メリットが伝わらなければ普及せず
――「伝統的」な製品であるコンテンツ制作ツールや、ドキュメント関連の動向はいかがでしょうか。永続ライセンスからサブスクリプションへの移行は、すでに完了のフェーズですか。
日本市場に関しては「サブスクリプションへの移行が加速してはいるが、まだ移行の余地が残っている市場」と表現できるかと思います。短期的にはマーケティング施策やトレーニングプログラムの提供に加えて、移行について何らかのインセンティブを投入することも検討します。
また、「Document Cloud」にはまだまだ可能性があると感じています。今年6月には、不動産情報サービスのアットホームとパートナーシップ契約を結びました。これは単に契約書や署名の電子化を行うだけでなく、同社に加盟する5万4000以上の不動産店が、更新や解約といった、賃貸契約における管理業務を効率化できることを意味します。このような、文書のワークフローの領域では非常に大きなビジネス機会があると考えています。
――先ほど、日本は高度なテクノロジーが普及した国というお話がありましたが、一方で、今でも紙文書をファクスでやりとりするなど、新たなツールの導入に対して極端に保守的な一面もあります。なぜだと思われますか。
そうですね……。日本は品質が非常に重視される市場です。そのため、最新の素晴らしい技術があったとしても、それを利用する意味やメリットは何かがしっかり伝わらないと、導入が進まないのではないでしょうか。ですので、新しいソリューションについて、市場全体に対して啓蒙していくのはもちろん、お客様一人一人がメリットを実感できるよう、まさにパーソナライズされたメッセージを伝えていかなければならないのだと思います。
――今年後半から来年にかけて、特に力を入れて取り組まれる施策があれば教えてください。
現在3カ年の実行計画を立てており、今年度末までに策定する予定です。その中では、当社が最も戦略的な層として考えているお客様にフォーカスできるような組織づくりに注力し、プリセールスからサービスまで、全ての顧客接点を改善できるようリソースを投資していきます。お客様ごとにパーソナライズされた関係構築を実現する一環でもあり、将来的にはそのエコシステムの中に、パートナーも加わっていただくかたちになっていくと考えています。
Favorite Goods
かさばるので普段は財布を持ち歩かない。それを知る息子たちが「これから出張が増えるでしょう」と、カードをまとめるマネークリップをプレゼントしてくれた。名前入りの特別デザインで、色はマクリディ氏が好きな青。完璧なパーソナライズだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
“特別な何か”を成し遂げるチームでありたい
「スポーツ選手からビジネスパーソンへの転身は、残念ながら自ら進んで決めたことではありませんでした」
大学卒業後、ニューヨーク・メッツにスカウトされ、6年間にわたりピッチャーを務めたマクリディ氏。その後、IT業界に転じ今日まで華々しいキャリアを積み重ねているが、もともとマウンドを降りたきっかけは肩と肘の故障。不本意なものだった。
しかし、「スポーツ選手時代に学んだ中で最も大きかったのは、偉業とは個人の力で成し得るものではなく、チームの連携によって達成できるものであると知ったこと」といい、ピッチャー時代の経験はビジネスシーンでも大いに生きていると語る。社員のマクリディ評は「常に、チームで勝つためにどうすべきかという話し方をする。『俺が、俺が』というところがない」。和を尊ぶといわれる日本の組織文化にもなじんでいるようだ。
「『特別な何かを成し遂げるチーム』の一員であるという感覚が、メンバーにモチベーションを生む」が持論。日本の顧客が苦心しているデジタル変革を支援・実現し、アドビが「特別な会社」であることを示そうとしている。
プロフィール
ジェームズ・マクリディ
(James McCready)
米マサチューセッツ州ベントリー大学を卒業後、1991年から97年までプロ野球選手(投手)としてニューヨーク・メッツに在籍。98年、米EMC(現Dell EMC)入社。2012年から16年の4年間は東京に勤務し、EMCジャパンの営業戦略責任者およびCOOを務めた。その後、EMCシンガポール拠点での勤務を経て、18年4月より現職。
会社紹介
米カリフォルニア州で1982年、ページ記述言語「PostScript」の開発のため創業。クリエイティブツールのベンダーとして知られ、2009年にオムニチュアの買収でマーケティングツールの領域に本格進出を図った。17年度のグローバル売上高は73億ドル(約8200億円)。日本法人は1992年設立で、従業員数約400人。