バックアップ以外でもビジネスをつくれる
――アクロニスとしてクラウド型の提供形態に力を入れるのは、今回が初ではないと思います。これまでの取り組みでは何が不足していたのでしょうか。
既存のパートナー各社様にはもちろん当社のクラウドをご案内していたのですが、クラウドサービスの取り扱いを主としているベンダーの方々へのアプローチが、十分ではなかったと考えています。私は前職がSaaS事業者でしたが、アクロニスに来て最初は「え、あのクラウド系ベンダー、まだ一度も訪問したことなかったの!」と驚くこともありました。逆に、クラウド業界側の方々は、アクロニスがデータ保護技術をプラットフォームとして提供していることをご存じない。まずはここをつないでいくだけでも、相当の可能性があると考えています。
――SIerとのパートナーシップでは、どのような新たな価値を提供していきたいとお考えですか。
金融、公共、医療など、守らなければいけない業界のお客様を各社はお持ちです。バックアップソフトだけだった過去のアクロニスがご提案しても「バックアップはもう他社の製品を担いでいるから要りません」で終わりだったかもしれませんが、今は、バックアップだけでなく他のテクノロジーも加えた形で、当社のプラットフォームを活用したいというお話も少なくありません。例えば、当社はブロックチェーン技術を応用したデータ改ざん防止ツール「Acronis Notary」を提供していますが、これを使って、企業の情報システムに格納される情報が真正なものであることを検証するソリューションができないかといったお話を、パートナー各社と進めています。バックアップとは違う領域でも、新しいビジネスをつくれると手応えを感じています。
――アクロニスのクラウドを活用するパートナーが増えるほど、ソリューションの幅も広がりますね。
昨年、英プロサッカーチームのマンチェスター・シティFCとパートナーシップを結びましたが、この提携では単に当社がデータ保護技術を提供するだけでなく、保存したデータをAIと連携させることで、試合の戦略やスタジアムの運営効率を高めるといった、従来のバックアップとは異なるソリューションの構築を進めています。データを起点にした新たなサービスを充実させることで、5年、10年先には「アクロニスって、バックアップ“も”やってるんですね」なんて言われるようになっていたいですね。
Favorite Goods
「信じるゴールに向かって、思いを一つにして戦う集団」の姿が、自身の目指す組織のあり方に通じることから、新選組に心酔している。書架には愛読書の歴史小説が並ぶが、“この一冊”を挙げるなら、新選組愛好家の必読書とされる『新選組血風録』(司馬遼太郎・著)という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本だからできる成長の仕方がある
「実は、最初から当社での仕事にピンと来ていたわけではないんです」
マネージャーとしての新たな活躍の場にアクロニスを選んだ経緯を尋ねたところ、嘉規代表は苦笑しながら答えてくれた。バックアップソフトには、“枯れた”技術で構成されるコモディティ製品というイメージがあった。しかし、本社の経営陣と対話を繰り返す度、自分がこれまで取り組んできたパートナービジネスやSaaSビジネスの経験が、アクロニスの新戦略にピタリと重なるという確信を強めていった。
「プロダクトからサービスへ」「オンプレミスからクラウドへ」。こんなかけ声が業界に響くようになってもう何年も経つが、日本のIT市場が、それらの潮流の変化に十分対応できているとは言いがたい。裏を返せば、クラシックな事業形態から転換できさえすれば、ビジネスはまだまだ拡大できる。
サーバーが売れれば自動的にバックアップ製品も売れる新興市場に対して、一見、すでに飽和しているように思われる日本市場。しかし、ITインフラが複雑化した今こそ、サービスとしてのデータ保護の需要は大きいとみる。嘉規代表は「日本市場だからできる成長の仕方がある」と力を込める。
プロフィール
嘉規邦伸
(かき くにのぶ)
マカフィーのコンシューマビジネス担当ディレクターなどを経て、メール/ウェブコンテンツセキュリティベンダー・クリアスウィフト日本法人の社長に就任。その後F5ネットワークスジャパンで執行役員パートナー営業本部長、Box Japanでチャネル営業部長および執行役員を務めた。今年6月より現職。
会社紹介
2003年、現CEOのセルゲイ・ベロウゾフ氏がシンガポールで創業したデータ保護ソフトウェアベンダー。中小企業・個人向けのバックアップ製品に強みをもち、現在ではランサムウェア対策を中心としたセキュリティ機能や、クラウドバックアップ機能を強化している。グローバルでの従業員数は1300人以上。日本法人は09年9月設立で、今年10周年を迎えた。