BoxやF5ネットワークスの日本法人でパートナービジネスに携わってきた嘉規邦伸氏が今年6月、アクロニス・ジャパンの新代表に就任した。中小企業向けバックアップソフトで知られてきたが、従来ライセンス販売に置いていた事業の軸足を、データ保護プラットフォームの提供へ移そうとしている。嘉規代表は、「ITベンダーが差別化をはかるための“黒子”」になるのが、国内における同社の戦略だと説明する。
データ保護技術をホワイトレーベルで提供
――代表就任にあたって、国内SIerと組んだデータ保護サービスの拡大を目標に掲げられました。その背景は。
サーバーやストレージといったハードウェアの分野では、国産というこだわりが薄れてグローバル製品が入ってきている。その上、ITビジネスに占めるパブリッククラウドの比率が高まっていて、国内のSIer各社は、自社製品による差別化が非常に難しい時代になったと感じられていると思います。当社は100%パートナー経由でビジネスを行っており、データ保護のテクノロジーを「ホワイトレーベル」の形態で提供することで、パートナー各社の差別化をご支援する“黒子”のような存在になりたいと考えています。
――アクロニスのクラウドを活用すると、パートナーはどんなサービスを提供できるのでしょうか。
データ保護をクラウドサービスとして提供するために必要なアカウント管理やレポーティングなど、裏側の仕組みを全てお渡ししますので、パートナー各社はすぐにバックアップやランサムウェア対策などのサービスを立ち上げられます。また、自社がお持ちのソリューションと連携させて、独自でサービスとして展開することも可能です。アクロニスという名前も表に出す必要はありません。もちろん、アクロニスブランドのクラウドサービスを再販する形態でビジネスを展開されているパートナーもいらっしゃいますが、データセンターやクラウド基盤をお持ちのSIerであれば、自社のデータセンターを活用し、自社のブランドでデータ保護サービスを提供したいと考えられると思います。
――クラウドに対応したバックアップソリューションはすでに各社から提供されていますが、アクロニスの製品にしかない強みは何なのでしょうか。
多くのバックアップソフトは、端末やサーバーから取ったデータを、クラウド上のストレージ領域に保存できることをもって「クラウド対応」をうたっていると思います。データを管理・可視化するコンソールをクラウド上で提供し、なかおつ、その機能をホワイトレーベルで提供できるのは当社だけだと考えています。普通、SaaSの事業者は自社でサービスを運営し、外部とは連携するだけで、SaaSの仕組みをパートナーに丸ごと提供することはしないと思います。アクロニスの場合、管理コンソールを提供するソフトウェア自体をお渡しして、お客様やパートナーご自身のデータセンター内で完結する形で実装いただくことも可能です。
クラウドが売れれば従来製品にも好影響
――データ保護製品の市場は多くの競合が存在するにもかかわらず、黒子役という一見地味な戦略をとるのはなぜでしょうか。
多くのITベンダーがサービスプロバイダーを志向している時代ですから、自社の製品を売ることよりも、パートナー各社の黒子に徹する形のほうが正しいと考えています。これは日本だけでなく、当社がグローバルで進めている戦略です。ただ、5~6年前に同じことをやろうとしても無理だったと思いますし、私も、そのとき声をかけられたとしてもアクロニスには来ていなかったと思います(笑)。当社が提供形態の軸足をクラウドに転換し、日本市場の環境としても、多くのパートナーがオンプレミスとクラウドを組み合わせた形でサービスを提供されようとしている。ちょうど、環境が整ったところと考えています。
――永続ライセンスの販売からクラウドサービスへと移ることで、データ保護のコストはどのように変わりますか。
これまでは、PCやサーバーといった保護対象を何台お持ちかによって金額が決まっていましたが、大手のパートナーやお客様とお話しするようになって、このような従来のライセンス形態が合わないケースも多いと感じています。例えばある企業からは、数千人の営業担当者が使用する各自のPCの、特定のフォルダに重要なデータが保存されており、容量自体はごく軽量なのですが、そのフォルダだけは確実にバックアップしておきたいという声をいただきました。従来の製品だと数千台分のライセンスが必要でしたが、クラウドではどれだけの容量を保護するかという考え方になるので、コストを抑えられるというわけです。
――国内のIT市場では、全ての領域で売り切りからクラウドへのシフトがスムーズに進んでいるわけではないと思います。販売の現場では、一時的な売り上げの減少も覚悟する必要があります。
バックアップされるデータ量は、まだまだクラウドに比べてオンプレミスのデータセンターのほうが大きく、オンプレミス用の従来製品の販売が急激になくなるといった恐れはないと見ています。先にご紹介したユースケースのように、クラウドサービスでは今までバックアップ対象になっていなかったデータを保護したいという新たな需要をカバーすることもできます。ただ、売り上げで見ると、グローバルではすでにクラウドのほうが大きいです。日本市場ではまだ従来製品のほうが大きいですが、グローバルの傾向に近づいています。
少し“大風呂敷”かもしれませんが、クラウドできちんとしたデータ保護ソリューションを提供できれば、オンプレミスの従来型バックアップ製品にもよい影響を与えると考えています。というのは、バックアップは部署ごと、拠点ごとといった単位で運用され、一元管理されていない企業が今でも多いです。当社はクラウド上のコンソールからオンプレミスのバックアップも一元管理できるので、クラウドで使いやすいサービスを提供できれば、オンプレミスでも他社製品のシェアを奪えるのではないかと期待しています。
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