ハイパーコンバージドインフラ(HCI)のマーケットリーダーとして盤石の地位を築いた米ニュータニックス。日本国内でも急速にユーザー企業数を増やしており、成熟市場におけるハードウェア製品としては異例の成長を続けている。アプライアンスからソフトウェア提供へ事業モデルを転換し、今後はセカンダリストレージへも適用範囲を広げようとする同社の戦略を、創立者でもあるディラージ・パンディCEOに聞く。
ハイブリッド時代を迎えソフトウェア企業に転身
――日本市場での売上高は、この4年間で倍以上に伸びたと聞いています。一般的にみて、日本は新しいテクノロジーの導入に時間がかかる市場ですが、なぜニュータニックスのHCIがこれだけ受け入れられたと考えていますか。
当社は世界50カ国のオフィスを通じて事業を展開していますが、日本は米国に続く第2位の市場です。日本のお客様から最も評価されているのは、細部に至るまで配慮が行き届いたエンジニアリング品質です。日本語では「こだわり」という表現になると思いますが、この点が日本市場における成長・成功の最大の要因と思っています。HCIという製品自体は、誰でも作ることができるかもしれません。しかし、オンプレミスとクラウド間のフリクション(摩擦)レスな使い勝手、サービスやサポートを含めた高い顧客満足度は、当社でしか提供できない価値だと自負しています。
――HCIは、SDS(ソフトウェア定義型ストレージ)を汎用のサーバーに導入したものだと言えますが、どこに独自の価値が発生するのでしょうか。
例えば、セキュリティパッチやアップグレードなどを、複数の異なるハードウェアプラットフォームへ配布、適用するというプロセスでは、競合よりもはるかに優れたソリューションを提供してきました。当社はソフトウェアカンパニーですが、事業のルーツはアプライアンス製品の提供にありました。だから私たちは、ソフトウェアだけをやってきた会社には真似できない、ハードウェアの細部にまで配慮した、こだわりのソフトウェアを提供できます。私たちはハードウェアに対して、大いにリスペクトをもっています。
グローバル2000社のお得意様の傾向を見ると、最初にスモールスタートでニュータニックス製品を導入されてから、その後の18カ月で、当初の11.7倍もの金額を当社にお支払いいただいているという実績があります。お客様やパートナー各社に繰り返し私たちの製品を選んでいただくには、継続して優れた体験をご提供するしかないと考えています。
――ニュータニックスが最初の製品を発売したのは2011年でしたが、市場の声を取り入れた結果、事業はどのような変化を遂げてきたのでしょうか。
当社のビジョンは、「コンピューティング環境をインビジブル(不可視、意識されない存在)にする」で、これは時代を経ても不変です。ただ、そのビジョンに現在は「エニウェア(どこでも)」が加わったと言えるでしょう。当社自身が、オンプレミスに加えてさまざまなクラウドを対象にしたマルチクラウドカンパニーの姿になっていく。アプライアンスからソフトウェアカンパニーへと舵を切ったのもそのためです。
ここ数年のIT業界で起きた根本的な変化としては、消費モデルが挙げられると思います。クラウドの世界では、ユーザーは「使った分だけ払う」課金形態でインフラを消費しますが、当社は、オンプレミスのHCI製品においてこのようなサブスクリプション型のモデルをもたらしました。当社のチャネルパートナーにも、ハイブリッドクラウドの基盤は、プライベートであれパブリッククラウドであれ、その両方でサブスクリプション型が基本になることをご理解いただけるようになってきました。
――アプライアンスからソフトウェアにビジネスモデルを転換したことで、日本市場では日立製作所や富士通などを通じた新たな提供形態が生まれました。従来、Dell EMCやレノボのハードウェアを用いたOEM製品もありましたが、それらとの違いは何でしょうか。
日本国内のハードウェアパートナーと連携して当社のソフトウェアを提供するという考え方は、グローバルではヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)と行っている連携と同種の取り組みです。製品としては従来のOEMと大きな違いはありませんが、お客様から見たときの違いはサポート形態にあります。従来は当社に直接お問い合わせをしていただきましたが、新たな提供形態においては、日本のハードウェアパートナーを通じてサポートを提供する形になっています。
――伝統的な日本企業の性質を考えると、それまで付き合いのあったベンダーからサポートが提供される形態には安心感がありますね。
その通りです。ただ、お客様が当社の製品に何を求めているかを知るという観点では、当社としてサポートを提供することも重要です。大切なのは、お客様に選択肢を提供するということだと考えています。
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