2018年にバブルを引き起こした暗号資産(仮想通貨)だが、仮想通貨取引所に対するサイバー攻撃事件を発端としたセキュリティリスクへの懸念から、当時と比べ勢いは失った。しかしその裏で、基盤技術のブロックチェーンは着々と研究が進められ、国内でも実証実験などが活発に行われている。ブロックチェーンの本格的な実用化に向けた可能性、課題はどこにあるのか。イーサリアム元CEOのチャールズ・ホスキンソン氏に話を聞いた。
きっかけは金融システムへの
フラストレーション
――ホスキンソンさんはイーサリアムの共同創業者として知られていますが、そもそもなぜ仮想通貨やブロックチェーンに興味を持たれたのですか。
私の場合は、既存システムに対するフラストレーションが大きかったと思います。特に当時はiPhoneが目まぐるしく発展し、常に改善が見られた一方で、世界的な金融ネットワークについては、送金に何日もかかったり、手数料が送金額を上回ることがあったりと改善が見られず、フラストレーションを覚えていました。そこでプロトコルに関心を持つようになり、プロトコルベースのお金に興味を抱くようになったんです。
当時でも、大手IT企業や銀行などが新しいインフラを発表するなど研究はされていましたが、より分散化されたかたちを目指すオープンなプロトコルでも、どこか一つの企業が勝ってしまったら独占権が続いてしまう。特にインターネットと比較した場合に悲観的にならざるを得なかったので、オープンなスペースに期待して参入しました。
――仮想通貨は一時期、投機的に売買され相場が非常に過熱しました。フェイスブックのリブラなどの影響でまたその兆しが見えていますが、そうした仮想通貨の状況については、どのように捉えていますか。
いろいろなタイミングを見てきましたが、激しい乱降下の中で、仮想通貨やブロックチェーンが持つ本当のポテンシャルが隠れがちなのは非常に残念です。実際に携わっている研究者の数や発表されているプロジェクトの内容をみると、19年は18年より伸び続けているところで、皆さんにもそれがもっと見えていればいいのにと思っています。ただ投機的な対象としてだけでなく、自分のアイデンティティやお金の管理を歴史上初めて自分で完全に管理することができるという可能性の部分を、ぜひもっと見てもらいたいです。
時間はかかっても
必ず日の目を見る
――ブロックチェーンの持つ可能性について、改めて端的にご自身の考えをお聞かせ下さい。
これまで多くの国や自治体のパイロットプログラムや実験に携わり、いろいろと興味深いことがありました。例えば、あるスイスの保険会社のケースでは、保険料の支払いに関して、ブロックチェーンを使って決済期間をどれだけ短縮できるかという実験を行ったところ、それまで10週間かかっていた保険料の支払いが1週間に短縮することができました。それ以外にも、サプライチェーンのプロセス改善の依頼を受けたりなど、ブロックチェーンは応用分野が広く、非常に多くのことが起こっています。
残念ながら今のこの業界の中では、急激に増減する仮想通貨の資産価値と、時間をかけた実際の設計と開発を通して世の中に対して変化をもたらすもの、相反する二つのものが存在していて、残念ながら前者の方が目立ってしまい、後者はあまり日の目を見ないところがあります。私はこれを新幹線がつくられるようなプロセスだと考えていて、10年20年と長い時間をかけて計画することで、偉大なインフラをつくることができると考えています。
――ブロックチェーンの普及に向けた課題はどこにあると思いますか。
仮想通貨をめぐるネガティブな要素が、もう一つの堅実にゆっくり前進しているブロックチェーンの世界に悪い影響をもたらすというのが、最大の課題かもしれません。
インターネットの黎明期もそうした課題があったかと思いますが、インターネットというのは、例えば検索や動画サイトといった非常に有益なツールが使える反面、悪用しようとすれば悪いこともたくさんできるし、個人情報の流出など多くの課題も残っています。そうした意味で、悪い使われ方をするから技術全体が悪いわけではなくても、どうしてもそういうイメージというのは実在します。
だからこそ多くの研究は表立ってはあまり行われず、日本でも多くのパイロットプログラムが進行していますが、あまり声を大にして発表しているわけではなく、実際に行っている実験自体も小規模だったりするというのが実情です。
ただ、IBMなどの大手IT企業や金融関連企業など、多くの企業が参入してきているのは間違いないので、まだまだ時間はかかると思いますが、より価値が認められて努力が続けば、絶対に芽が出ると思います。
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