エプソングループは、2025年度までの長期ビジョン「Epson 25」を策定しており、18年度末で第1期中期経営計画が終わった。第2期が始まる19年4月、20年以上プリンタ市場を見つめ続けてきた鈴村文徳氏が代表取締役社長に就任した。鈴村新社長の打ち出す新中期経営計画で、厳しいビジネスプリンタ市場の荒波を乗り越えることができるか。
「カラリオ」が人生の転機となった
――鈴村社長というと、プリンタというイメージがあります。いつからプリンタ事業に携わっておられるのですか。
1998年にカラリオマーケティング部門に配属されたのが最初ですね。当時、家庭にはプリンタがなく、写真は店舗に現像・印刷を頼むのが一般的でした。特に写真愛好家からインクジェットで印刷したものは写真ではない、銀塩プリントこそ本物だ、と言われたこともありましたね。
家庭で簡単に写真を印刷できるインクジェットプリンタを広めたくて、中村征夫先生や田沼武能先生など著名なプロカメラマンを回り、インクジェットプリンタについて説明しました。先生方は暗室にこもって大変な思いをして現像するよりもはるかにいいと仰ってくれました。写真をインクジェットプリンタで印刷することが当たり前になり、一つの文化を作ることができたと思っています。
――ビジネスプリンタの領域に移ったのはいつ頃でしょうか。コンシューマー向けプリンタとの違いなどはありましたか。
2011年ですね。コンシューマー向けプリンタと比べてまったく別の世界だったので最初は戸惑いました。コンシューマーの世界では大きなバリューだと思っていたエプソンのブランドが、ビジネス向け市場ではそうではありませんでした。また、当時はビジネス向け製品のラインアップが十分ではありませんでした。そうした点もとても苦労しましたね。
ですが、エプソンの強みはインクジェットのテクノロジーです。その部分はコンシューマーもビジネスも変わりません。展開する市場が異なるだけです。慣れるのにそれほど時間はかかりませんでしたよ。
――14年の販売推進本部長の時に、本体、インク、保守サービスを毎月定額従量料金で利用できる「エプソンのスマートチャージ」をリリースされましたね。プリンタを所有せず利用する流れへと変わるきっかけとなりましたが、当時はいろいろとご苦労があったのではありませんか。
国内のビジネス向け複合機市場では、エプソンは最後発です。スマートチャージとともに新製品をリリースした時、「今さら」「最後までやる覚悟はあるのか」と厳しい声をいただきました。逆に、これまでレーザープリンタが主流だった市場にインクジェットのテクノロジーを持ち込むことに対して「期待している」というお声もありました。
スマートチャージをリリースしてから5年が経ちました。最初にスマートチャージを契約したお客様が、契約の更新時期になりました。次もエプソンを選択するというお客様も多いですし本気でやるのか、と聞かれることはなくなりました。
――ビジネス向けインクジェットプリンタの販売台数は順調に伸びていると聞きます。市場に対するインクジェットのインパクトは変わりましたか。
国内のビジネス向け市場は大きく、インクジェットプリンタのシェアは正直、まだまだです。とはいえ、大きな市場の中で、エプソンの経験はたった数年。主力となる「LX-10000F/LX-7000F」をリリースしてからまだ2年です。私たちはポジションを上げるための取り組みを始めたばかり。今はまだポジションが小さいということは、逆にそれだけ伸びしろがあるということです。
発売1年目より2年目の方が販売台数が伸びています。3年目の今年、さらに伸ばすために工夫を凝らしていかないといけません。例えば、お客様は今使っているプリンタや複合機に満足しています。困っていることがあまりないのです。なので、新製品が出た、機能や性能が向上した、といってもなかなか買い替えにはつながりません。モノの価値訴求だけでは、エプソンがシェアを取るというシナリオになりにくいのです。モノにコトの価値をのせてお客様に伝えないといけないと考えています。
モノにコトの価値を加える
――第2中期経営計画で掲げた「モノの価値にコトの価値を加える」という方向性につながっていくのですね。まずは第1期の振り返りについて教えてください。
スマート、環境、パフォーマンスをキーワードに大容量のエコタンク搭載モデルのリリース、スマートチャージの対象モデルの拡大、産業領域のインクジェットモデルの投入などに取り組んできました。プロジェクターやウェアラブル領域の腕時計、ロボットなども堅調に伸びましたが、結果として売り上げは目標に達しませんでした。
――それぞれ前年を上回って成長していますが、なぜ目標に達しなかったのですか。
要因は、コンシューマー向けプリンタの不調にあります。カラリオのインクの収益がエプソンの売り上げの多くを占めています。コンシューマー市場は写真や年賀状の印刷枚数の減少により需要が落ち込み、ビジネス向けの成長分を相殺している状態です。だからこそビジネス領域の販売をさらに強化する必要があります。
これまでモノを中心に訴求してきました。例えば、環境にいい商品、パフォーマンスの高い商品などです。エプソンはハードウェアが強く、自信があります。こうした訴求により販売台数は伸びていますが、予想よりも伸び率は小さいのです。これからはモノの価値にコトの価値を加えていくことが重要になります。勘違いしてほしくないのは、モノ訴求からコト訴求にシフトする、ということではありません。これが第2期の重要なポイントです。
――コト訴求を強化するために、具体的にどのような取り組みを行っていく計画ですか。
まずはエプソンの新宿オフィスをエコなオフィスに作り替えます。29階から32階までエプソン販売とセイコーエプソンが入居しており、従業員数は合わせて800人ほどになります。この800人が使う紙を完全にリサイクルする取り組みを始めました。使用済みの紙は小型のオフィス製紙「PaperLab」で再生紙に生まれ変わらせ、高速インクジェットプリンタで印刷します。リサイクルからアップサイクルまで行います。
環境製品の高い製品は月々いくら電気代を削減できる、という話になりがちですが、環境を意識した活動は社会貢献活動です。経済合理性だけのアプローチではなく、エコ、省エネという活動が企業にとってプラスになることをアプローチしていきます。
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