野村総合研究所(NRI)はデジタル・トランスフォーメーションの領域へ積極的に進出する。デジタルでビジネスを革新する手法を「ビジネスIT」と名付け、NRIが強みとするコンサルティングとITソリューションを組み合わせた「コンソリューション」で強力に推進していく構えだ。此本臣吾社長は、従来の基幹業務系システム領域の伸びが鈍る可能性が高いと危機感をもっており、同社が「ビジネスIT」と呼ぶ領域の拡大と、海外市場へのより一層の進出を推し進めていくことで成長につなげる。
仮説検証を繰り返す手法を重視
──デジタル・トランスフォーメーション(ITを活用したビジネス革新)を支援する新会社NRIデジタルをこの8月に立ち上げるなど、デジタル領域にずいぶんと力を入れておられます。 ビジネスの潮目が変わる時期に差し掛かっているからです。当社は企業経営やビジネス戦略のコンサルティングと、ITソリューションの大きく分けて二つのビジネスから成り立っています。売上面での比重が大きいのはITソリューションのなかの、いわゆる「基幹業務システム」の構築です。
ユーザー企業の業務を効率化し、発展させるために欠かせない基幹系システムを強みとしてきたわけですが、私は、この基幹系システムの成長性に疑問を感じているのです。基幹系システムは社会や産業が成熟してくると、そうそう新しいものに置き換えるものではなく、むしろ非基幹系の領域への投資が増えるとみています。
──それでデジタル・トランスフォーメーションの領域を重視する流れになったのですね。 そうです。当社では従来の基幹系システムを「コーポレートIT」、デジタルでビジネスを革新する領域を「ビジネスIT」と呼んでいます。ただ、いくら優秀なコンサルティング人員を1000人規模で揃えているとはいえ、これまで綿々と「コーポレートIT」を手がけてきた当社が、いきなり「ビジネスIT」に舵を切れるものではありません。そこで、この8月に「ビジネスIT」領域を重点的に開拓する新会社NRIデジタルを立ち上げました。
NRIデジタルでは、ビジネスITを企画・構想する段階からコンサルティングとITソリューションの両チームが顧客と“併走”しつつ、仮説検証を繰り返しながらビジネスを拡大させていく手法を実践します。このコンサルティングとITソリューションを組み合わせる手法を当社では「コンソリューション」と呼んでいます。
──コンサルとITをクルマの両輪とするのは、ある意味、御社の“社是”のようなもので、それこそ1988年の旧野村総合研究所と旧野村コンピュータシステムが合併して以来、「乾坤一擲」(研究所の“研”と野村コンピュータの“コン”の語呂合わせ)」を標榜してきましたよね。 だから、その「乾坤一擲」の精神を「ビジネスIT」領域でも発揮させようとしているのです。よく考えてみてください。従来の「コーポレートIT」の構築は、ある意味、「一発必中」の世界です。仮説検証を繰り返しながらと言えば聞こえはいいですが、実際はトライアンドエラー、試行錯誤。納期が厳密に決まっている基幹系システムでそんなことやったら、大クレームになってしまいます。しかし、「ビジネスIT」では、それを「失敗」と呼ばないのですよ。
売り上げや利益にとことんこだわる
──「失敗」と呼ばずして、どう呼ぶのですか。 「今回は外れたね」です。極めてアジャイル的な手法で、顧客や、場合によっては異業種や同業者と協業するオープンイノベーションの手法も採り入れつつ、徐々に完成度を高めていく。失敗の積み重ねによってイノベーションにつなげるという表現でもいいでしょう。例えば、一発必中のERP(基幹業務システム)の構築で「今回は外れた」なんて言ったら、それは、もう炎上案件どころの話ではありませんよね。「コーポレートIT」と「ビジネスIT」では、アプローチの手法、成功につなげる道筋が、これだけ違うのです。
──果たして成功につなげられるのでしょうか。 オープンイノベーション手法で「ビジネスIT」を実践するうえで、私は売り上げや利益にとことんこだわっていきたい。“外れる”ことも多い、ある意味、ハイリスクな手法ですが、「ビジネスIT」を拡大させるには、従来型の手法では成し得ないのも事実だと思うのです。ただ、ゴールは顧客の売り上げや利益を増やすことです。達成できなければ当社のビジネスITは本当の意味で失敗だし、市場競争のなかで淘汰されてしまう。
──実際、「ビジネスIT」の成功例って、どのくらいなのでしょう。 あくまで個人的な感覚に過ぎませんが、国内の情報サービス市場全体を見渡してみて、ざっと9割余りが基幹系を中心とした「コーポレートIT」が占め、「ビジネスIT」は1割もないでしょう。つまり、ここを伸ばせるかどうかで、今後の当社のビジネスの伸びが大きく変わってくるとみているのです。
──此本さんのこれまでの経験から、どうすればより成功に近づけるとお考えですか。 コンサルティングにしても、システム構築にしても、「会社対会社」のプロジェクトですよね。これって、けっこう重要な要素で、会社には経営者、管理職、現場と階層構造になっていて、ビジネスを革新していくには、すべての層の力を引き出さないとうまくいきません。いくら経営者が納得するものをつくっても、現場が使えなければ売り上げや利益を伸ばせませんし、逆に現場の使い勝手をよくしても、これが経営方針と合致しなければ意味がない。いかに全体を見渡せるようになるのかが成功のポイントだと思います。

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