リアルタイムOS研究の国内第一人者である高田広章・名古屋大学教授は、今、自動車向けOS(ソフトウェア・プラットフォーム)「AUTOSAR(オートザー)」開発に傾注している。AUTOSAR開発では、長年研究対象としてきた国産の組み込み用OS「ITRON(アイトロン)」の知見を存分に生かしている。組み込み用OSの研究開発の基盤であるTOPPERSプロジェクトや、名古屋大学のAP(オートモーティブ・プラットフォーム)コンソーシアムなどとの連携も深めながら、日本の弱点と指摘されるソフトウェア・プラットフォームの競争力強化に尽力している。
国内勢は一本化したかった
──名古屋大学発のスタートアップ企業で、自動車向けOS「AUTOSAR」の開発を手がけるAPTJは、2015年10月の立ち上げ以降、順調に増資を重ねていますが、開発の進捗状況はどうですか。 順調にいけば2018~19年頃の新車に、当社APTJが開発したAUTOSARが採用されると期待していますよ。製品としてのAUTOSARは18年秋をめどに完成させる予定ですが、完成を待っている時間が惜しいので、共同開発というかたちで複数の自動車関連メーカーと協業を進めています。共同開発するメーカーには優先的に提供しますので、当社製AUTOSARの完成と前後して、新車にも採用してもらえる段取りをイメージしています。
──APTJ製AUTOSARの名前は決まりましたか。ライバルのSCSK陣営は「QINeS-BSW(クインズビーエスダブリュー)」と名付けているようですが。 今はまだ秘密です(笑)。今年11月に横浜で開催予定の組込み総合技術展(ET2016)で発表予定ですので、楽しみにしていてください。このときに、より詳細な開発ロードマップも示せればいいなと思っています。
──APTJには、富士ソフトやサニー技研、永和システムマネジメント、東海ソフト、キヤノンソフトウェアなどそうそうたる組み込みソフト開発ベンダーが出資し、人材も送り込んでいます。ある意味「呉越同舟」の側面もあるかと思いますが、どうでしょうか。 国内の組み込みソフト開発ベンダーは、そこそこ強い会社はいるのですが、じゃあ、世界でトップに立っているかといえば、そうじゃない。国内で各社が同じようなものをつくって消耗戦になったり、開発リソースが足りなかったり、理由はいろいろあると思うのですが、とくにプラットフォームづくりに弱い傾向があるんですよ。だからAPTJでは、有力なソフト開発会社から資金や人材を募り、AUTOSARというプラットフォームを協力してつくることにしたんです。ちなみに、APTJは「オートモーティブ・プラットフォーム・テクノロジー・ジャパン」の頭文字をとって名付けたものです。
──しかし、蓋を開けてみると御社の立ち上げと前後してSCSK陣営、デンソー系のオーバス陣営と、さらに国内には欧州系2社、米国系1社、インド1社の計4社が進出し、合わせると7陣営でAUTOSARを開発する混戦状態になっています。 欲をいえば、国内勢は一本化したかった。AUTOSARに関しては、ただでさえ欧州勢に遅れをとっていますので、本来であれば国内をまとめられればよかったと思うのですが、各陣営ともそれぞれのビジネス戦略がありますので仕方ないことなのかもしれません。

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