「開発プロセスの透明化宣言」を打ち出す
――NTTデータ時代、栗島さんはどのようなお仕事をされていたのですか。
そうですね、ソフトウェアやシステムの開発プロセスを透明化するガイドラインをつくったことが、印象に残っています。今から12年ほど前のことなのですが、「開発プロセスの透明化宣言」を謳い、システム開発の進捗状況を分かりやすく可視化。これを顧客企業と共有するというものです。
最初の要件定義までは顧客と一緒にするのですが、開発工程に入ると、顧客企業から見て、発注先のSIerが何をやっているのか分からなくなってしまう。要は開発工程がブラックボックス化してしまうのですね。
こうなると顧客はSIerへの“丸投げ”感が強まりますし、SIerはブラックボックスをいいことに、どうしてもプロジェクトの管理が甘くなりがちです。プロジェクトがうまくいっているときはいいですが、少しでも躓(つまず)いたときに、顧客の前でだけ「開発は順調に進んでいます」などと苦し紛れのセリフを吐きかねない。だったら、開発プロセスを全部オープンにして、顧客と一体感を高めたほうがいいと思ったわけです。
――なるほど、従来のウォーターフォール型の開発スタイルだけでなく、アジャイル開発やCI/CD(継続的なシステム構築/継続的な納品)にも通じる取り組みですね。
そう言ってもらえるとうれしいですね。ビジネスの変化に合わせてシステムを即時に変えていくことが要求されるようになると、顧客とより一体的にプロジェクトを進めていかなければなりません。先のベンチャー企業との協業でも、新しいサービスを試行錯誤しながら大きく育てていくスタイルだけに、顧客と情報を密に共有しながら、二人三脚でプロジェクトを進めています。
当社では、迅速かつ継続的な開発を可能にする開発基盤を「DevaaS 2.0」と名づけて整備してきました。この基盤を使うことで1日に複数回のデプロイ(新規機能の実装)が可能となる。新しいサービスをライバル他社に先駆けて投入し、顧客企業が競争に打ち勝てるようにします。冒頭のNTTグループ向けのノンテレコム領域や、外部向けのビジネスの拡大のいずれも、当社の強みを存分に生かしながら、ソフトウェア・エンジニアリングに強いSIerとして成長を加速させてきます。
Favorite Goods
NTTデータの取締役に就任した2009年、奥様からお祝いにプレゼントされたペリカンの万年筆。「深緑の色合いが一目で気に入った。後日、お揃いのボールペンを自腹で買ったほど」と、肌身離さず大切に使っている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
顧客に寄り添えているかを問い続ける
SIビジネスは、人月商売からの脱却の必要性や、不採算案件の問題が度々指摘されてきた。栗島聡社長は、「そもそもSIerのこれまでの開発スタイルが、顧客にあまり寄り添っていないのではないか」と疑問を感じていた。
仕様が決まって、いざ開発工程に入ると、SIerの中で何が行われているのか、顧客から見えにくくなってしまう。そこで、今から12年前、NTTデータで「開発プロセスの透明化宣言」を打ち出し、開発の進捗状況を顧客と逐一共有する取り組みを実践。顧客との距離を縮め、当事者同士の一体感を高めた。
最初のうちは「開発の進捗状況など自身の手の内がオープンになることに対する社内の根強い抵抗感が伝わってきた」と振り返る。
だが、このSI改革、近年のアジャイルやDevOps、CI/CDといった開発スタイルの比重の高まりに伴い、より一層効果を発揮することになる。
NTTコムウェアに来てからは、DevOpsなどの手法を取り入れ、顧客と一体となって開発する開発基盤を一段と拡充。「本当の意味で顧客のビジネスに寄り添うスタイル」を、今後も貫いていく。
プロフィール
栗島聡
(くりしま さとし)
1955年、東京都生まれ。80年、東京大学大学院工学系研究科専攻。同年、日本電信電話公社入社。2001年、NTTデータ第一金融システム事業部長。05年、執行役員金融システム事業本部長。09年、取締役執行役員グループ経営企画本部長。11年、NTTデータ取締役常務執行役員ソリューション&テクノロジーカンパニー長。14年、NTTデータ代表取締役副社長執行役員。16年、NTTコムウェア代表取締役副社長。17年6月、代表取締役社長就任。
会社紹介
NTTコムウェアの昨年度(2018年3月期)の売上高は1727億円。営業利益は81億円。社員数は6315人。1985年、NTT内の中央ソフトウェアセンタとして発足。97年、NTTコミュニケーションウェアとして独立。00年、NTTコムウェアに社名変更して現在に至る。