強みを生かせる新事業創出を
――新規事業創出のため、昨年6月にシリコンバレーに新会社のNEC Xを設立しました。今年もこうしたエコシステムはどんどん加速させていくのでしょうか。
NEC Xは、NECの技術をいろいろな人に使ってもらえるようにするための取り組みです。これまでNECの中だけでビジネスをつくろうと取り組んできましたが、これからは外に技術を出し、パートナーと一緒にやっていくべきだと考えました。この取り組みは今後もどんどん行っていきます。
最近よく聞くお客様との共創は、NECは以前からあらゆる業種で取り組んできました。これからAIを使うことが当たり前になる時代です。今はAIのエンジンの優位性を競っていますが、将来、AIエンジンはプラットフォーム化すると考えています。その時に重要となるのが、いいデータをいかにハンドリングできるかです。このデータはお客様が持っています。
これまではNECとお客様の1対1で行ってきた共創ですが、これからはNEC1社だけではなく、複数社とコンソーシアム的な形で取り組んでいくようになると思います。例えば、受給の調整最適化ソリューションでは小売業とNECという狭い領域だけではなく、サプライチェーン全体で情報を共有することになるでしょう。こうした取り組みがどんどん広がっていくと思いますし、データ連携ができればあらゆるところで効率化が進みます。その最たるものが医療で、カルテなどの情報が共有され、保険機関、病院、社会保障などと連携し、効率化できるようになるのではないでしょうか。
――NECは成長が望める優位性のある技術分野に力を集中させ、プラットフォーマーを目指しているようにみえます。プラットフォーマーとしてのビジネスを進めていくからには、エコシステムが重要になります。新しいエコシステムの形をどのようにお考えでしょうか。
これから先の世の中は、クラウドベースのシステムに代わっていくことは間違いありません。ではNECがクラウドのプラットフォーマーになるかというと、それは現実的ではありません。NECはいろいろなクラウドベンダーと協業しながら、そこにNECの強みを乗せていこうと考えています。例えば、NECの強みである顔認証や画像認証のプラットフォームを作れば、いろいろな領域、あらゆる業種で使えるプラットフォームになります。使える領域が広いという意味ではセキュリティーも同様です。NECが持っている技術の優位性をどこまで共通化して使ってもらえるようにするか、そのために何を作らないといけないのか。部分垂直統合の中でイメージを持ちながら、そこから生まれたものを横に展開していく。こうした取り組みをやらなければなりません。
ここで横展開することを目的にするとうまくいきません。NECの強みを生かせて、なくてはならないものをちゃんとつくることが重要です。どのレイヤーでプラットフォーマーになるか決めるのは難しいですが、今のNECの強みを出せる領域は無線技術やセンサー技術、エッジコンピューティングの技術だと思っています。これらはIoTの世界で下のほうのレイヤーになりますが、競合が少なく、セキュアなものが求められています。NECの特徴を生かせる領域だと考えています。
Favorite Goods
住友グループの一員であるNEC。この住友グループの発展を支えたのが愛媛県の別子銅山だ。銅板には住友吉左衛門のイニシャル「KS」が刻まれている。昨年、住友金属鉱山から銅板型の文鎮が贈られた。住友の精神を忘れないため、心の重しとして常に机の上に置いている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
温厚な新野社長がついに牙をむくか
NECの社員というと、真面目で一生懸命、お客様の要求に実直に応えられるけれど、新しいものを生み出すのはちょっと苦手。そんなイメージがある。新野社長が舵を取る経営もそんな社員イメージと似ている。守りが固く、攻めに対しては極めて慎重だ。
新野社長が就任した2016年は、18年度を最終年度とする中期経営計画「2018中期経営計画」を実行中だった。収益構造の立て直しは順調に進んだが、成長軌道への回帰が思うようにいかず、わずか1年で見直しとなった。すぐさま撤回したことで、新野社長が進む方向性について迷いを持っていることを感じさせた。ところがこの迷いはすぐに吹っ切っれたようだ。
18年1月に英ノースゲート・パブリック・サービスを4億7500万ポンド(約713億円)で買収し、さらに18年末、デンマーク最大手のIT企業KMDを80億デンマーク・クローネ(約1360億円)というノースゲートよりも大きな金額で買収した。これまでの慎重な経営から一転した、思い切った攻めの一手だ。2社の買収は海外セキュリティー事業拡大のために必要な投資というが、海外事業そのものが、NECの柱になるかは未知数だ。攻めの姿勢に転じた新野社長のこれからの手腕が問われる。
プロフィール
新野 隆
(にいの たかし)
1954年生まれ。77年、京都大学工学部を卒業しNECに入社。金融向けの営業畑を歩み、2006年に金融ソリューション事業本部長に就任。11年6月に取締役執行役員常務、同7月に同職兼CSO、12年4月に代表取締役執行役員副社長兼CSO兼CIOに就任。16年4月より現職。NECがCEO職を置くのは新野氏が初で、グローバルに向けて実質的トップを明確化するのが狙い。
会社紹介
1899年創立の電機メーカーで、正式社名は日本電気(にっぽんでんき)。2020年度を最終年度とした「2020中期経営計画」(18年度~20年度)では、20年度に売上高3兆円、営業利益1500億円、営業利益率5%を目標に掲げる。中期経営計画の1年目となる18年度の上期連結決算では、パブリック事業とエンタープライズ事業の増収が貢献し、売上高は前年同期比3.8%増の1兆3364億円、営業利益が90.1%増の138億円と増収増益だった。積極的に投資を行い、強化を図っているグローバル事業は50億円の営業赤字となったものの、売上高は0.6%増の2133億円となった。