奥が深い中国市場も成長のトリガーに
──海外売上比率の向上に向けては、やはり中国、ASEANで成長を図ることになりますか。 山本 一時より減速しているとはいえ、やはり中国は巨大なマーケットです。ASEANにしても、大きな経済的成長の途上です。こうした成長市場で、もっともっと広告宣伝などの投資をしていこうと考えています。
とくに中国は、開発の一個師団もありますから、現地のニーズに基づいて、現地で開発する。そして、それを中国だけでなく全世界に展開するというビジネスも展開していて、成功しつつあります。中国人が考える商品のイメージというのは、必要な機能だけを備えたシンプルな仕様にする一種の「割り切り」があって、これはこれで世界的な市場があるのだと思います。実際、昨年初めて、中国で開発したSOHO、SMB向けの低価格カラー複合機をベースにした「DocuCentre SC2021」を日本市場にも投入しましたが、とくに代理店には好評で、お客様のレスポンスも良好です。
ただ、中国はこうしたローエンド機でボリュームを伸ばすだけでなく、トップ企業は本当のグローバルのトップ企業ですから、日本でもなかなか出ないようなハイエンド機も相当出ています。これをソリューション・サービスに組み込んだ高付加価値型の提案と、両輪作戦でやっていく必要があります。奥が深い市場ですよ。
また、米ゼロックス社と、マーケティングなどで連携を深めていくことも重要です。
──ソリューション・サービスへのシフトを進めていっても、現状、富士ゼロックスのビジネスの中核にあるのは依然として複写機、複合機ですよね。今後の事業ドメインをどう考えますか。 山本 当社のミッションは、ずっとぶれていませんよ。価値創造環境を提供することこそが、富士ゼロックスの事業ドメインなんです。五十数年前の創業時は、複写機というのは画期的なコミュニケーションツールであり、ユーザー企業に対して大きな価値を提供してきたわけです。クラウド商材なども同じ位置づけです。時代に合わせて価値創造のための道具や環境づくりをするのが当社の仕事です。
お客様は、ITを導入しただけで経営がうまくいくようになるわけではありません。提案する側が業務プロセスの変革まで合わせてお手伝いできなければダメなんです。だから当社は、「言行一致活動」という取り組みを進めてきました。営業、開発、生産、管理など、すべての業務領域で、細かなチームごとに課題を自ら発見、解決して生産性向上のための取り組みを進め、それをソリューション・サービスの開発、提案に生かすようにしています。
こうした取り組みがうまく回っていくためには、究極は富士ゼロックス自身がエクセレントカンパニーにならないといけない。万年減収減益の会社に「業務改善をお手伝いしましょう」と言われても説得力がないですからね(笑)。「富士ゼロックスのやり方には経営を上向かせるヒントがあると言ってもらえるようになれ」と、社員を叱咤激励しています。

‘当社のミッションは、ずっとぶれていませんよ。価値創造環境を提供することこそが、富士ゼロックスの事業ドメインなんです。’<“KEY PERSON”の愛用品>メモはビジュアルが大事 メモをとるときは、「文字だけで書くよりもビジュアルを駆使した方がわかりやすい」というのが持論。さまざまな色を使うのも大好きだという。半年ほど前に手に入れたプラチナ万年筆製の多機能ペンは、スマートで軽く、お気に入りの一品だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「5年くらい前までは、販売会社は複写機しか売っていなかった。それが、今はソフトウェア、クラウド、何でも売っている。社内の“あたりまえ”が変わった感がある。こうなるまで長かったが……」と漏らす。ひとまず、2014年度末までの目標は達成した。しかし、山本社長が安堵感に浸っている様子はなく、視線はすでに2年後を見据えている。販売体制の改革における近年最大のトピックである地域統轄会社の機能をフル活用し、ソリューション・サービス提案のベストプラクティス化と、その水平展開を進めることで、収益性をさらに高めていく方針だ。
本文では触れなかったが、国内のSMB市場開拓のために、販売代理店の拡充にも取り組む意向も示した。直販での「モノ売り」から、確実にビジネスモデルは変化している。製品・サービスのラインアップ、対象となる顧客層とも拡大し、ビジネスのフィールドを広げる。(霞)
プロフィール
山本 忠人
山本 忠人(やまもと ただひと)
1945年、神奈川県生まれの69歳。68年3月、山梨大学工学部卒業。同年4月、富士ゼロックスに入社。94年1月、取締役VIP事業部長。2002年6月に代表取締役専務執行役員。主にドキュメントとサプライのプロダクト技術開発の責任者を務めてきた。07年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1962年、富士写真フイルム(現富士フイルム)と英国ランク・ゼロックスの合弁により、複写機メーカーとして創立。79年、富士ゼロックスオフィスサプライを設立するとともに、各地の現地資本と合弁で販売会社を設立し、全国展開を開始。90年、ランク・ゼロックスからアジア太平洋地域4か国の経営権と所有権を取得。2012年4月に、全国の販売会社を束ねる六つの地域統轄会社を設立。現在、販売会社は31社、県別特約店が11社で、そのほかに販売代理店も全国に多数配置する。13年度(2014年3月期)の売上高は1兆1429億円。