ブランドと市場の対話には人間味が必要
──SNSにもいろいろありますが、いずれにしてもその普及をさらに促進しなければ、Sprinklrのビジネスは広がっていかないわけですね。
ビジネスに大きなインパクトを与えるSNSが最終的に何になるのか、FacebookかTwitterか、どちらでもないかもしれない。どんなSNSが残ったとしても、企業がやらなければならないのは、市場の声を聞いて、社内で連携しながら、考えて顧客とコミュニケーションすることです。人間同士のコミュニケーションと同じことを企業がソーシャルメディア上でやるための神経系統をつくることが、Sprinklrの発想です。
なぜそういう発想が必要かというと、ソーシャルメディアというのは人がたくさん集まってこそ価値が高まり、集まった人を情報の媒介とする「人メディア」だからです。企業がそこにお邪魔していくわけですから、いかにヒューマニティをもったブランドとして人々と会話できるかが重要になります。
──「中の人」ではそれは不十分なのですか。
「中の人」は企業のブランディングにおける意思決定を担うことができるわけではありませんし、属人的な業務になりがちなのでエンタープライズのソーシャルメディア活用においてはリスクがあります。
必要なのは、部署間や業務間のサイロ化を排し、面的にソーシャルメディアと向き合うことです。ディスラプターといわれる企業は、小規模な組織からスタートして、それができていたから急成長できたんです。Sprinklr製品は大人数の組織であってもそうした取り組みを可能にするためのもので、ソーシャルメディアがある世界を前提に開発した多様なCX向上のための機能を一つのプラットフォーム上でシームレスに提供しています。顧客や市場とコミュニケーションするための神経を全社に通わせる役割を担っていて、これができてはじめて企業のブランドが人間味を帯び、市場の声にリアルタイムに対応できる能力を獲得できると思っています。
流行語になったDXは、単なるデジタル化とは違い、テクノロジーによってビジネスを変革するのが本質です。レガシー企業が顧客中心のビジネスに生まれ変わり、再成長するためのテクノロジーを提供するのが当社の大きな役割なんです。
レガシー企業が顧客中心のビジネスに生まれ変わり、
再成長するためのテクノロジーを提供するのが
当社の大きな役割なんです。
<“KEY PERSON”の愛用品>「Time is money」を常に意識
オフィスのデスクの定位置に置かれているのが、ニューヨークのアンティークショップで一目ぼれして購入した卓上カレンダーと、起業した時に親友から贈られたバカラの置時計だ。思い入れのある二つのアイテムが「Time is moneyという言葉を常に思い出させてくれる」。
眼光紙背 ~取材を終えて~
企業がソーシャルメディア施策の重要性に気づくのは、「炎上」がきっかけであることがまだまだ多数派だ。Sprinklr Japanの商談もそうしたケースは多いが、それは「Sprinklrの価値の本質ではない」と八木さんは語気を強める。
Sprinklrという社名には、二つの意味が込められているという。一つは、スプリンクラーで消火するというもので、まさに炎上対策だが、もう一つはスプリンクラーで散水して芝生を育てるという意思だ。「ソーシャルメディア時代のCXを追求し、ビジネスを成長させてもらうのに当社ソリューションを役立ててほしいというのが、本当の目的だと思っている」。
日本市場の営業活動は、製品コンセプトを詳細に説明しつつ、ユーザーとソーシャルメディア活用の方向性をすり合わせていく必要もあることから、まずは少数のパートナーと共同で市場を拡大している状況。ただし、普及が進めばパートナーエコシステムを一気に拡大し、ビジネスをスケールアウトすることも可能だとみる。「その時期はそれほど遠くないはず」と力を込める。(霹)
プロフィール
八木健太
(やぎ けんた)
大阪府出身の46歳。同志社大学卒。新卒で電通に入社し、6年勤務した後にメールホスティングのベンチャー企業の日本支社立ち上げに参画。2014年に米Sprinklrの創業者と出会い、同社の日本進出に携わる。15年4月、Sprinklr Japan株式会社として営業開始。16年1月に同社の代表取締役社長に就任。
会社紹介
ソーシャルメディア・マネジメントを核とする顧客体験管理ソリューションベンダーで、時価総額約2000億円のユニコーン企業である米Sprinklrの日本法人。米本社は2009年設立。日本法人は14年12月設立、15年4月に営業開始。現在の社員数は約50人。