この春、富士通ブランドのPC事業を手掛ける富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は富士通の連結から外れ、レノボ傘下で再スタートを切った。資本構成が変わってからも、ブランドや人材、製造拠点まで富士通時代の体制は継続され、働き方改革の機運を追い風として目下のビジネスは堅調だという。当面はWindows 7端末の更新需要が期待できるが、市場の減退が予想される2020年以降に向け、どのような手を打っていくのか。齋藤邦彰社長に聞いた。
販売、開発のパートナーは100社超に
――現在に至るまでブランド、工場、人材が整理統合されるようなことはなく、結果的には、事業売却交渉時に富士通が望んだ条件が満額回答で認められたようにみえます。
富士通がレノボに要求したというよりも、両社のPC事業が一緒になったときに、どうやったらその後のビジネスが一番大きくなるかを議論した結果、今の体制が一番いいという結論になったということですね。
われわれはハイエンド製品に力を入れているがゆえに、販売台数が少なく、部品の調達コストが高かった。一方のレノボは、台数はものすごく出しているけれど、非常に厳しい価格競争にさらされるビジネスを行っている。今後、両社が同じような製品を作って、量産効果でさらにコストを下げ、安く提供していくという戦略もあるわけですが、それよりも、それぞれのブランドが持つ異なる顧客基盤に対して、違う製品を提供する、つまりお互いを補完していく戦略を取るほうが、より多くのお客様に対して商売ができるという判断になった。どちらの戦略を取るか見極めていたため、事業譲渡の最終発表まで時間がかかっていたんです。
――現在も法人向け製品の商流は富士通経由ですが、PCの開発・製造事業が富士通の連結から外れたことで、彼らが富士通ブランドのPCを取り扱うモチベーションが下がる恐れはありませんか。それこそ、レノボ製品のほうが安くて売りやすいと思われてしまうとか。
もしもそうだとしたら、(ハイエンド機種やカスタマイズサービスに特化する)われわれの事業自体が、今頃なくなっていたでしょうね(笑)。もちろん、コモディティーとしてのPCを大量に販売するというグローバルベンダーのやり方、これはなかなかできることではない立派な戦略だと思いますが、PCの使い方はお客様一人一人違っていて、製品に期待することも異なります。かつては、お客様の本当のニーズとは少し違っている製品でも、安いからという理由で売れていた。しかし、買い換えサイクルが長くなってくると、お客様は自分に本当に合ったものがほしくなる。そのニーズに応える少量多品種を実現するには、自前の開発部隊と工場が必要になります。
教育や保険などの業種向けでは、現場の業務に特化してカスタマイズしなければいけない。こういうところがお客様に受け入れられて、実際に当社の法人向けPC事業は伸びています。富士通にとっても、引き続き富士通ブランドのPCを扱っていくことでお客様を広げることができる、という結論になったと認識しています。
――先月発売したモバイルノートPCは、世界最軽量の更新がニュースにはなりましたが、ビジネスの現場に製品を販売するにあたって、約698グラムというスペックはどのような意味をもつのでしょうか。
実際に製品を持っていただくと、「何これ、中身入ってるの?!」と言われるくらい、お客様の反応は違ってきます。薄型軽量なノートPCはだれもが考える当たり前の製品なんですが、見た目からお客様が想像する範囲をはるかに超える軽さを実現したことに意味があります。その驚きが、「このPCなら持ち歩きたい」「持ち歩いてもいい」という感情につながります。もちろん、何でも省いてただ軽くするのではなく、有線LANやUSBポートはあるし、手のひら静脈センサーやスマートカードスロットも追加できます。
――カタログ上の数字というよりも、軽さの驚きに価値があると。
世界最軽量を狙って開発した商品ではありますが、あくまで698グラムという数字は結果であって、売りたいのは「どこにでも持ち歩いて仕事をしたい」というモチベーションそのものです。持ち歩きたいという根源的な感情を生むために、軽量化の努力をしているといっても過言ではない。企業で働く人々がそう思ってくれないと働き方改革の成果は何も得られませんが、その思いを誘発する製品だと考えていて、お客様には「これは、人の心を動かすパソコンです」と申し上げています。
[次のページ]エッジかPCか呼び方は何でもいい