電子データの分析結果などを証拠として活用するコンピュータフォレンジックの市場を開拓してきたFRONTEO。不正調査や国際訴訟支援など、リーガル分野を主な事業領域としてきている。同社がサービスを強化するにあたって開発したのが、「KIBIT(キビット)」という人工知能(AI)だ。KIBITの能力はリーガル分野を超え、広範囲に適用できると注目を集めており、今後の主力事業の一つとして育てるべく注力している。
日本企業を米国での訴訟から守る
──2016年7月に、社名をUBICからFRONTEOに変更しました。社名の変更は事業領域が広がったからとのことで、一つは、AIのKIBITが大きく貢献していると聞いています。その話をうかがいたいのですが、その前に起業の経緯を聞きたいと思いまして。リーガル分野向けにサービスを提供する会社というのは、ほかに浮かびません。
もともと海上自衛官をしていました。退官後はサラリーマンを経て、当社の起業に至っています。もともと、起業家を志向していたわけではありませんが、きっかけとなったのは海上自衛隊の同窓会。先輩から「米国の訴訟では日本企業が困っている。日本企業を支援する日本の会社がなく、訴訟では不利な状況に追い込まれがちになる」という話を聞きました。そこで初めてリーガルテックを知るわけですが、日本にはその会社がない。であれば、とにかくやってみようと思い、会社を辞めて同僚と2人で1か月で会社をつくることになるわけです。
──リーガル分野の仕事をしていたわけではないんですか。
まったく知識はありませんでした。だから、一つひとつ問題を解決していってという感じです。コンピュータフォレンジックを日本に根づかせたい。その一心でした。
運よく、1年目にインシデント調査を受注することができて、その後はコンピュータフォレンジックツールの販売やトレーニングなどを展開し、事業を拡大させてきています。
ある事件のときに、容疑をかけられた企業のコンピュータが回収される騒ぎがあって、そのシーンが何度もニュースに流れました。そのときに、コンピュータが調査の対象になるということで、とても注目されました。あのときに調査をサポートしたのが、当社です。コンピュータのデータを削除しても、多くの場合は復元できます。そうしたノウハウが、当社にあります。最近では、スマートフォン経由の不正操作に関する調査などもサポートしています。
すぐに使い始められるAI
──KIBITの開発に取り組んだのは、そうしたリーガル分野でのサービス提供に必要だったということですね。
膨大なデータから、証拠となるものを解析する必要があるわけです。キーワード検索だけでは、その作業を進めるのは難しい。重要そうなものを適当に曖昧な条件で抽出することが求められます。
例えば、メールの文面から談合の疑いがあるかどうかを調査するとします。談合には宴会がつきものだとして、キーワードで「飲みに行きましょう」を指定します。ところが、談合と関係のないものもたくさん抽出されてしまいます。これをツールで絞ろうと試みるのですが、そうやってもうまくいかない。人が確認する作業がどうしても残ってしまいます。データを20%ほどに絞っても、かかる費用の80%が人の作業なんです。
では、なぜ人は談合のメールだと見分けることができるのか。ある人は、一発で怪しいメールをみつけられます。理由をうまく説明できないが、怪しいメールを確実にみつけてしまう。それは、経験値や暗黙知からくる“勘”ではないかと。AIであれば、その“勘”を再現できるのではということで、開発に着手しました。
──AIは有効でしたか。
人件費を大幅に削減できただけでなく、より正確になるなど、大きな成果をあげています。人は疲れると、どうしても判断が鈍ってしまう。常に一定のクオリティを出すのは難しい。AIは疲れることがないし、学習することで精度が上がっていきます。
──KIBITは、独立した事業へと発展していきます。それが社名をUBICからFRONTEOに変更した理由の一つで、FRONTEOは英語のFRONT(最先端)とラテン語のEO(前へ進む)、そして、Frontier Technology Organizationsの略語で「進歩的かつ先端的な価値創造集団」を意味するという説明でした。
KIBITは、個人の経験や知恵、感覚を理解し、データを解析します。その適用範囲は、リーガル分野に限りません。例えば、医療の現場では、さまざまな暗黙知が存在します。一つは、看護師の看護記録。人の判断では同じと感じる記録内容でも、KIBITは患者の容態の変化を看護記録から読み取ることができます。
医療だけではありません。成績のよい営業担当者は、他の担当者とどこが違うのか。KIBITなら、営業日報などから暗黙知を読み取り、効果的な営業手法を導き出します。KIBITの適用範囲は本当に広いのです。
旧社名のUBICは「Ultimate Business Intelligence Company」の意味でしたが、KIBITなどによって事業領域が広がったため、変えるなら今だという判断でしたね。
──AIは通常、導入にあたって学習する必要があるため、ビッグデータを必要とします。お話をうかがった限りでは、KIBITについてはビッグデータが不要という印象を受けました。
少量のデータでも、すぐに導入できるところがKIBITの強みです。データの整備などで導入に何か月もかかるAIソリューションがありますが、導入に何か月もかけていたら、その間にビジネス自体が変わってしまうかもしれない。AIが経営のボトルネックになりかねないのです。
KIBITはもともと犯罪捜査のために開発しましたが、結果的に汎用性の高いものになりました。エキスパートの暗黙知をうまく活用する。それが、KIBITの本質です。
──さまざまな分野にKIBITの事業を展開するとのことですが、現状の売上比率はどのような感じですか。
まだ、ほとんどがリーガル分野ですが、ヘルスケアの分野を中心に事業拡大の手ごたえを感じています。
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