アドレスできる領域が10倍、100倍と広がった
――パートナーソリューションの充実という意味では、一部領域で競合しているベンダーもどんどんエコシステムに入ってきていますね。
マイクロソフトワールドで完結しないといけないという世界から脱却して4~5年経ちますが、これによってわれわれがアドレスできるビジネスの領域は10倍にも100倍にも増えたという感じですね。いまはほぼ全てのビジネスで、完全な競合、完全な協調というのはないんじゃないですか。どこかで競合しつつ協調するパターンがほとんどです。だから当社は営業の評価の仕組みも変えています。Azureの上に乗るISVのソリューションなどがわかりやすいかもしれませんが、マイクロソフトのテクノロジーが組み込まれていて、お客様のためになる提案であれば、他社の製品を販売した売り上げも評価対象になるようにしたんです。当社の社員もすごくやりがいを感じてくれています。お客様に本当に喜んでいただけるソリューションを、自信をもって提案できるというのは大きいんですよ。
―― “物売り”を担ってきた従来のパートナーの状況はどうみますか。CSPも約2000社まで増えていますが、アクティブなパートナーは4割程度という情報もあります。
マイクロソフトの視点ではありますが、順調に変化されているパートナーと苦労されているパートナーがいらっしゃるという印象はあります。ただ、少なくともマイクロソフトの世界観に共感していただいているパートナーであれば、変革のフェーズにかかわらず支援していきます。既存のビジネスで成功されたパートナーほど、変化には当然苦労されるはずで、事実われわれ自身も相当苦労しました。まったく他人事じゃなくて、痛みや苦労は誰よりもよくわかると思っています。一方で、われわれも大きな組織ではありますが、ここまで変わることができました。想いを共有できるパートナーとは、力を合わせて一緒に変わっていきたいと思っています。地方市場、中小企業向け市場での成長も19年度の重要なテーマです。この領域もパートナーの存在が不可欠であり、技術的な支援、案件創出、インセンティブなどわかりやすい明確な施策をつくっていきます。
――日本のナンバーワンクラウドベンダーになるという目標を掲げられました。達成基準は?
文字通り、国内パブリッククラウド市場におけるシェアを1位にもっていくことです。先ほども申し上げたように、Office 365の浸透とAzureのモメンタムがかなり上がってきたということが非常に大きな成長の要因になっているわけですが、Azureがアドレスできる領域はいくらでもありますから。現実的に達成可能な目標だと思っています。
Favorite Goods
ハイペリオン日本法人の社長に就任した2001年に買ったロレックスの腕時計には多くの思い出が宿る。腕時計にそれほど興味はなかったというが、奥様の後押しもあり購入を決断。それ以降、ビジネスの大事な局面を見守る相棒になった。
眼光紙背 ~取材を終えて~
オープンなエコシステムが支える成長
平野氏は社長に就任した3年前の市場の状況を「日本マイクロソフトの国内パブリッククラウド市場におけるシェアは5位くらいだったと記憶している」と振り返る。そうした背景も影響していたのだろう。就任直後の週刊BCNのインタビューでは、チャレンジャーとしての姿勢をとりわけ強調していた印象がある。
しかし今回のインタビューでは、AWSからパブリッククラウド市場のシェアトップの座を奪取することを現実的な目標として定めることができる水準に到達したという強い自負が感じられた。トップベンダーの一角として市場全体の成長の必要性にも言及しつつ、同社の確かな強みを淀みなく語ってくれた。
過去のインタビューでは「パートナーにわれわれのテクノロジーをどうエンベデッドして使っていただくかが重要で、そのポテンシャルは従来のビジネスモデルと比べてもケタ違い」とも発言。まさにそれを証明するように、オープンなエコシステムの構築に成功しつつあることが日本マイクロソフトの成長を支えていることをあらためて強調したのも印象的だ。
プロフィール
平野拓也
(ひらの たくや)
1970年生まれ。北海道出身。95年、米国ブリガムヤング大学を卒業後、兼松の米国法人Kanematsu USAに入社。98年、Arbor Software(Hyperion SoftwareとのM&A後、Hyperion Solutionsに社名変更)に移り、2001年にはハイペリオン日本法人の社長に就任。05年、マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に移籍し、執行役常務エンタープライズサービス担当、同エンタープライズビジネス担当などを経て、11年からは東欧諸国や新興国を中心に25か国を統括するマルチカントリーゼネラルマネージャーを務める。14年7月、日本マイクロソフトに復帰。代表執行役副社長などを経て、15年7月より現職。
会社紹介
米マイクロソフトの日本法人。設立は1986年で、従業員は7月1日現在で2166人。2018年度(18年6月期)のグローバルでの業績は売上高が前年度比14%増の1104億ドルで、そのうちコマーシャルクラウド事業の売上高は同56%増の230億ドルという規模に達している。さらに細かくみると、18年度第4四半期は「Microsoft Azure」の売上高が同89%増、「Office 365」が同38%増、「Dynamics 365」が同61%増。クラウドビジネスの成長が顕著で、先行するAWSを猛追している。