挑戦する回数を増やして勝率を高める
──APIの活用が進めば、ソフトウェア開発そのものが大きく変わりそうです。
クラウド全盛の今、大手ソフト開発ベンダーの多くがオンラインでソフトを販売しています。これも「パッケージソフト」という括りに入れるのであれば、箱に入れて売るのか、オンラインで売るのかの違いに過ぎないかもしれません。
パッケージソフトを23年つくってきた当社がいうのも何ですが、パッケージソフトの成功率は正直とても低い。100万本、1000万本のヒット商品に恵まれた当社でさえ、苦労してつくったのに思うように売れなかったことはあります。「売れたらラッキー。売れなかったら仕方がない。また別のソフトをつくるか」ということを繰り返してきたのです。
苦労を重ねて、やっとの思いでつくったのに「売れませんでした」では、経営に深刻なダメージを与えかねません。もし、APIを活用して、従来の10分の1の工数でソフトがつくれるのであれば、同じ労力で10種類のソフトがつくれます。何がヒットするのかの予測は、市場ニーズの移り変わりや、ライバル他社の動きもあって、予測精度を高めるのはなかなか難しいものがあります。だったらAPIで工数を劇的に下げて、数多く挑戦したほうがヒットする確率は高まると思いませんか。
──確かに、ソフト開発はすぐれたアイデアが重要だといわれます。ただ、あまりにソフト開発が容易になると、逆に参入障壁が下がりすぎて、ライバルが増えることにつながります。
だとしても、それは止められない流れです。そう遠くない将来、残った手組みのソフト開発もすべてAIで自動化できるようになるでしょう。そうなれば、ソフトはAIにつくらせて、必要な機能はAPIでもってくる。「朝ひらめいたアイデアが、夕方にはサービスになっている」なんてことも可能になる。自分でサービス化せずとも、これまで開発してきたさまざまなソフトをAPIで公開して、サブスクリプション(継続課金)型の収益モデルの比率を高めることも容易になります。
──ソフト開発の工数を競う時代から、アイデアを生み出す創造的な競争へとより一層変わるわけですね。
「アイデア」というものが、人間の既存の知識の組み合わせでできているとすれば、恐らく組み合わせを得意とするAIが代行する可能性すらあります。どのAPIをどのように組み合わせれば、市場のニーズに合ったソフトウェアサービスがつくれるか。そういった課題は、AIに必要な市場データとAPIを渡して計算させれば、ひょっとしたら人間より予測精度の高い商品がつくれるようになるかもしれません。
だとしたら、なおさらソフト会社としては、より上流に位置するAPIの開発に軸足を移したほうが、将来の成功の可能性は高まります。こうした動きが世界規模で起こっている今だからこそ、当社はAPIを軸にソフト開発のあり方を抜本的に見直して、次の成長へとつなげていく考えです。
そう遠くない将来、AIにソフトをつくらせて、必要な機能はAPIでもってくる。
「朝ひらめいたアイデアが、夕方にはサービスになっている」ことも可能になる。
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眼光紙背 ~取材を終えて~
APIを積極的に使うことで、ソフト開発の手法は抜本的に変わる。ここにAIが加われば、手作業でプログラムを組まなくなる時代が本当にやってくるかもしれない。佐々木隆仁社長は、「ソフト開発におけるシンギュラリティ(技術的特異点)は近い将来に訪れる」と予測している。
では、ソフト開発がAIに完全に取って代わるかといえば、「そうはならない」とみる。その理由は「すぐれたアイデアや発想は、往々にして人間の幸福感と密接に関係する」からだという。しかも、自分の幸福感ではなく、「誰か、大切に思う人の幸福感を高めようとするときにモチベーションが最大限になる」。
この考えは、技術者であった父親から受け継いだもの。「誰かを幸せにしたいとの思いが強ければ強いほど、すぐれたアイデアを生み出しやすい」との教えが、将来のソフト開発につながる道標になっている。(寶)
プロフィール
佐々木隆仁
(ささき たかまさ)
1964年、東京生まれ。89年、早稲田大学理工学部卒業。大手コンピュータメーカーでOS開発に従事。95年、AOSテクノロジーズを設立。代表取締役社長に就任。2000年、ヒット商品となったデータ復元ソフト「ファイナルデータ」シリーズを発売。
会社紹介
AOSテクノロジーズグループの連結従業員数は約100人。グループ会社にデータ復旧や電子証跡のAOSリーガルテック、総合バックアップソフト開発のAOSデータ、ビジネスチャットやショートメッセージ配信のAOSモバイルの3社がある。AOSテクノロジーズは実質的に持ち株会社の役割を担う。BCN AWARD 2018システムメンテナンスソフト部門最優秀賞(販売シェア34%)を受賞。