ここ数年、インテルは次なる成長領域としてIoTやクラウド/データセンター分野に照準を定め、投資やマーケティング活動を加速している。すでにエンタープライズITの世界においては標準アーキテクチャの地位にある同社が、ここからどのようにして版図をさらに拡大するのか。2013年10月からインテル日本法人のトップを務める江田麻季子社長に、就任以降の市場の変化と、今後の成長戦略をたずねた。
PCの技術で実現可能なことを広げる
──社長に就任されて2年半あまりが経過しました。日本法人では以前マーケティング本部長も務められ、すでに会社の広い範囲をみる立場でもいらっしゃったわけですが、やはり社長の立場となると、仕事のやり方も大きく変わられたのでしょうか。 インテルでの仕事はいつも「新しい何か」を今ここへもってくる、実現するというものですので、もともと、以前のやり方が通用しない場面ばかりでしたが、自分が現場に入って仕事をするのと今とでは、やはり“筋肉の使い方”のようなものが違いますね。現場の力を引き出す、スキルやリソースの組み合わせでビジネスを拡大するといったところには気をつかいます。社長就任以降、常に考えているのは、より意思疎通のしやすい自由な雰囲気をつくりたいということです。これだけ変化が激しい時代に、個人技で問題を解決するのはますます難しくなっています。社員間のオープンなコミュニケーション、コラボレーションをさらに加速して、情報共有しやすい環境や文化をつくっていきたい。これは当社とお客様や業界各社との関係でも同じことがいえます。
──分野別に戦略をお聞きしたいのですが、まず、これまでインテルの主力事業だったPC市場では、“XPサポート終了特需”の反動減からまだ十分に回復できていないようにみえます。 最近、メディアの方々からはPC事業についてそのように過去形で聞かれることが多いのですが、当社の売り上げの約6割はPC向け製品ですので、現在もわれわれにとってはメインの事業です。大きな戦略としては、PCやIoTデバイスからクラウドに上がってきた情報を分析し、その結果を新たな価値をもった知的な情報として、また手元のデバイスで受け取るというサイクルで考えています。データの量が増えればクラウドやデータセンターでのIT需要が増し、データの活用が進めばデバイスがますます必要とされる、という好循環を加速していくのがわれわれの成長戦略です。そのサイクルのなかで、PCは引き続き重要な役割を果たすと考えています。

──国内メーカー各社からPC事業の売却や統合の話などが繰り返しもち上がっています。インテルのビジネスに影響はありませんか。 他社についてコメントを申し上げる立場ではないので、あくまでインテルとして何をご提供できるかという観点でお話ししますが、当社はx86という一つのアーキテクチャをPCからサーバー、IoTまで適用することで高い経営効率を実現しています。これによって最近では、オフィス機器だけでなく、デジタルサイネージ、工場、自動車など、PCの技術がPC以外のところにもますます採用されるようになってきています。ですので、もしPC市場に一時的な波があったとしても、その技術を応用してIoTやさまざまなソリューションを構築できます。各社とご一緒に、実現可能なことを拡大していきたいと考えています。 ページ数:1/1 キャプション:
クラウドでIT需要の総量は増える
──データセンター事業ですが、サーバー市場においてもx86が事実上の標準アーキテクチャとなった今、どのようにさらなる成長を実現していくのでしょうか。 サーバーに関しては四つの領域を柱としています。一つ目は従来に引き続きオンプレミスのサーバーです。二つ目がクラウドサービス事業者。三つ目はHPC(High Performance Computing)で、従来は大学や研究所でしたが、最近では一般企業にも広がりつつあります。そして四つ目がネットワーク。通信事業者が専用の通信機器を汎用のサーバーに置き換える、いわゆるNFVの動きがありますが、とくに日本では5G(第5世代モバイル通信)の実用化が2020年に予定されており、需要が期待されます。この四つの領域に向けて、CPUをご採用いただくだけでなく、例えばSSDやメモリ、インターコネクト技術などもあわせて提供することで、x86アーキテクチャの価値をより高めていきます。
──エンタープライズ市場に向けた訴求ポイントとしてはどのようなものが挙げられるでしょうか。 まずは当然ですが、CPUをはじめとしたすぐれた製品をご提供することです。次に、パートナー、ISV各社との連携の強化です。それらに加えて、インテルセキュリティ(マカフィー)からは、デバイス、オンプレミス、クラウドのすべての環境にセキュリティ技術をご提供できます。さらに、昨年アルテラを買収しましたので、専用にカスタマイズされた技術が必要なお客様にも、インテルファミリーの技術としてFPGAもご提供できるようになりました。昨年は不揮発性メモリ技術の「3D XPointメモリ」を発表し、自社工場でのメモリの生産も再び開始しました。
──オンプレミスからクラウドへの動きが加速するなか、IT投資の主体が各企業からサービス事業者へと移り変わり、サーバーの需要も集約されていくのではないでしょうか。 昔、生産管理や販売管理のシステムは週次や日次で集計し、経営者が確認するものでしたが、今は現場の社員がモバイル環境からリアルタイムでさまざまな指標をチェックし、営業やマーケティングに活用するといった使い方も珍しくなくなりました。クラウドによって、社員同士の情報共有もすごくやりやすくなりましたよね。当社としてはむしろ、クラウドというITの新しい使い方が普及したことで、結果的にITのニーズが増えると考えています。
インテルのIoTは時間軸が違う
──IoTに関しては、ちょうど江田社長が就任された前後の、かなり早い段階から取り組まれていました。デバイスや管理技術などの提案はもちろん、「IoT」という言葉自体の啓発にも相当力を入れてこられたように思います。 おかげさまで今では、「IoTとは」という説明をしなくてもIoTという言葉が使えるようになりましたね。最近は「モノのインターネット」と訳すこともほとんどなくなりました。お話の内容としても、デバイスだけじゃダメ、つなげるだけじゃダメで、そこからみえてくる新たな見解や知見をビジネスに反映させて初めて意味がある、というところまで、皆さん理解されたうえで議論されるようになったと感じています。
──お話の相手も、IT業界内のパートナーから、その外側のユーザー企業へと広がっているのでしょうか。 両方ですね。当然、業界内の皆さんはお客様をおもちですので、市場のニーズをよくご存じです。それに加えて、一般企業の方々と新たに協業をさせていただくケースも増えています。つい最近も、電力自由化にともなってIoTでどのような新たなサービスを実現し、他社に対する競争優位性につなげていくかといったことを、エネルギー業界の方と議論したばかりです。
──日本企業はIT活用に保守的というイメージもありますが……。 日本でも企業のトップの方々は、ITを事業にどう活用するか、本当にアグレッシブにお考えですよ。1社でやる時代は終わった、全部内製は無理だ、という声はどこへ行っても聞きます。皆さん非常にオープンになられたと思います。私たちは半導体製造業なので、最終製品はもっておらず、いろいろな方の協力を得て市場をつくっていかなければいけませんが、ビジネスの環境は非常にいい方向に進んでいると、強く感じています。
──多くのプレイヤーがIoTに取り組んでいるなか、「インテルのIoT」とコラボレーションする意味はどこにあるのでしょうか。 IoTに取り組まれる真剣度合いは皆さん共通だと思いますが、私たちが違う部分を一つ挙げるとすれば、時間軸です。インテルは半導体をビジネスとしている以上、投資をしてから製品が出荷されるまでにどうしても数年を要します。ですから、「次に来る世界」の姿をいかに早くキャッチするかが、ビジネスを大きく左右します。もちろん、想像通りの世界にならないこともありますが、きちんと軌道修正する、足りないものを補う、という判断はいち早く行っています。私たちの考える将来のビジョンを積極的に発信していき、お客様やパートナー各社と意見をすりあわせていくことで、描いていた次の世界の姿を、より早く実現できると考えています。

IoTとは何か、という説明はこの3年で不要になった
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