったら、いつでも他所へ移せます。繰り返しになりますがそれが仮想化技術だからなのです。
他社批判をするわけではないけれども、一般的なパブリッククラウドは一方通行で、入ったらなかなか出られない。これでは今のような仮想化技術が普及する以前のサイロ型のシステムと同じになってしまいます。
──クラウド全盛の時代になっても仮想化の技術は役に立つ、と。 ロバートソン 異なるプラットフォーム間を自由に移動できない仮想化は、仮想化のメリットを半減させてしまいます。
世界のパブリッククラウドで運用されている業務アプリは、直近では業務アプリ全体の12%程度ですが、2020年には40%ほどに増えると当社ではみています。しかし逆の見方をすれば6割はプライベートなDCやクラウドを使ったシステムが残っているわけで、こうした異なるプラットフォームを自由に行き来できるハイブリッド環境こそが求められている。こうした環境をSIerとともにつくりあげることが、今後のビジネス拡大につながると考えています。

‘日本のユーザー企業は信頼できるSIerにしか基幹業務システムを発注しない’<“KEY PERSON”の愛用品>この絵で緑を増やしてほしい 愛娘が2歳半のときに描いてくれた花の絵。父親が働く「オフィスに緑が少ない」と感じて、「この絵で緑を増やしてほしい」と描いてくれた。以来、執務室に必ずこの絵を飾って、愛娘の思いやりや自然との触れあいを忘れないようにしているとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
カナダ人のジョン・ロバートソン氏は大学卒業後、日本の文部科学省などが手がける「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)」を利用して来日。種子島や鹿児島で国際交流の仕事をしたのが初めての社会人経験だった。「カナダのような地平線まで続く穀物畑はないけれど、まるで箱庭のような里山風景は日本ならではの魅力」と惚れ込んだ。
いったんは帰国して地元のITベンダーに就職するも、日本顧客担当になって日本へ出張しているうちに、とうとう日本の外資系企業に転職。その後「社会人になってからはほとんどの期間を日本で過ごすことになった」。
愛娘は「楓(かえで)」と名づけた。もちろんカナダのメイプルリーフ旗からとったもので、ロバートソン氏は自身のことを「カナダと日本の文化のハイブリッドでできている」と笑いながら説明する。
ビジネスでもクラウドと既存システムのハイブリッドを“売り”にしているだけあって、折に触れて、この“ハイブリッドネタ”を流暢な日本語で披露している。(寶)
プロフィール
ジョン・ロバートソン
ジョン・ロバートソン(Jon Robertson)
1968年、カナダ・セントジョン生まれ。フレデリクトン育ち。モントリオールのマギル大学を卒業後、日本の「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)」で来日。カナダのITベンダーを経て再度の来日。EMCやSAPの日本法人勤務ののち、2007年にヴイエムウェア日本法人に入社。12年、ASEAN担当の責任者としてシンガポールに赴任。2015年3月、ヴイエムウェア日本法人の代表取締役社長に就任。英語、フランス語、日本語に堪能なトリリンガル。
会社紹介
仮想化技術の世界大手。2014年11月にパブリッククラウドの「vCloud Air」をソフトバンクグループと協業して国内投入。持ち前の仮想化技術を軸にデータセンター(DC)や、スマートデバイスを含めたあらゆるデバイス、アプリケーションのソフトウェアによるデファインド(定義)を推進している。